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合法カジノも協会が禁止、NTT東日本は活動自粛、バドの不可思議な処分と対策で考える野球界

豊浦彰太郎Baseball Writer
バド男子の賭博問題への対処には野球界が教訓とすべき点もある。(写真:ロイター/アフロ)

日本バドミントン協会は緊急理事会を開き、違法カジノ問題での処分を決めた。

田児賢一選手の無期限の協会登録抹消、桃田賢斗選手の無期限出場停止などの処分は、メディアを通じ広く報道されている。しかし、その中でぼくには不可思議なものもある。多くの人々がそれらも「当然のこと」と捉えたかも知れないが、これは野球界への教訓となり得ると思うので、ちょっと指摘しておきたい。

そのうちのひとつは、協会が合法の国においても選手のカジノ出入りを禁止するらしいということだ。

何の権利があって、協会はこのような措置を取るのか。今回の不祥事は、一部の選手が違法カジノに出入りしていたということであり、ギャンブルを行っていたこと自体ではないはずだ。仮に彼らが、公営ギャンブルに足を運んでいたとすると、それは褒めることではないだろうが少しもやましいことではない。問題はあくまで「違法」な賭博行為をしたということのはずだ。

野球界の賭博問題でも一部の識者がアスリートの社会性を欠いた「スポーツ馬鹿」ぶりを問題点として指摘しているが、バドミントンの違法カジノ問題でも根絶に向けて必要なのは、「何は許され、何が禁止されていることなのか」を、きちんとと若い選手に認識させることだと思う。今回のこの協会の判断にはこの視点を決定的に欠いている。まるでアイドルグループの恋愛禁止だ。

加えて、茶髪やアクセサリーを身につけることを禁止せよとの意見も出たと言う。ほとんど私立女子校のへんちくりんな校則レベルの稚拙な対応策だと思う。協会が本件に依らず、バドミントンの社会的認知やステータス向上のため、ドレスコードを設定するというのなら理解できる。選手もそれに従う前提で協会に登録すれば良い。野球界でもユニフォームの着こなしから髭や長髪、移動時の服装に関しても規定を設けているケースは少なくない。しかし、不祥事を起こした選手が「チャラい」いでたちだったので茶髪やアクセサリーを禁止するとは、あまりに短絡だ。

また、NTT東日本がバドミントン部の部長や総監督を解任し、部の活動を半年間自粛するのもどうかと思う。多くのファンは「企業コンプライアンスとして当然」と受け取ったと思う。確かに、実業団スポーツは企業の広告宣伝活動の一部でもあり純然たるアマチュアスポーツとは言い切れないので、企業イメージを損なう恐れがある部の活動自粛は致し方ない面もある。

しかし、この件に関与していない選手は、一緒に活動自粛という不利益を被らねばならいことに憤懣やる方ないのではないか。ぼくが彼らの立場だったら、声を大にしてこの理不尽さを訴えると思う。高校野球で、部内暴力があると被害者まで出場停止処分を受ける矛盾と同じだ。ファンもメディアもこの問題をほとんど指摘しないが、これは軍隊的発想を引きずる慣習で極めて危険だと思う。

野球界でも、賭博問題で開幕前にはネットを中心に、「問題の全容が明らかになるまで開幕を遅らせるべし」という意見もあったが、ぼくはそれも反対だった。シロの選手まで一緒くたにすべきではないからだ。彼らの権利は守られねばならない。

指導者の管理責任を問うのもおかしい。彼らは、選手の私生活まで責任を取らねばならないのか?これもある意味では連帯責任で、非民主的かつ軍隊的だ。

この自粛や処分は、誰がギルティであるのかその責任の所在を曖昧にしている。また、それが明確でないと社会的経験の少ない若い選手に適切な教育など施せないはずだ。その結果、合法でもカジノ禁止とか茶髪やアクセサリー禁止のような規定が導入またが検討されることになってしまう。これらの動きは、基本的にアスリートを「馬鹿」と捉えたことなかれ主義である。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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