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Rettyが編集長を募集したことの意味を考える

東龍グルメジャーナリスト

編集長を募集

Retty株式会社がグルメメディア編集長を募集しています。私はFacebookでつながっているCEO武田和也氏の投稿を見て知ったのですが、これは非常に意味のあるものだとすぐに感じました。

理由は次の通りです。

Web系グルメのメディアは、「がっかりグルメ記事における3つの特徴」で指摘したようなこともあって玉石混交はあるものの、紙からの以降が後押しして、書き手はある程度集まってきたように感じていました。しかし未だに編集の力が弱いと感じていたからです。

(私はグルメ以外のことはよくわからないので、あえて「Web系グルメ」と記しています)

ディレクタと編集者

Web系グルメではページ制作をリードするという役割においてディレクタは必要ですが、ディレクタがそれ以上のことを任されることが多いです。つまり、本来であれば、ページに掲載される内容をコントロールすることと、ページを開発することは別物なのですが、Web系グルメでは一緒くたになってしまっているということです。

これは全くよいことではありません。

なぜならば、Webの技術を理解しつつページを制作することと、そのことを前提とした上で中をどう構成していくこととは、考えることが全く異なっているからです。この2つを任されてうまくいくことは難しいでしょう。

Rettyと食べログ

Rettyの場合には、ユーザが投稿したクチコミを主軸に置きながらも、私も参加させていただいている「グルメ著名人」なるものを展開していたり、レストランのまとめを作ったり、グルメの流行からウンチクを紹介したりと、かなり記事にも力を入れています。

こういったところは、食べログなどのようにユーザーが投稿したものだけでほとんど構成されるCGMとは違って、編集力が必要になるでしょう。

グルメ編集

グルメ編集には、以下の要素も必要です。

  • フードやレストラン、ドリンクのジャーナリストやライターと人脈がある
  • レストランやホテル、ワインや酒造、メーカーにコネクションがある

こういった要素がないディレクタが記事をコントロールすれば、よく分かっていないジャーナリストやライターが書いたり、納得性のない店が選出されたり、トレンドではないものが跋扈したりするのです。

グルメ業界における作法

他の業界も同じだと思いますが、グルメメディアにも、グルメ業界における作法があります。

例えば、どうすれば最新の情報を得られるのか、プレス発表会はいつどの時期にどのように行われてどれくらい重要なのか、スターシェフにどうすればインタビューできるのか、どういった書き手が存在していて誰が何に詳しいのか、書き手の原稿料のさじ加減はどういった塩梅なのか、取材経費の交渉はどれくらい融通が利くのか、誰にどの程度どういった接待(お付き合い)をすればよいかなど、色々とあります。

こういったことは、残念ながらディレクタでは想像も及ばないことでしょう。特にRettyのようにグルメに特化したメディアでは重要な作法です。

編集長に期待

ここまで述べてきましたが、正直に言うと、武田氏のように、このようなオープンな方法で、Web系グルメメディアの編集長を募集しているのを見たことがなかったので、ただ興奮しているだけなのです。

しかし、敏腕編集長が新たに着任した暁に、グルメ著名人なる切り口がなかったものにされたり、私の昔の記事が見直されたりしたら、少し残念には思うかも知れませんが、そこから「全国の実名レビュアーの信頼できる口コミを検索することができます」と謳っていたRettyが、ユーザ以外による記事の質を上げて、他のいい加減なグルメ記事を完全に淘汰するようなことがあるとすれば、私自身や私の記事がRettyの血となり骨となったと勝手に思い込むことができるので、グルメ好きとしても非常に応援したい気持ちがあります。

情報が氾濫するようになってからようやく、Webのメディアにも編集力が必要であると理解されてきていますが、グルメにも同じ波が押し寄せているようで嬉しく感じます。

Rettyに新たなグルメ編集長が就任するのが、今から楽しみで仕方ありません。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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