Yahoo!ニュース

肝心な場面で役に立たず、それでも2015年の田中将大を評価したい点

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

ヤンキース田中将大の2015年シーズンが終わった。2本の本塁打を浴び5回83球で降板したワイルドカードゲームでの登板は、昨季より10本も多い被弾を浴びた今季を象徴するような終わり方だった。

また、ヤンキースが田中に与えた7年総額1億5500万ドルもの契約は、日本での大一番での強さを評価してのものだったとの声もある。それが、肝心のプレーオフ緒戦で満足のいく投球ができなかったとあれば、辛辣なニューヨークのメディアからのバッシングも致し方ないだろう。

しかし、田中の今季を振り返った時に忘れてはいけない大事なポイントがある。それは、結局ヒジの故障を再発させることなく今季を乗り切ったと言うことだ。

ルーキーシーズンの昨季、右ヒジの靭帯に部分断裂が発見された際に、ヤンキースと田中は定番のトミー・ジョン手術ではなく、PRP療法選択した。これは、自らの血液から抽出した多血小板血漿を注射する再生治療法で、腱移植のトミー・ジョン手術より復帰までの期間が短いのが特長だ。

この選択には批判も続出した。「トミー・ジョン手術を受けるべきだ」、「その場しのぎの対処療法でしかない」というのだ。そんな「トミー・ジョン回避批判派」には、口さがないメディアだけでなく、ペドロ・マルティネスやカート・シリングという一時代を築いた名投手もいた。

しかし、彼らの攻撃には違和感も覚えた。なぜなら、ヤンキースと田中のPRP療法採用の判断は、球団医というスポーツ医学の専門家の判断だったはずだからだ(ヤンキースや田中の意向も少なからず影響は与えたと思われるが)。それに対し、ペドロやシリングは元名投手であっても医学の専門家ではない。いわんや、医学書を1ページたりとも読んでいないことが確実なビートライター達おやだ。

今季も、スプリングトレーニングの段階から、田中が少しでも体調に不安を感じさせたり、満足できない投球を見せるたびに「いずれヒジを壊す」「すぐにも手術を受けるべきだ」との意見が紙面を賑わせた。

田中は今季、右手首の炎症と右手前腕の張りで故障者リスト入りもあったし、プレーオフ寸前の段階では右太股裏を痛め戦列を離れた。これらの故障は「ガラスのエース」の印象を強めてしまったが、結局ヒジの故障は再発しなかった。このことは、素直に評価してあげるべきだと思う。

もっとも、来季以降のことは分からない。再びヒジを痛めるかもしれない。そして、規定投球回数に満たない154回しか投げられず、肝心の1ゲームプレーオフでも期待に応えられなかった今季のパフォーマンスが、入団時の評価に見合うものだとは言えない。しかし、ヒジの不安を完全にとは言い難いものの拭い去った今季は、実りあるものだった思う。2016年の田中に期待したい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

豊浦彰太郎の最近の記事