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「ロックアウト」が噂されるMLB機構と選手組合は本当に決裂の危機?それとも・・・

豊浦彰太郎Baseball Writer
労使協定交渉をどうまとめ上げるか?マンフレッド・コミッショナーも腕の見せ所だ。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

「21年間続いた労使の蜜月に危機?」

FOXの名物記者ケン・ローゼンタルが、オーナー側が選手会に対しロックアウトを実施する可能性を報じている。

MLB機構とMLB選手組合は、12月1日で失効する現行の労使協定更新の交渉を続けているが、国際ドラフトの導入などで行き詰まっているというのだ。すでに、日本のメディアもローゼンタルの記事の内容を伝えている。

そもそも、「ロックアウト」とは何か?

労使交渉での対立が極限まで高まると、労働者側は「ストライキ」に訴えるが、経営者側がこれに対抗し行使する手段が「ロックアウト」だ。MLBを例に説明すると、オーナー側が一切の球団施設(球場、トレーニング施設等)への立ち入りを禁じることを意味する。

MLBでは、ワールドシリーズすら中止に追い込まれた1994年夏から翌年春までの史上最悪のストライクを経て、長期にわたる労使協調時代を迎えた。ストライキはファン離れを招き、オーナーも選手も莫大な損害を被った。したがって、その後は「何があってもストライキだけは避けよう」という意向が双方に芽生えた。加えて、当時のアメリカ社会全体の経済的繁栄と当時のバド・シーリグ・コミッショナーの商才&リーダーシップもあり、労使双方は限られたパイを奪い合う関係から、協力してパイを拡大するパートナーに発展したのだ。

果たして、今回はロックアウトに突入するのか?

ローゼンタルの記事はやや悲観的なトーンで書かれているが、Yahoo! SportsのMLBコラムBig League Stewは、「最終的には回避されるだろう」とやや楽観的な論調だ。ロックアウトの可能性が、期限切れの約1週間前になって突如報じられた点がミソだというのだ。オーナー側がロックアウトの可能性をメディアに(意図的に)リークしたのは、交渉のツールとしてこの最終兵器をちらつかせ、選手会に揺さぶりを掛けようとしているだけというのだ。

確かにそうかもしれない。見落としてはいけないのは、オーナー側のトップであるロブ・マンフレッド・コミッショナーは2015年1月の就任で、選手会の専務理事トニー・クラーク(元選手で、ヤンキースの一員として来日し東京ドームで特大の本塁打を放ったこともある)も現職に就いたのは2013年12月だということだ。現行の労使協定が発効されたのは2012年のことで、両者ともこれが初の労使協定の締結交渉なのだ。うがった見方をすれば、2人とも自らの組織に対して「戦いを恐れないリーダー」という印象を植え付ける必要があるのだ。

いずれにせよ、「ロックアウトやストライキは労使双方にとってもっとも損な行動である」ということを両者は22年前の悪夢を通じ学んだはずだ、ということをわれわれファンは拠り所として事態の推移を見守りたい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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