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1店1本3000円の特撰ガトーショコラから、4900店1つ190円のコンビニスイーツへ

東龍グルメジャーナリスト

スイーツ専門店

スイーツの専門店というと、どういったものを思い浮かべますか。

以下のような店があります。

  • ミニャルディーズ専門店

「アン グラン」

  • 野菜スイーツ専門店

「パティスリー ポタジエ」

  • パウンドケーキ専門店

「パブロフ」

  • マカロン専門店

「マカロン エ ショコラ」

  • ロールケーキ専門店

「自由が丘ロール屋」「アリンコ」

  • パイ専門店

「リトル・パイ・ファクトリー」

  • カップケーキ専門店

「ローラズ・カップケーキ」

  • ワッフル

「エール・エル」「ママズワッフル」

  • フレンチトースト

「アイボリッシュ」

  • シュークリーム

「シュクリムシュクリ」「クレーム デ ラ クレーム」「ビアードパパ」

  • かき氷

「yelo」「アイスモンスター」

  • ポップコーン

「ククルザポップコーン」「ギャレット ポップコーン ショップ」

ざっと軽く挙げただけですが、このように多くのスイーツ専門店があります。マカロンやカップケーキ、パンケーキやフレンチトーストなど、様々なスイーツ専門店がありますが、いずれの店にせよ、いくつもの異なった種類のメニューを用意しています。どういうことかと言うと、例えば、パンケーキ専門店であっても、プレーンのパンケーキだけを提供しているわけではなく、ストロベリーパンケーキやチョコレートパンケーキも提供していたり、季節に合わせて期間限定のパンケーキも提供したりしているということです。

いくらスイーツ専門店であっても、1つのメニューだけで勝負するのはとても困難なことでしょう。理由はいくつかあります。メニューが1つだけしかなければ、変化をつけられないのでメディアへの露出は減りますし、色々なバージョンを作れなくなるので多くの人の好みに対応することも難しくなります。つまり、戦略が極度に限られてしまうのです。従って、よほど強いインパクトがない限り目立つことはありませんし、とても完成度の高いスイーツでなければすぐに飽きられてしまいます。

たった1つのスイーツ

ケンズカフェ東京「特撰ガトーショコラ」
ケンズカフェ東京「特撰ガトーショコラ」

そういった状況の中で、本当にたった1つのスイーツ、1つのメニューだけを販売し、それでいて、常に存続感を示しているところがあります。それは、「特撰ガトーショコラ」を販売している氏家健治氏の「ケンズカフェ東京」です。こういったところこそが、まさに本当のスイーツ専門店と言えるのではないでしょうか。

ケンズカフェ東京の特撰ガトーショコラは、その名が示す通り、カルピスバターや後に挙げるフランス高級メーカーのチョコレートを使った商品であり、税込みで1本3000円という高い値段で販売されています。これで売れるのかと訝るところですが、贈答用として不動の地位を確立しているがために、好況時でも不況時でも関係なく需要があり、この値段帯で販売することができたのです。

メディア露出と受賞歴

メディアでの反響も大きいです。

2008年に「とんねるずのみなさんのおかげでした」で藤井フミヤ氏に紹介されたことを起点とし、テレビや雑誌でよく紹介されています。それだけではなく、「食べログ」では4.0点を優に超えており、一般の消費者からの評価も高いのです。さらには、以下のように受賞歴に至っては枚挙の暇がありません。

  • 「JAPAN SWEETS AWARD 2016」TOP50
  • 「食べログ ベストスイーツ チョコレート部門」で2013年から2015年まで1位
  • 日本ギフト大賞「日本ギフト大賞2015 東京賞」受賞
  • Yahoo! JAPAN「日本の定番選定委員会認定 厳選スイーツ100選」選定
  • TBSテレビ「ランク王国」、「絶対に外さない手土産スイーツおすすめTOP10」1位
  • 資生堂「全国ご当地スイーツ総選挙」東京エリア1位

また、氏家氏は2014年に「1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ 4倍値上げしても売れる仕組みの作り方」をソフトバンク新書から上梓しています。北は北海道から南は香川まで、全国各地で講演会を行い、もはや文化人という位置に達しているとみなしてよいでしょう。

ファミマ!!とコラボレーション

このようにケンズカフェ東京は、特撰ガトーショコラだけで十分に存在感を示していますが、今度はコンビニエンスストアとコラボレーションして、全国的にスイーツを展開することになりました。2015年12月8日から東京都、神奈川県、千葉県の「ファミマ!!」(後述する「ファミリーマート」とは異なります)31店舗で以下の3商品を発売したのです。

  • ガトーショコラ 360円(税込み)

「特撰ガトーショコラ」をイメージし、チョコレートを43%配合

  • クレームショコラ 280円(税込み)

チョコレート、卵黄、クリームを使用し、なめらかな食感と濃厚な味わいを実現。特殊プリン窯で焼き上げている

  • ショコラパルフェ 298円(税込み)

ベイクドチョコ、ムース、クッキー、ガナッシュと3層のチョコレートから成る

高級路線をいく「ファミマプレミアムシリーズ」と比べても値段が高くなっており、コンビニエンスストアのスイーツにしては高いクオリティに仕上がっています。しかしそれにしても、氏家氏は、特撰ガトーショコラしか作らないほど商品のクオリティにこだわりますが、大衆をターゲットにしたコラボレーションではどうだったのでしょうか。

クオリティを担保する理由

以下の3点から、氏家氏が納得するようなクオリティが担保されているのだと私は考えています。

  • 「ヴァローナ社」チョコレートを使用
  • マーチャンダイジング「ロピア」が開発
  • 工場の生産体制が完備

まず1点目です。実は特撰ガトーショコラには、今では知る人ぞ知る最高峰のチョコレートメーカー「ドモーリ社」のオリジナルグランクリュショコラ「KEN’S」が使用されていますが、それまではヴァローナ社のチョコレートが使用されていました。そして、このコラボレーションのスイーツでもヴァローナ社のチョコレートが使われているのです。氏家氏が以前こだわって使っていたヴァローナ社のチョコレートを使えるということもあり、クオリティの高い商品を開発できそうだと納得いったのではないでしょうか。

「ロピア」が開発
「ロピア」が開発

次の2点目には、マーチャンダイジングが「ロピア」だったことが挙げられます。マーチャンダイジングとは以下のように説明されているものであり、つまるところ、この場合には、コンビニエンスストアの商品を開発する企業のことなのです。

マーチャンダイジング (merchandising) とは、一般的には、消費者の欲求・要求に適う商品を、適切な数量、適切な価格、適切なタイミング等で提供するための企業活動のこと。「商品政策」「商品化計画」。「MD」と略されることもある。

出典:Wikipedia

ロピアはコンビニスイーツを開発する会社であり、氏家氏曰く「火入れが得意で、焼くことに関してはずば抜けている。層にして焼くことは難しいが、これなら十分に安心して任せられる」という強みがあるので、コラボレーションする決心が付いたのです。

最後の3点目になります。ファミリーマートは、2015年10月にコンビニエンスストア業界として専門店と同じ工程でチョコレートを生産できる機械を初めて導入しており、本格的なチョコレートのスイーツを生産できるようになりました。これにより、クオリティの高いチョコレートスイーツを現実的に大量生産できることになったのです。このような機械を導入したことからも、ファミリーマートがチョコレートスイーツに懸ける熱意が分かるでしょう。この本物志向は、氏家氏の考えに通じるところがあるのではないでしょうか。

こういった経緯の中で作られた3商品は、値段は高いですが、あのケンズカフェ東京の特撰ガトーショコラのエッセンスを感じられるということで、競争が激化しているコンビニスイーツ戦線を勝ち抜き、消費者から高い評価を得ることができました。

ファミリーマート4900店舗へ

第1弾が好評だった結果を受けて、第2弾として今度は、チョコレート商戦の大本番であるバレンタインデー期間の2016年2月5日から、関東地方の「ファミリーマート」約4900店舗で、第1弾とは別の3商品を以下の通り発売する運びとなったのです。

「ショコラ・フロマージュ」「チョコレートプリン」「プチガトーショコラ」
「ショコラ・フロマージュ」「チョコレートプリン」「プチガトーショコラ」
  • プチガトーショコラ 198円(税込み)

フランス産最上級チョコレートを使ったガトーショコラ。しっかりとした固さとチョコレートの濃厚な口どけが楽しめるガトーショコラに仕上げました

  • ショコラ・フロマージュ 198円(税込み)

フランス産最上級チョコレートを使ったフロマージュです。チョコレートの濃厚さとチーズの爽やかさにココアクランブルで食感を加えました。

  • チョコレートプリン 190円(税込み)

フランス産最上級チョコレートを使ったプリンです。プリン専用窯で焼きあげた、濃厚なとろける食感が特徴のチョコプリン。

※説明はいずれともプレスリリースから

前回と同じようにヴァローナ社のチョコレートが使われていますが、もう少し多くの人をターゲットにしようと、前回よりもボリュームを少なくし、値段も下げているところが、第1弾とは異なります。味ではなくマーケティングの方針を変更したと考えてよいでしょう。

ファミリーマートの意図

2月5日から発売するということは、ファミリーマートがケンズカフェ東京とのコラボレーション製品をバレンタイン商戦にぶつけるということであり、主力商品のうちの1つであるということは間違いありません。

では、ファミリーマートはどうして氏家氏とのコラボレーションを考えたのでしょうか。私は次のように考えます。

「セブンイレブン」が「濃厚くちどけのガトーショコラ」という商品で大ヒットを飛ばしていることもあり、ファミリーマートもチョコレートのスイーツに力を入れていました。ケンズカフェ東京とのコラボレーションの少し前、2015年10月には「chocolateガナッシュ」を発売していましたが、売れ行きはそれほど芳しいようではありませんでした。そのため、より本格的で本物志向のチョコレート商品を模索していたのではないでしょうか。

また、ファミリーマートとしては1本3000円という高価な特撰ガトーショコラを販売するケンズカフェ東京とのコラボレーションであれば、単価を容易に上げられます。もちろん、ケンズカフェ東京のようにネームバリューがあるところと組めることも理由の1つだったはずです。実際に特撰ガトーショコラのあのケンズカフェ東京がコンビニエンスストアとコラボレーションするという意外性は驚きをもって伝えられ、インターネットのSNSやニュースで拡散されています。

ガトーショコラのおいしさを伝えたい

ケンズカフェ東京の特撰ガトーショコラは、ドモーリ社のオリジナルグランクリュショコラ「KEN'S」、カルピスバター社の「特撰カルピスバター」、昔の味たまご農場社の「昔の味たまご」と贅沢な素材を使ったチョコレートスイーツであり、1本3000円と高額でありながら年間6万本も売れるという驚くべきドル箱商品です。この特撰ガトーショコラはケンズカフェ東京が販売している唯一無二の商品であり、ケンズカフェ東京の全てであると考えてもよいですが、この特撰ガトーショコラのレシピを「ぐるなびレシピ」で公開しているのです。普通はたった1つの商品を守ることだけを考えるので、強豪を恐れてレシピを公開することなどできません。

この不可解とも思える行動の理由を氏家氏に問うと「ガトーショコラのおいしさをより多くの人に知ってもらいたい」という至極シンプルな答えが返ってきたのですが、ガトーショコラやチョコレートスイーツのよさをより多くの人に知ってもらいたいという思いが心の奥底にあるからこそ、これまでよりも遥かに多くの人にガトーショコラの素晴らしさを伝えるためにコンビニエンスストアとコラボレーションしたのではないか、そして、それはとりもなおさず、ケンズカフェ東京が、スイーツ通や本当においしいものを知悉している人だけの特別な存在から、誰でも知っている身近にある品のよいチョコレートスイーツを食べさせてくれる存在になるということであり、このバレンタインデーがケンズカフェ東京の過渡期を味わえる貴重な機会であるのではないかと、私は思うのです。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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