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台湾へ渡ったラミレスは1934年に来日したベーブ・ルースだった 「何がマニーを走らせるのか?」その2

豊浦彰太郎Baseball Writer
08年移籍後の大活躍でLAの寵児となるも、翌年の薬物問題で「堕ちた」存在に?(写真:ロイター/アフロ)

前回は、マニーは「無声時代の映画スター」だったと記した。FAになれば他球団から声が掛かると信じ、そして現実を知らされた。

2012年にメジャー復帰を試みるも叶わなかったマニーは、そのオフはドミニカのウインターリーグでプレーした。成績はOPS.793と微妙だった。そして、2013年の3月に台湾のの義大ライノスと契約した。台湾でプレーするというのは、率直に言って元メジャーリーガーにとっては究極の都落ちだ。マニーのような超スーパースターにとってはなおさらだ。そんな誇り高きラミレスが、なぜ台湾に活路を見出そうとしたのか?「その2」の今回はそれを考察したい。

話は一気に80数年前までに遡る。

1934年の秋、大監督コニー・マックがベーブ・ルース、ルー・ゲーリックなどオールスターチームを率いて来日した。「コニー・マックが率いて・・・」と書いたが、このツアーの主役は間違いなくルースであった。来日を渋っていたルースを、交渉役の鈴木惣太郎がすでに刷り上がったポスターを見せ「日本のファンはあなたを待っている」と説得したのは語り草だ。この時のルースの顔をハイライトし「野球王ベーブ・ルース」と記した「日米大野球戦」のポスターは、日本の野球史上最も有名で重要なポスターだ。

鈴木の「ポスター作戦」が功を奏したのには背景がある。

1934年というのは、ルースにとってヤンキース移籍後最低の22本塁打に終わった年だ(結果的にヤンキースでの最終年でもあった)。すでに年齢も39。その球歴は黄昏期にあった。ルースはヤンキースの監督に成りたがっていたが、球団オーナーのジェイコブ・ルパート・ジュニアからは「マイナーで監督の修業を積んで来い」と言われる始末。要は、ルースはグロリア・スワンソン同様の「無声時代の映画スター」になっていたのだ。

そんな傷付いたルースに鈴木が見せたポスターのメインメッセージは、「米大リーグオールスター」ではなく「野球王ベーブ・ルース」の来日だった。巡ってきた「主演」のオファーは「無声時代の映画スター」の琴線に触れたのだ。

再び話は一気にタイムトラベルする。

2010年3月。スプリング・トレーニングたけなわの3月中旬、ドジャースが台湾へ遠征した。CPBLオールスターとの親善試合を戦うためだ。

当時のジョー・トーリ監督に率いられた台湾遠征メンバーの目玉は、まずは主砲のマニー・ラミレス、そしてリリーバーの郭弘志(クオ・ホンチー)と内野手の胡金竜(フー・チンロー)の台湾出身コンビだった。逆に言えば、彼ら以外はレギュラークラスは一塁手のジェイムス・ロニーと内野手のジェイミー・キャロルくらいで、それ以外はほぼマイナーリーガーでの構成だった。

そんな台湾遠征組の中では、マニーは図抜けた存在だった。レセプションや記者会見では常にひっぱりだこの大歓待を受けた。この時、マニーは台湾への好印象をすり込まれたことは想像に難くない。

台湾で相当チヤホヤされたマニーだったが、実はこの時は野球人生の転機に在った。

2008年7月末に、電撃トレードでレッドソックスからドジャースに移籍すると超人的な打棒を発揮。移籍後のOPSは1.232。ドジャース地区優勝の原動力となった。ところがそんな絶頂期に在った翌2009年5月、薬物検査で陽性反応を示し50試合の出場停止処分を受けた。復帰後は、移籍当初の爆発的な打棒は影を潜めた。

そのように「Mannywood」神話の陰りが出てきた中での台湾遠征であり、そこでの歓待だった。言いかえれば「無声時代の映画スター」であることを否定できなくなりつつあった時期に「まだまだ大スターである」ことを実感させてくれた、それが台湾だったのでないか。

その意味では、2010年のマニーの台湾遠征は、ルースにとっての1934年の日本遠征と同じだった。

<その3へ続く>

「何がマニーを走らせるのか?」その1はこちら

その3最終回はこちら

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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