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マーリンズはなぜ、イチローとの再契約を急いだか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

イチローがマーリンズと来季の契約を交わしたというニュースには驚かされた。再契約自体は大いにあり得るとは思っていたが、昨日のコラムに書いたように契約締結自体はかなり後のことになるだろうと思っていたからだ。

契約最終年の選手は、ワールドシリーズ後にFAとなる。マリナーズはそれを待たずに契約したということは、他球団にも交渉権が発生する前に「囲いこんだ」ということだ。これも、昨日のコラムに記したように、今季のイチローは元気にチーム最多の153試合に出場したが、その成績はメジャー最低レベルとも言える悲劇的なものだった。

なのに、なぜマーリンズは契約を急いだのだろう。しかも、今季同様の200万ドル(約2億4000万円)も費やして。一般的には、第4の外野手はチーム編成の優先順位では最後に位置するもので、極論すれば急がずともメジャー最低年俸プラスアルファの60-70万ドル程度でFA市場から見つけてくることも可能だ。

繰り返すが、イチローを単に戦力として評価するなら、これほどまでに急ぐ必要も、200万ドルも費やす必要もない。ということは、マーリンズは第4の外野手ということ以外の価値を、イチローに見出したということだ。

それは、何だろう。まずは、リーダーシップだ。彼の野球に対する真摯な姿勢が、若い選手への良い見本となることは間違いない。

もうひとつは、営業面での効果だろう。イチローの行くところ、日本企業のスポンサーシップが付いてくる。この味を今季マーリンズは十分知ったはずだ。営業面での効果はこれだけではない。来季のイチローには、まずあと43本でピート・ローズの通算安打メジャー記録に日米通算で並ぶ。そしてあと65本でメジャー通算3000本安打となる。この2つのマイルストーンがもたらすマーケティング効果を、球団は手放したくないのだろう。

さらに言えば、(可能性は低いと思うが)イチローに引退行脚をさせる手もある。最近では、デレク・ジーター(ヤンキース)が2014年の開幕前に、そのシーズン限りでの引退を表明したのだが、おかげでヤンキー・スタジアムのチケットは飛ぶように売れ、遠征先でも観客動員は増えた(日本と異なり、メジャーではアウェイの球団にチケット収入の一部を分配する)。

これらの価値のほとんどは、イチロー以外では手にすることは難しい。だからこそ、マーリンズは彼がFA市場に出てしまう前に再契約したかったのではないか。

こう書くと、「イチローの価値は営業面だけか?」というお叱りも受けそうだ。しかし、この年になっても、それだけの営業面での効果をもたらすことができるというのはすごいことだ。それらは、彼がここまで残した実績あってのものなのだから。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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