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西武・菊池雄星のメジャー挑戦は「今でしょ!」

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:岡沢克郎/アフロ)

興味深い記事を見つけた。「Number Web」に本日掲載されたもので、「菊池雄星のメジャー挑戦はまだ早い。大谷翔平と差がある内角の意識」というものだ。寄稿されたのはベテランライターの小関順二さん。氏の著書は、ぼくもいつも「勉強になるなあ」と思いながら読ませてもらっている。でも、ぼくは雄星のメジャー移籍がまだ早いとは、全く思わない。諸事情が許すなら、すぐにでも行ったほうが良い。その理由を記したい。

この記事では、「時期尚早」の根拠のひとつとして実績不足が挙げられている。過去、メジャーに渡りそれなりの成果を出した投手は概ねNPBで90勝前後記録しているのに対し、菊池はまだ43勝でしかないという。

また、球威の割には奪三振が多くないことなどから、投球内容もそれほど傑出していないとしている。また、その背景として、微妙な制球力や緩急の使い分けの不十分さを後輩の大谷翔平との比較において指摘している。

もうお分かりだろうが、この記事で展開されているのは純粋に技術論だ。投手の実力や実績を計る手段として今どき「勝ち星」を用いるのはちょっと違和感を覚えた(勝ち星はもっとも投手の実力を反映しない指標の一つであることは、セイバーの世界では常識だからだ)が、雄星にまだ課題が多いとする主張には頷くしかない。

一方、ぼくが菊池は可能なら渡米すべきだとするのは、人生観や職業観からのものだ。したがって、結論は正反対だが、論拠とする領域が根本的に小関さんの主張と異なっており、流行言葉でいうなら「コンフリクト」はない。

しかし、「メジャーに移籍する(少なくともNPBでのエース級)日本人投手は、すべからくかの地でも一流の地位を確立しなければならない」という行間からにじみ出る前提の観念には、必ずしも同意できない。そうあって欲しいとは思うが、それは個人の価値観の問題だからだ。簡単に言えば、「ダルビッシュ有や田中将大、岩隈久志クラスの活躍をしなければならない」ということはないと思うのだ。

今のレベルなら、メジャーでも先発5番手の座を確保するのも苦しく、せいぜいモップアップのロングリリーバーか、スポットスターターが関の山だ、という指摘なら良いだろう。それでも良ければ行けば良い。たとえ、そのような立場であっても、3年以上在籍し年俸調停権を得れば、日本でプレーし続けるより確実に稼げる。

もちろん、菊池は単純にカネのみを求めている訳ではないだろうし、敗戦処理やマイナーと行ったり来たりの役回りを求めてアメリカに渡りたいわけではないだろう。「オレならやれる」と思っているはずだ。ひょっとしたら、二軍時代にパワハラの被害を受けた彼は、NPBに強い閉塞感を持っているのかもしれない。

野茂英雄がドジャースでデビューしてから22年。メジャーへの渡り方も多様化した。ダルビッシュや田中将大のような完成品としての移籍だけでなく、日本で一流の座を掴みかけている段階での渡米もアリだと思う。その場合、球団がポスティングを認めてくれるかどうかは別問題だが、伸びしろを残した今の方が、日本で90勝を挙げその分賞味期間が残り少なくなった3~5年後より好条件を掴めるかもしれない。

だから、池雄星は自分の主張を曲げる必要は全くないと思う。「今でしょ!」とは行かぬだろうが、2017年のオフにそれが叶うことを祈っている。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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