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非観光都市シンシナティにもイチロー目当ての多くの日本人 、「イチローだけ」はほどほどに

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

先週末からアメリカに来ている。現地滞在わずか5日なので、水曜日には帰国の途に着く。現地15日はシンシナティでレッズ対マーリンズを観戦したが、日本人の観客が多いことには驚かされた。これが、大観光都市のニューヨークやロサンゼルスならわかるが、中西部の中小都市シンシナティである。夏休みを利用して、アメリカにメジャー観戦という方は少なからずいると思うが(そもそもぼくがそうだ)、なにせ一般の日本人には観光資源は皆無に近いシンシナティだ。やはり、イチローの吸引力にはひれ伏すしかない。

こちらで合流予定の在米の友人Y氏(日本企業の駐在員だ)にメールで伝えると、「旅行者はわからないが、日本企業の駐在員家族が多いのではないか」とのことで、「理由は2つですね」。

まず、シンシナティのあるオハイオ州や隣接のケンタッキー州には自動車関連の日本企業が多く、「割と日本人は多いんですよ」とのことだ。そして、次には「そんな母国を離れた日本人の野球好きには、シンシナティは当面ゴールデンウィークなんです」とのことだ。

まずマーリンズ4連戦がありイチローをたっぷり見届けられる。次はドジャース戦で前田の登板が濃厚、さらにその後はレンジャーズ戦でダルビッシュ先発の可能性も十分だ。

ナルホド。

そして、観客がわずか1万7000人足らずだったこの日のグレートアメリカン・ボールパークでやたら目につく日本人の観客に関し、ちょっと戸惑うことがあった。

彼らの多くが、イチローの打席になるといっせいにカメラなりスマホなりで「撮影モード」に入る。ぼくも写真は撮ったが、それは一打席分だけだ。しかし、彼らの多くは全打席しっかりとカメラマンに成り切るのだ。

カメラを向けるとファンダーから覗いた部分しか視界に入らない。わざわざアメリカくんだりまで来て観戦するのだから、自分の目で見て、拍手や声援を送り凡打にため息をつくなどしなければもったいないと思うのだが、自分でシャッターを押して憧れのイチローを「切り取る」行為は格別なものかもしれない。しかし、ライブは傍観者であるより、積極的な参加者であったほうが楽しいはずだ。その雰囲気を感じ取らないと無駄にした気分にならないのだろうか。写真が仕事なり、無二の趣味だというなら別だが。ぼくは、ずいぶん前のことだが、娘の運動会で彼女の母親から、ひたすら「撮影班」としての役割を押し付けられ、ひどく疎外感を感じたことがある。まあ、ここまでは半分は趣味の問題だから良しとしよう。

しかし、イチローの打席になると後方から走ってやってきて最前列に近い辺りで立って撮影する人たちには辟易とした。視界の妨げになるので、最後には「迷惑だよ、どいてくれ」と日本語で(当たり前だが)苦情を言った。

また、迷惑うんぬんは別にしても、「イチローだけ」血眼になって撮影し、彼の打席が終わるとスーっと居なくなり、また次の打席で現れる人にはベースボールへのリスペクトが欠如しているようで好感が持てなかった。そして、イチローの最終打席が終わると彼らの多くは去って行った。

「カネ払ってんだから、好きに見れば良いのではないか」という意見もあると思うが、地球の裏側まで来て野球を見るのだ。どうせなら、イチロー以外のベースボールやMLBの魅力に触れるよう努めてほしいなあ、と思った次第だ。この球場には球団が運営するものとしてはメジャー有数のミュージアムも隣接されているのだが、彼らのうちどれだけの人がここも訪れたのだろうか。少なくとも、ぼくは1人見かけなかった。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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