Yahoo!ニュース

インターネット時代で「残念なグルメ系インフルエンサー」にならないための3か条

東龍グルメジャーナリスト

グルメ系インフルエンサーへの懸念点

<DeNAのWELQ問題から考える、グルメのキュレーターにとって必要なたった1つの当たり前のこと>では、グルメキュレーションメディアにおける問題点を述べさせていただきました。

インターネット時代になって、Webの記事、および、FacebookやTwitterなどのSNSで、多くの人が情報を発信することができるようになっていますが、グルメ系の評論家やジャーナリスト、ライターやブロガー(以降、こういった方を全て含めて、グルメ系インフルエンサーと表記します)について懸念していることがあります。

それは以下の3つです。

  • 自分自身の写真を優先的に撮る
  • プレスリリースをそのまま流用する
  • 多忙をアピールする

自分自身の写真を優先的に撮る

グルメ系インフルエンサーにとって、取材対象となるものは一体何なのでしょうか。

それはもちろん、食です。

ここで述べている食は、広い意味での食になります。まず第一に料理やデザートなどの食べ物であり、これらを構成する食材であり、食材を紡ぎ出している生産者です。さらには、レストランそのものでもあり、料理人やパティシエでもあり、ソムリエやサービススタッフでもあります。

そして、非常に基本的なことですが、この取材対象である食が置き去りにされることがあります。

取材やレセプションへ訪れた時に、料理や料理長、内観などの写真を一生懸命に撮影するのではなく、まず自分自身の写真を撮ることに腐心するグルメ系インフルエンサーが少なくありません。

グルメ系インフレンサーであれば、自分自身はそっちのけでも、料理や料理人の写真を撮影するべきではないでしょうか。例え、本人がどんなに美男美女であろうとも、人気や知名度があろうとも、あくまでも食が主役であるべきで、本人は黒子なのです。

自分自身を撮影することが悪いと言いたいのではありません。グルメ系インフルエンサー自身が露出することによって、店や料理のよさが広まることもあり、それを請われる場合もあります。

しかし、自分自身を引き立てるために、食を利用することがよくないと思うのです。オープンしたばかりの店にいる自分、有名な料理長と一緒にいる自分、オーナーと親しそうにしている自分、話題の料理を食べている自分など、主役が自分自身となっているのです。

自分自身を売りたいのであれば、グルメ系インフルエンサーを名乗るのではなく、芸能人になるべきではないでしょうか。

プレスリリースをそのまま流用する

私が関心を持つことは、どうやってその料理が作られたのか、他の料理とはどう違うのか、どのようにして料理人がその料理を考えついたのか、そこに辿り着くまでにどのような苦労があったのか、というような物語です。何故ならば、そこにおいしさの源泉や想いの深さが宿っていると考えているからです。

料理やデザート、料理人やパティシエの背景を追い掛けることはグルメ系インフルエンサーにとって不可避のものだと思います。

しかし、せっかく料理人やパティシエが側にいて、訊くチャンスがいくらでもあるというのに、全く取材しないグルメ系インフルエンサーがいます。そして、記事ではプレスリリースをほぼそのまま流用するだけです。

プレスリリースはメディア用に配られたものなので、盗用という問題にはなりませんが、プレスリリースをそのまま書いただけの記事に、何か意味はあるのでしょうか。もちろん、情報拡散の一助になっていることは確かですが、それでは他の記事と似通った内容になり、独自の視点はありませんし、新しい物語だって何も生まれません。

こういったグルメ系インフルエンサーは、取材には興味がなく、ただその場にいるだけで満足なのでしょうか。

多忙をアピールする

FacebookやTwitterなど、SNSでの投稿で「忙しくてずっと伺えなかった」「何度も誘いを受けていた」「食べに来てと請われていた」というように、お呼ばれされていたが多忙で訪れることができなかった旨を述べるグルメ系インフルエンサーがいます。

常にたくさんの仕事の依頼がある売れっ子であり、何としても来てもらいたいと認められている重要なグルメ系インフルエンサーであることをアピールしているのかも知れません。しかし、これは、しかるべき食の旬を逃したかも知れないことを意味しています。料理人や料理、食材や生産者に対しても、失礼ではないでしょうか。

また、情報を伝える側としては、自分自身の発信に速報性がなかったということをも意味しています。

こういった観点からすると、グルメ系インフルエンサーとしてはむしろ恥ずべきことであり、誇らしくSNSに投稿するべきことではないでしょう。

最も相応しい時期に訪れ、料理を味わって話を聞き、情報を発信するべきだと考えています。

グルメ系インフルエンサーの3か条

以上のように述べてきましたが、これは私自身にも向けた言葉です。そうならないようにするためにも、以下のような3か条を心に留めておく必要があると考えています。

  • 食を主役にする
  • 生きた話を聞く
  • 旬を大切にする

食を主役にする

自分自身はあくまでも脇役であり、料理や料理人、店を主役にすることが重要です。自分の写真だけはバッチリ撮影するのに、肝心の料理の写真には興味がなく、取材先から商材をもらうのでは、つまらないと思います。商材の方が美しいので使いたいというのは理解できますが、そうであればなおさら、自分の写真だけを一生懸命に撮るのは滑稽であるような気がするのです。

自分自身を売る芸能人であるのか、食を売るグルメ系インフルエンサーであるのか、そこの線引きは意識しなければなりません。

生きた話を聞く

その場の状況や雰囲気にもよりますが、基本的には料理人やパティシエ、ソムリエ、サービススタッフ、広報など、関係者と会話をして、プレスリリースにはない話を聞くことが大切です。そうでなければ、わざわざ現地に行く意味がありません。オリジナルの記事を書くこともできないでしょう。

プレスリリースを確認しながら記事を書くことは必要ですが、プレスリリースはあくまでも事実確認をするものであると認識することが重要だと考えています。

旬を大切にする

適切な時期を逃さずに取材することは、非常に大切です。レストランがリノベーションしたり、料理長が新しく就任したり、期間限定のイベントを行っていたりと、こういったタイミングに合わせて記事を書いて発信することが重要だと思います。

自分自身のスケジュールと取材先のスケジュールが合わない時もあるでしょう。そういった場合には仕方ありませんが、せめて旬を逃したという自覚が必要だと感じます。

グルメ系インフルエンサー

グルメ系インフルエンサーとざっくりまとめていますが、食に関わる発信をしている人すべてを意味しています。インターネット時代になって情報量が爆発的に増えていますが、これはもちろん、その情報を作る側、つまり、グルメ系インフルエンサーも爆発的に増えていることに他なりません。

せっかく多くのグルメ系インフルエンサーがいる時代なので、それぞれがよい取材をして、独自の視点からおいしそうな記事を書いたり、興味深い内容をSNSに投稿したりして、食の魅力がたくさん伝わればよいと願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事