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『花子とアン』 古いのに最も新しい「村岡英治」という生き方

大宮冬洋フリーライター

「この主人公、君みたいで面白いよ」

明日、最終回を迎える連続テレビ小説『花子とアン』。ヒロインの村岡花子(吉高由里子)の夫である村岡英治(鈴木亮平)は、花子が苦労の末に翻訳して出版した『赤毛のアン』を読みながらつぶやく。このシーンを見ているだけで、日本人男性の生き方の選択肢が広がるのを感じる。

印刷会社の跡取り息子として生まれ育った英治は、関東大震災で相棒の弟と会社を失い、さらには花子との間にできた一人息子も病気で亡くし、再建した会社も戦争中の不景気で休眠状態となった。その後の英治が元気に働いている様子はない。実在の英治は震災後に会社を再建することもなく、とにかく花子に寄り添って生涯を終えた人物らしい。

しかし、英治が意気消沈したままボンヤリと長い老後を過ごしているようには描かれていない。花子が仕事や人間関係に悩めば静かに耳を傾けて励まし、彼女の翻訳本を手に取って読むことを何よりの楽しみにしている。そして、花子に向けるまなざしは子どもを見つめる母親のように優しく、生気に満ちている。

かつてスーツを着こなして精力的に外に出ていた英治を動物だとすれば(花子のことは珍獣・ナマケモノに似ていると若き日の英治は言っていた)、翻訳に励む花子に着物姿でお茶を入れてあげる中高年の彼は植物だと思う。ナマケモノに心地良い木陰を与える大木だ。

人生を全うするには、生きる意味のようなものを自分なりに見出す必要があると思う。僕たち男性は、この「意味」を家庭外の仕事に置きやすい。

自分にしかできない分野を見つけ、ひたすら精進して成果を出し、社会に貢献して多くの人に認められる。結果として経済力も向上し、交友関係も充実したものになる――。素晴らしいことだし、僕もやはり仕事中心の生活を送っている男性の一人だ。

だけど、選択肢がそれだけでは何か息苦しい。仕事がちょっと不調になると、際限なく凹んでしまいかねない。「仕事を通じた自己実現と社会貢献」以外の道もあると思いたい。無気力になるのではなく、家庭に閉じこもるのでもなく、才能と情熱と使命感を併せ持つ他者を支えることで広い社会と関わっていく道もあるのだ、と。

専業主婦(夫)もパートナーによっては面白いのかもしれない。「楽」なのではなく「面白い」のだ。その圧倒的な面白さの前では、自己実現などは気にならなくなるのだろう。

2000年に大学を卒業し、社会に出て15年目になった。振り返ると、バランス感覚と責任感を兼ね備えた優秀な女性たちに囲まれて働いてきた。個人的な傾向なのかもしれないが、信頼している仕事仲間(編集者など)の半分以上が女性だ。「女」であることを捨てることなく、かといって過度に活用はせず、着々と実力を積み重ねているのは、特に同世代(ロストジェネレーション)の女性に多いように感じる。今後、彼女たちの活躍度はさらに上がっていくだろう。

村岡英治のような生き方もある。このように思うだけで、肩の力が少し抜ける。今日も仕事と家事をがんばろう。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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