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「女子マネは人工芝までで体操服着用」高野連が守りたかったのは女子の安全?それとも甲子園の様式?

豊浦彰太郎Baseball Writer
「炎天下での感動物語」を構成する様式全般に見直しが必要では?(写真:岡沢克郎/アフロ)

頑なに女子マネージャーがグラウンドに入ることを拒んでいた高野連が急転直下、「態度を変えた」と思ったら制限付きだった。夏の甲子園を主催する朝日新聞はもとより、巨人軍の裏金問題に関し朝日と法廷で争っていた読売新聞までもが、「貴重な一歩」と評価する記事を掲載していた。しかし、実態はそうなのだろうか。

甲子園練習で女子部員の活動が認められるのはファウルグラウンドにある人工芝の範囲に限られ、本塁からのノックの補助は認められない。また、男子と見分けがつくように体操服やジャージの着用が求められるという。

今回の改定にメディアは好意的だ。11月26日の朝刊で朝日新聞は「新たな一歩」としている。同紙は夏の大会の主催者なのでこれは想定内だが、高校野球の朝日&毎日に対し、ライバル関係にあり巨人を軸にプロ野球を牛耳る読売新聞までが「議論が生んだ前進と言っていい」と報じているのには驚いた。同日に巨人の裏金疑惑報道で朝日を叩きまくっていたので「バランスを取った」のだろうか。

しかし、これが「一歩」であり「前進」なら、目指すところはもっと先にあるはずだし、次のステップやゴールまでのロードマップが示されているべきだが、報道をチェックする限り具体的には何一つ示されていない。だとすると、むしろ「入って来れるのはここまで」と一線を引かれてしまったような気すらしてしまう。また、体操服やジャージの着用が義務付けられる必要があるのだろうか。これは差別ではないか。

今回の議論で失望してしまうのは、自己安全管理における運動能力の個人間格差の問題を性別で一般化していることだ。これは差別だと言って良い。

高野連理事が守りたかったのは、果たして女子部員の安全だったのだろうか。実は、「過酷な環境下での昭和的価値観に基づいた感動物語」を構成する様式を守りたかったのではないだろうか。「世間が騒ぐからここまでは入れる。ただし、ここから先はダメだ。恰好はこうしろ」ということは、隔離政策下で「バスの席は一緒でもOKとするが、レストランへの入り口は今後とも別だ」とするようなものだと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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