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4257安打、イチロー会見の「やっぱり凄い」と「残念」な点

豊浦彰太郎Baseball Writer
イチローのコメントはいつも含蓄あるものだ。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

6月16日夜、帰宅後にテレビのニュースやウェブで、イチロー の会見を見た。改めて「イチローは凄い」と感心したこともあれば、「やっぱりそうか」と残念だったこともある。それについて記したいと思う。

「やっぱり凄い」と思ったこと

日本人の野球選手の中では、イチローのコメントは群を抜いて素晴らしいと思う。「今回は何と言うのだろう」と楽しみになる数少ない選手だ。

昨日は、「嗤われることをバネに頑張ってきた」という趣旨のことを語っていた。ナルホド、と思う。彼が渡米を決めた時、ニュース番組である著名な評論家が「彼なら、メジャーでも2割8分くらい打てるのではないか」とコメントしていた。恥ずかしながら、ぼくも同意見だった。しかし、彼は「首位打者を取ってやる」と決意していたのだ。やはり、何かを成し遂げる人物は、それを成し遂げたいと誰よりも強くそれを思っている者なのだと思う。ある意味では、サラリーマン社会も一緒だ。誰よりも出世した人は、誰よりも強く出世を欲していた人だ。ぼくが、あまり出世しなかった理由もそこにある(と思っている)。

イチローは、3年前に日米通算4000本安打を達成した際には、「8000回の失敗としっかり向き合ってきた、ということだ」と語った。2014年オフのマーリンズ入団会見では、「ファンに、応援して下さい、という気はない。応援してもらえる選手であり続けたい」とコメントした(余談だが、この時はMLB.comに「応援して下さい」という意味の正反対の誤訳が掲載された)。さすがだと思う。試合後のヒーローインタビューで、何の紋切り型の奇声を発するだけのNPB選手とはモノが違う。

「やっぱり残念」だったこと

これは、ニュース番組の映像を見る限り、質問者は1人だったことだ。

メジャーでは、試合後に広めのインタビュールームで両軍の監督やその日のキーパーソンとなる選手を対象に共同記者会見が行われる。この日も、会見会場には相当多くの 媒体が詰めかけたはずだ。しかし、対日本メディアのセッションでは、常に同じ人物が質問していた。まるで、共同会見の体をなしていないのだ。

イチローの日本メディア対応には奇妙なルールがあり、クラブハウスでは特定の人物しか彼の周りに居てはいけないことになっている(少なくとも、ぼくが取材を試みた2年前はそうだった)。彼が心を許した一部のメディアだけがコメントを取り、それを他社とシェアするのだ(ジャーナリズムとして、コンプライアンス上大いに問題だとは思うが)。今回の会見も、多くのメディアが会場には入ることが許されていたはずだが質問者は限定と、その延長線上にあるフォーマットだったようだ。何だか、芸能人の仕組まれた会見みたいで、あまり好感は持てない。

もうひとつ残念だったことがある。今回も、アメリカメディア相手のセッションはMLB.comの動画を見る限り、通訳を介して行われていた。もう、メジャー16年目である。英語で対応して欲しい。話せないのではないのだから。

ここに挙げた2つの残念な例は、彼のメディアへの強い警戒心と閉鎖性を象徴している。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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