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「地方創生」のために僕一人ができること

大宮冬洋フリーライター
筆者が2013年に勝手に制作&配布した「蒲郡駅前おたのしみマップ」

結婚を機に、愛知県蒲郡市という地方都市に引っ越して来て2年半が経とうとしている。かつては繊維業と観光業で栄えた町はさびれつつあり、人口も少しずつ減っているようだ。シャッター通りとなった駅前商店街を歩いていると、「地方消滅」という新書のタイトルを身近なものとして感じる。

一方で、住み続けるほどに居心地の良さを覚えている。海風はあるけれど晴れの日が多くて気温も高めで、低い山と静かな三河湾に囲まれた土地。根気よく探したら通いたくなる飲食店や食品スーパーが徒歩圏内に見つかった。この町に縁もゆかりもなかった僕でも、店の常連客つながりで友だちができ、今では毎月のように誘い合って「地元飲み」と「家飲み」をしている。家賃は都内の半分以下であり、JR東海を利用すれば東京までは2時間、名古屋までは40分で行ける。

東京に住んでいた頃は、名古屋や大阪、福岡といった大都市への出張の途中で蒲郡のような町を車窓で眺めるたびに、「夜中は真っ暗になるような場所に住んでいて退屈じゃないのだろうか」と感じたものだ。独身だと確かに寂しいかもしれないけれど、家飲みを楽しめる家族や友だちがいれば問題はないことがわかった。夜は暗くて静かなほうが熟睡できる。

こんな風に語っても、地方都市に住んだことがない都会人には具体的なイメージが湧かないだろう。また、地方に住み続けている若い世代には「地元は何もない。もっと都会に行きたい。無理ならイオンモールに行きたい」と思う人もいるはずだ。僕も生まれ育った町(埼玉県所沢市と東京都東村山市)に対しては同じような感覚を持ち続けてきたので、彼らの気持ちがわかる。

僕個人に何ができるのだろうか。行政のように定住促進策を打ち出したり、企業のようにレジャー施設や雇用を増やすことはできない。そこで思いついたのが、極小規模のフリーペーパー作り。「徒歩20分圏内!蒲郡駅前おたのしみマップ」と題して、僕と妻が気に入っている店や場所を紹介する地図を作った。コーヒーショップ、和食店、洋服直し店、花屋、水族館、公園、ホテル、など18のスポットを紹介する内容だ。

IT音痴の僕はデザインソフトを使えないので、市販の地図を拡大コピーして、手書きで番号を振り、「このお店のここが好き」という説明文を書いて余白に切り貼りした。100部ほどコピーして友人知人に配ったり、馴染みのコーヒーショップに置いてもらったりした。

絶大な効果があったわけではない。しかし、地元愛と手作り感満載のマップの評判はいい。地元の人は「あの焼肉屋よりもおいしい店があるよ」と誇らしげに教えてくれるし、外の人は「蒲郡、楽しそうだね。遊びに行きたい」といって名古屋出張のついでに遊びに来てくれることもある。

僕は調子に乗りやすい。今年は地元の人物インタビューなどを裏面に載せ、マップの内容も改訂して「第2号」を発行するつもりだ。注意するべきポイントは3つあると思う。

●自腹を切ること

観光協会などが作る冊子には、味も接客もいまいちなのに声だけは大きい老舗店などが載っていることが多い。制作費を出してくれるスポンサーなどがいると掲載内容に妥協をしなければならないのだ。それでは個人で発行する意味がなく、読者にインパクトを与えられない。趣味に使うお金だと割り切り、制作費(といっても取材と称して地元の食べ歩く飲食費とコピー代ぐらいだけど)は自腹を切るべきだ。

●応援する地域を限定すること

取り扱う範囲は市内全域では広すぎると思う。運転が苦手な僕の場合、車を使わないと行けない場所を「わが町」とは感じにくいからだ。自宅および駅前から徒歩20分ほどに限定する。範囲が狭いほど内容は濃くなり変になり、「しょぼいけれど面白い」内容になるだろう。その気になれば誰でも生徒になれるクラスの学級新聞を作るような感覚だ。

●紙にこだわること

食生活ブログを8年続けている経験から言うと、ネットの情報は便利だけど忘れられやすい。紙媒体のほうが保存して読み返すことが多いし、紹介されている場所を実際に訪れたくなる。店の定休日や電話番号などの詳細情報はネットで検索してもらうことにして、紙面には制作者(僕)の主観と体験をできるだけ盛り込む。

今夜はデザイン面で協力してくれる友人と「打ち合わせ」と称して飲むつもりだ。場所はもちろん上記のマップに載っている飲食店。地元の祭の準備と打ち上げに嬉しそうに取り組むおじさんたちの気持ちがこの年齢になってようやくわかってきた。自分が住んでいる地域を好き勝手に応援して楽しむことが本当の意味での「地方創生」につながると僕は信じている。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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