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3000円高級ガトーショコラのケンズカフェ東京によるコンビニクリスマスケーキを理解するための3つの点

東龍グルメジャーナリスト
ケンズカフェ東京の氏家健治氏監修「クリスマスショコラケーキ」(ファミリーマート)

クリスマスケーキ

今年2016年は、ホテルのクリスマスケーキを以下のように追って紹介してきました。どこのホテルもこの年に一度の商戦を逃さぬよう、より多くのメディアに取り上げてもらい、販促につなげられるようにと、クリスマスケーキ発表会を行ってきました。

ホテルは町場のパティスリーに比べればずっと規模が大きいので、コストをかけてまで、このように大々的な発表会を行う価値があります。

ホテルの規模は確かに大きいですが、実はホテルよりも大きな規模で、より多くの種類のクリスマスケーキを販売しているところが2つあります。

1つが集客力のある催事場とオンラインシステムを構築している百貨店であり、そしてもう1つが全国を実店舗で網羅しているコンビニなのです。

コンビニのクリスマスケーキ

この2つのうち、全国に実店舗を展開しているコンビニがクリスマスケーキの販売場所として最大と言って間違いないでしょう。

コンビニ大手3社における2016年のクリスマスケーキの種類数を見てみると、ホテルの平均である6種類よりも圧倒的に多いです。

  • セブンイレブン

27種類

  • ファミリーマート

18種類

  • ローソン

24種類

コンビニは、クリスマスケーキに対してそれほど強い関心を抱いていない全国の老若男女をターゲットにしているだけあって、実に様々なクリスマスケーキを販売しています。それが、これだけの種類数を取り揃える理由となっているのです。

では、それぞれのコンビニクリスマスケーキの特徴は何でしょうか。

  • セブンイレブン

SNSを意識して見た目を重視

  • ファミリーマート

人気店が監修した本物志向

  • ローソン

アレルギーに配慮し、糖質を抑えた健康志向

王者セブンイレブンはSNSなどで拡散されるように見た目を重視し、ローソンは昨今のヘルシーブームを鑑みて、アレルゲンを排除したり、糖質を抑えたりして、健康に気を遣う人にも購入し易いようにしています。

ファミリーマートはどうかと言えば、この3社の中では最も種類数が少ないですが、この理由は本物志向にこだわったからなのです。

レ・アントルメ国立のえび澤信次氏(※)が監修した「ミルフィーユ・シャンティ」やケンズカフェ東京の氏家健治氏が監修した「クリスマスショコラケーキ」を販売して、他のコンビニとは異なり、プロ仕様のクリスマスケーキを目指しています。

クリスマスショコラケーキ

ケンズカフェ東京らしい赤を使ったケーキの箱
ケンズカフェ東京らしい赤を使ったケーキの箱

えび澤氏(※)は有名な老舗パティスリーのオーナーシェフであり、過去にもコンビニクリスマスケーキを監修しています。

その一方で、氏家氏は「1店1本3000円の特撰ガトーショコラから、4900店1つ190円のコンビニスイーツへ」でも紹介したように、高級ガトーショコラ専門店のオーナーシェフであり、コンビニスイーツは手掛けているものの、コンビニクリスマスケーキは今回が初めての監修となります。

氏家氏が今回初めてコンビニクリスマスケーキを監修したことについて、以下3つの点に注目して、背景を紐解いていきたいです。

  • パティスリーではなく、専門店であること
  • ショートケーキではなく、チョコレート商品であること
  • ガトーショコラではなく、チョコレートケーキであること

パティスリーではなく、専門店であること

これまでにも、コンビニのクリスマスケーキを有名なパティシエが監修することはありました。例えば、氏家氏と今回同じくファミリーマートで監修しているえび澤氏(※)は2015年にもファミリーマートで監修していますし、「マルメゾン」の大山栄蔵氏は2014年にセブンイレブンで監修しています。

百貨店に目を向けてみると、パティスリーの監修は枚挙に暇がないほどで、2016年に限ってみるだけで、伊勢丹であれば「モンサンクレール」「パティスリー ヨシノリ アサミ」「マテリエル」「アトリエコータ」「パティスリー ジュンウジタ」「アラボンヌー」「リョウラ」「アカシエ」「パティスリー パクタージュ」などが、高島屋であれば「パティスリー ラ・ローズジャポネ」「アステリスク」「パティスリー アプラノス」「パティスリー エチエンヌ」「パティスリー ヴォワザン」「パティ スリー レザネ フォール」「パティスリー ユウ ササゲ」などが監修しています。

パティスリーに監修してもらう理由は、オリジナルクリスマスケーキを作ってもらうことにより、他と差別化を図って付加価値を高めるためであり、今では全く珍しいことではありません。

しかし、氏家氏のようなガトーショコラだけを専門に作っているところが監修するとなると、事情が異なってきます。と言うのも、パティスリーであれば様々なケーキを普段から作っていますが、専門店であれば全くゼロからの商品開発となり、パティスリーに比べれば容易ではないからです。

では、どうして、1本3000円という高級ガトーショコラを専門に販売するケンズカフェ東京がコンビニクリスマスケーキを作ることになったのでしょうか。

ケンズカフェ東京は第1弾となるコンビニスイーツを2016年2月に監修して成功し、それを受けて2016年7月に第2弾も監修し、同様に成功を収めましたが、この時にマーチャンダイジングを担当していた企業がロピアでした。

このロピアがコンビニスイーツの成功体験を受けて、コンビニクリスマスケーキもどうかと氏家氏に企画を持ち掛け、ロピアを信頼している氏家氏が監修を承諾したのです。その後、共にクリスマスケーキを開発し、ファミリーマートでのコンペティションに勝って販売するに至りました。

つまり、今回のコンビニクリスマスケーキは、コンビニスイーツの成功の延長線上にある商品といいうことなのです。

ショートケーキではなく、チョコレート商品であること

クリスマスケーキ開発について、もう少し踏み込んでみましょう。

氏家氏が監修してクリスマスケーキを作るということになり、ロピアはファミリーマートに向けて、氏家氏が得意とするチョコレートを使ったクリスマスケーキでプレゼンテーションを行いました。しかし実は、クリスマスケーキの市場において、チョコレート商品はそれほど有利であるとは言えません。

ホテルのクリスマスケーキ発表会でも目を引く個性的なクリスマスケーキがたくさん発表されました。こういったクリスマスケーキが話題となって取り上げられるのはもちろん意味があることでしょう。

しかし、氏家氏が「クリスマスケーキであれば、チョコレートを使ったものではなく、ショートケーキを作りたかった」と冗談で述べるように、各ホテルやコンビニで最も売れ行きがよいのは結局、生クリームとジェノワーズ生地とイチゴから構成されたクリスマス仕様のショートケーキなのです。

そういった状況の中で氏家氏は自身が得意とするチョコレートを使ったクリスマスケーキを作ることになりましたが、「大人のチョコレートケーキをテーマに据え、本格的なチョコレートを使った」と質に自信を持ちます。

それもそのはずで、氏家氏が監修した「クリスマスショコラーケーキ」はフランスの高級チョコレートメーカーであるヴァローナ社の「エクアトリアール・ノワール(EQUATORIALE NOIRE)」をメインに使っています。上部のグラサージュだけは仕入れ量が調整できなかった関係でヴァローナ社のチョコレートではありませんが、それでもフランス産のチョコレートを使っており、品質にこだわったクリスマスケーキに仕上がっているのです。

「エクアトリアール・ノワール」を選んだ理由を訊くと、「カカオ55%のチョコレートで、カカオバターの配合比率が高い。使い易くて、風味もバランスがとれている。高級チョコレートだが、多くの人に受け入れてもらえるので選んだ」と明快に答えます。

クリスマスケーキの中で最も人気のあるショートケーキではありませんが、氏家氏は自分自身も納得できるクリスマスケーキを作り上げたのです。

ガトーショコラではなく、チョコレートケーキであること

ところで、ケンズカフェ東京と言えばガトーショコラというくらい、多くのグルメ通に知られています。

それなのにどうして、氏家氏はケンズカフェ東京のガトーショコラをアレンジし、クリスマスケーキとして販売しなかったのでしょうか。

実を言えば、ロピアは「クリスマスショコラケーキ」だけではなく「ガトーショコラ」についてもファミリーマートへ向けてプレゼンテーションを行っていました。しかし、ガトーショコラはあまりにもケンズカフェ東京のスイーツというイメージが強いこと、これに加えて、もっとクリスマスらしいものがよいのではないかということで、ガトーショコラではなく「クリスマスショコラケーキ」が選ばれたのです。

この結果について氏家氏は「ガトーショコラ以外のケーキにチャレンジするきっかけとなったので、これはこれでよかった」と述懐し、工夫した点について尋ねると、「もっと幅広い層の方に受け入れられるように、アルコールを使わないで食べ易くした」と説明します。

ドモーリのチョコレートが使われたガトーショコラのように、グルメ通がうなるようなものではないものの、ヴァローナのチョコレートを使った「クリスマスショコラケーキ」は万人がおいしいと感じる味わいです。

ガトーショコラとは異なる方向性を打ち出した氏家氏の「クリスマスショコラケーキ」は、現在ファミリーマートのクリスマスケーキ18商品中で2位の予約数(記事公開時点)となっています。

ガトーショコラの日

クリスマスショコラケーキ
クリスマスショコラケーキ

氏家氏は2016年4月に「ガトーショコラの日(9月21日)」を日本記念日協会に申請して5月に認定され、去る9月21日に記念するべき初めての「ガトーショコラの日」を迎えました。

1998年創業のガトーショコラ専門店「ケンズカフェ東京」の氏家健治シェフが制定。ガトーショコラの魅力をより多くの人に知ってもらうのが目的。「ケンズカフェ東京」のガトーショコラは世界最高峰のチョコレートを贅沢に使った究極のガトーショコラと呼ばれている。日付は同店が初めてガトーショコラを販売した日にちなみ9月21日に。

氏家氏にクリスマスケーキの目標について訊いてみると「儲かるかどうかはあまり関心がない。昔はお金を儲けたかったが、今は夢を与えられるようになりたいと思っている。個人店であっても、よいものを作ろうと日々頑張れば、ここまでできるということを伝えたい。みなさんの励みになれば嬉しい」と昔を振り返りながら答えます。

先の「ガトーショコラの日」は氏家氏が初めてガトーショコラを販売した日であり、それと同時に、ガトーショコラの第1人者として責任と誇りを持ってやっていこうと決断した日であるのですが、それが記念日として制定された年の終わりに、多くの人に幸せを与えるコンビニクリスマスケーキで「クリスマスショコラケーキ」を監修することになるとは、氏家氏の人生はチョコレートと共にあるのだとつくづく思うのです。

※Yahoo!ニュース 個人では「魚」偏に「分」と書く「えび」という漢字が入稿できません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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