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モダングリルの原点、パーク ハイアット 東京「ニューヨーク グリル」を振り返る

東龍グルメジャーナリスト
パーク ハイアット 東京「ニューヨーク グリル」

ニューヨークで注目されているホテル

今ニューヨークで最も注目されているホテルはどこでしょうか。

それは2014年8月19日にオープンしたパーク ハイアット ニューヨークです。

同じハイアットグループのアンダーズはニューヨークに既に2つもありましたが、パーク ハイアットは全世界に34もありながらもニューヨークにはまだありませんでした。ハイアットグループの中で最もラグジュアリーなブランドがこれまで世界有数のビジネス都市であるニューヨークになかったと聞いて驚く人は多いでしょう。

このパーク ハイアットが満を持してニューヨークにオープンしたということで世間の耳目を集めているのです。

肉ブームの先駆け

日本では肉がとても人気となっていて、赤身肉がフォーカスされたり、薪や窯を使って焼いた肉が取り上げられたり、熟成肉を扱ったレストランが増えたりしています。

こういった肉ブームの先駆けとなったデートにも使えるオシャレなグリルレストランはどこかご存知でしょうか。

それは、レストランガイド本「ザガット サーベイ 東京のレストラン」(2013年版をもって終了)で5年連続1位を獲得したこともあるパーク ハイアット 東京のニューヨーク グリルです。

アニバーサリーを祝したフェア

このニューヨーク グリルがあるパーク ハイアット 東京が2014年7月9日に20周年の節目を刻み、アニバーサリーイヤーを祝して「パーク ハイアット ファイネスト」と謳われるフェアを行っています。

先に述べたパーク ハイアット ニューヨークの総料理長であるセバスティアン アーシャンボー氏が11月13日から15日にかけて来日し、ニューヨーク グリルでスペシャルディナーを行っているのです。

話題となっている2つのパーク ハイアットがこのようなコラボレーションを行ったのには、どういった背景があったのでしょうか。

開業と節目を祝す

PRエグゼクティブ 石川さや子氏は「パーク ハイアットは日本では新宿だけにしかない」と切り出し、「都会の喧騒を離れた大人の隠れ家をコンセプトにし、ビルの高層階へ入居したことは、オープン当時はとても画期的なことであった。こういったコンセプトが受け入れられたからこそ、開業20周年の節目を迎えられた」と狙いが成功したことを振り返ります。

パーク ハイアット ニューヨークに関しては「ニューヨークに進出する機会を窺っていた。立地や時期をよく鑑みていたが、ようやくオープンすることができた」と述べます。

こういった背景を前提として「念願であったパーク ハイアット ニューヨークの開業とパーク ハイアット 東京の開業20周年を祝し、お客さまにより楽しんでいただくために、両ホテルのコラボレーションを実現した」と展開します。

ニューヨーク グリルへ導くかのように

今回のコラボレーションの特徴を訊くと「本場ニューヨークのグリル料理を司るセバスティアン アーシャンボー総料理長が、豊かで質の高い日本の食材を惜し気なく使って腕を奮った。これまでにはないメニューを召し上がることができる貴重な機会」と力を込めます。

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さらには「パーク ハイアット 東京は、まるでニューヨーク グリルへ導くかのような造りとなっている」と述べ、どういうことかを尋ねると「ホテル正面玄関の2階からエレベーターに乗ると、上昇していくにつれ明るくなり、気分が高められる。41階のロビー階に降り立ち、ジョン・モーフォード氏がデザインした都会的なインテリアの空間と荘厳なライブラリを抜けて、専用エレベーターで52階へと上がる。エレベーターの扉が開かれると、目の前には何も遮ることのない無限の絶景が広がっている」と、ニューヨーク グリルに至るまでの計算された緻密な演出を述べます。

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カリフォルニアワインを広めた

ニューヨーク グリルについては、まだ語り尽くせません。

続けて石川氏は「シーザーサラダやカリフォルニアワインを広めたのもニューヨーク グリルであった。シーザーサラダは今でこそカフェやダイニングで食べられるが、当時はほとんど知られてさえいなかった。当初よりカリフォルニアワインの素晴らしさに着眼し、カリフォルニア産を中心にアメリカのワインを140種類1800本も取り扱っており、希少なワインも少なくない」と先見性を示します。

グリル料理が適している

そもそも、通常は最上階の素晴らしいロケーションにフランス料理店を据えたりするものですが、どうしてグリルレストランを据えたのでしょうか。

これについては「地上235メートルの高さにあり、天井高約8メートルとなる広大な空間をどう生かせばよいのかと考えた。その結果、レストランからバーまで一体感のある造りにすると共に、全面オープンキッチンにして臨場感を演出することにした。こういったスタイルでは、かしこまったフランス料理ではなく、ダイナミックなグリル料理が適していると判断した」と歴史を遡ります。

話は現在に戻り、「この20周年の節目を機会に、改めてニューヨーク グリルのよさを知っていただきたい。そのために3日間限定でコラボレーションを行う」と石川氏が熱を込めて語るスペシャルディナーをご紹介しましょう。

マヤ 1995とコンティニュアム プロプライアタリー レッド 2010

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どちらとも希少で高価なワインです。以前まではニューヨーク グリルにしかありませんでしたが、カリフォルニアワインの価値が高まるにつれて、他でもようやく見掛けられるようになりました。

冷たいシュリンプのポットパイ ブリオッシュのトースト 水菜

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アメリカのポットパイは温かいものですが、冷たい前菜としてアレンジしています。ブリオッシュをトースト風にして、ライムゼストのパウダーとチリパウダーを散らして。大きな海老の下には生クリーム、タバスコ、甲殻類のエキスを合わせたスープを。トップには水菜が散らされていて面白い取り合わせです。アメリカの家庭料理と日本のローカル食材を合わせた一品といえるでしょう。

ビーフコンソメ ホースラディッシュとクリスピーポテト

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日本のしゃぶしゃぶからインスピレーションを得た傑作。目の前で牛肉のエッセンスが凝縮されたビーフコンソメをかけて、米沢牛のブロックに熱を与えてくれます。紅芯大根、黒大根、ラディッシュ、青首大根を合わせて、まるで大根のエキシビジョン。米沢牛の上にはホースラディッシュ パールを据えています。

ローストしたアンコウのスモーク 豆にブレゼとベーコン チェリートマト バーボン風味のジュ

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火入れが難しいアンコウはスモークした後に円柱状にし、均等に熱が入るようにしてからスチーム、最後にローストして手間を掛けています。ベーコンとスモークベーコン、キドニービーンズのようなアメリカの黒豆のラグーと合わせています。力強いバーボンのソースと、フレッシュなセージの葉が印象的です。

北海道産和牛サーロインのグリル ハッシュブラウンとビーフジャーキー レッドワインソース

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北海道産和牛サーロインは脂がたっぷりなので、グリルするとちょうどよい加減になります。赤ワインのビネグレットソースでメリハリを付けて。円柱状の薄いハッシュドブラウンは、神戸ビーフの脂で揚げるというこだわりようです。その上にはフレッシュな葉野菜とビーフジャーキー。素材の素晴らしさを引き立てるために、全体的にシンプルにまとめあげています。

ブラック&ホワイトスモア ピーナッツのアイスクリーム

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マシュマロとチョコレートをサンドしたアメリカのお菓子であるスモアに見立てていますが、マシュマロとビターチョコレートのクッキーはあえて崩しており、プレゼンテーションはとてもモダンに。ピーナッツアイスクリームはコクが深く、ホワイトチョコレートのパウダーは華やかです。

タイムレス

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パーク ハイアット 東京2階正面エントランスの上には、女優でもあり陶芸家でもある結城美栄子氏がデザインした「ガッツィー」と命名されたマスクが飾られています。ここを通って中へ入ると、水の惑星である地球をイメージした水と水草のオブジェがあり、その足元には時計と手帳のオブジェがさりげなく置かれています。

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案内した石川氏は「エントランスの扉から先は非日常が広がっていることを、マスクが暗示している」と話し始め、「パーク ハイアット 東京の重要な考え方に<タイムレス>がある。時計と手帳を置き去りにして、時間も予定も忘れてゆっくりと過ごしていただきたいという思いがある」と語ります。

<マスク>=<仮面>には2つの用途があると言われており、ひとつは日本の宗教的な儀式のように自分以外の何者かへ変化するために、もうひとつは仮面舞踏会の参加者のように自分自身の顔を隠すために用いられます。

パーク ハイアット 東京のマスクはこれまでの20年間、大都会東京に跋扈する退屈な日常を覆い隠し、はるか関東一円を魅惑的に見下ろすニューヨーク グリルの非日常へと数多くのゲストをいざなってきました。ニューヨーク グリルがこれからも時を忘れさせてくれるグリル料理と空間を提供し続けてくれる限り、ガッツィーがその役目を終えることはありません。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

参考

ニューヨーク グリルについてはレストラン図鑑にも詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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