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フェイスブック メッセージの飲食店予約は誰かを不幸にしないか?

東龍グルメジャーナリスト

フェイスブック メッセージ機能拡充

ロイターから「米フェイスブック、メッセージ機能拡充 飲食店予約など可能に」という記事が配信されて話題になっています。

この記事から派生する意見として「LINEと同じ方向に向かっている」「メッセージ機能が複雑になりそう」「決済から予約まで押さえると脅威」「日本の企業も奮闘してほしい」というものがよく見掛けられますが、私は全然違ったことを感じていました。

それは「飲食店を簡単に予約できてよいのか」ということです。

ドタキャンおよび無断キャンセル問題

「フードポルノにまつわる議論よ、再び」という記事で触れた写真撮影問題と同じように、レストランには<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>が以前からあります。

昨年12月にレストラン予約システム会社「TORETA」が<予約のドタキャンする人は仕事も出来ない、モテない「空気読めない人」>という記事を公開し、これを受けて今年3月「ロケットニュース24」が<飲食店向け予約システム会社の社員がブログで激白「レストランの予約をドタキャンする人は仕事ができないしモテないし空気も読めない」>という記事を公開したことで、議論が再燃しました。

飲食店を苦しめている

TORETAが公開した記事の趣旨は以下に凝縮されています。

「予約のキャンセル」を軽く考えないでください。

冗談じゃなく、 飲食店さんの死活問題に関わるので

ドタキャン&ぎりぎりのキャンセルは、ホントにホントにやめましょう!

出典:TORETA

飲食店は箱モノなので、閑散期の不足を取り戻すべく、繁忙期に稼がないと死活問題となります。そのためイベント時期である12月の売上は命綱となっているわけですが、予約がとれない超人気店でさえもドタキャンや無断キャンセルが多く、飲食店を苦しめているのです。飲食店に対してだけではなく、満席だからと予約を断られた人にも悪いという議論もありますが、論点がずれるので深入りしません。

記事の最後で自社の予約システムをPRしているのはとても分かり易い帰結なのですが、この<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>は冗談を抜きにして根が深いです。

利益が飛んでしまう

分かり易くするため具体的にシュミレートしてみると、ドタキャンや無断キャンセルが1組あると、その座席は完全に<機会損失>となり、それなりのフレンチであれば1テーブル2人席で売上2万5千円くらいが飛んでしまいます。

これが150席くらいでアルバイトだらけのアメリカンダイナーのような業態だったらまだよいのですが、20席程度でソムリエを雇用している高級フレンチにもなると、売上が1割減るだけではなく用意した食材も無駄になり、その日の利益がかなり失われてしまいます。

インターネットが普及したことにより、Webやメールで簡単に予約できるようになったことは、飲食店の利用促進によかったのですが、同じようにWebやメールで簡単にキャンセルもできるようになったので、<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>が再燃しました。

フェイスブックで回避

ただ、この現状に飲食店も手を拱いているわけではありません。フェイスブックを利用して<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>を上手に解決するようにしている飲食店もあります。

フェイスブックでよく「今夜18時から2人席が空きました」「団体様がキャンセルしたので、金曜日は予約可能です」といった投稿を見掛けるようになりました。フェイスブックでシェフとつながっているような人は、それなりのグルマンであったり、つながっているシェフのファンであったりするので、こういった投稿を見掛けると、高い確率で来店して穴を埋めてくれるのです。

フェイスブックはTwitterと違って、つながっているのは顔を会わせたことがある人なので、より親身になってくれるということもあるのでしょう。

問題を生み出さないように

フェイスブックは<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>の解決に一役買っていましたが、フェイスブックが予約システムを抱えると別の様相を呈してきます。

と言うのも、まだ詳しい仕様は分からないものの、「予約できるシステムを提供するのであれば、その予約をキャンセルするシステムも提供する」ことになりそうだからです。

飲食店予約という機能を提供する以上は簡単に予約できるように努めるはずですが、これと同じように簡単にキャンセルできるようにしてしまうと、フェイスブックが自ら<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>を発生させるシステムになってしまうのです。

インターネットの普及によってWebやメールからの予約は増えましたが、<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>が発生し、これをインターネット界の寵児であるフェイスブックが見事に救出したかと思いきや、自ら拡張させたフェイスブック メッセージによって<ドタキャンおよび無断キャンセル問題>を生み出してしまってはもったいないと思います。

「禍福は糾える縄の如し」とはよく言ったものですが、福となっても決して禍とならないように、フェイスブックには配慮して飲食店予約を実装してもらいたいものです。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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