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「侍ジャパンだけではないWBC」第5回 日本戦以外ではさながら無観客試合という現実

豊浦彰太郎Baseball Writer
2015年のプレミア12では、準決勝で日本を下した韓国が優勝した。(写真:ロイター/アフロ)

2015年10月の英国でのラグビー・ワールドカップは、日本でのラグビー人気復活の契機となったが、この時門外漢のぼくでも報道を見ていて感銘を受けたことがある。

それは観客の多さだ。英連邦以外の国同士の試合でも結構な入りで、ファンは熱い声援を送っていた。これは羨ましかった。英国におけるラグビーの人気と、日本における野球の人気は良い勝負だと思う。でも、過去のWBC日本ラウンドにおいては、日本絡み以外のゲームでは観客の入りは悲劇的で、それこそ「これ、無観客試合すか?」と突っ込みを入れたくなるケースも少なくなく、心が痛んだ。

もちろん、大方のファンは、名前も分からない外国人選手同同士の戦いにはあまり関心が沸かないというのは理解できる。しかし、彼らが披露してくれる熱の入った一投一打を目にすると、「ああ、観衆の見守る中で戦わせてあげたかった」との思いを禁じ得なかったものだ。まだ成長過程にあるこのイベントが、名実ともに「世界一決定戦」として権威あるものになれるかどうかは、MLBが継続的にどれだけスターを送り込めるかよりも、われわれファンがどれだけ入れ込めるかに掛かっていると思う。

まちがいなく、日本は世界有数の野球人気国で、WBCにもっともファンが熱狂しているのは日本だ。その点では、米国内での人気の盛り上がりがイマイチであるなら、決勝ラウンドは今後日本で開催するというオプションもあると思う(開幕前のメジャーリーガーに半日以上も時差のある国で試合をさせることを、MLBが許すかどうかは別にして)。しかし、(これはメディアの姿勢にも大いに関係があるのだが)これだけジャパン偏重の現状を見ると、万が一侍ジャパンが2次ラウンドあたりで敗退すると、トンデモナイ状況が発生しそうで、ちょっとあり得ないな、と思ってしまう。

その点、2020年の東京五輪ではどうだろう。開催は野球シーズンど真ん中のため、メジャーリーガーの出場は絶望的だ。しかし、それでも日本以外でも客が入るのだろうか。だとすれば、それこそ五輪とWBCのブランドの差なのかもしれない。

五郎丸ブームで湧いた2015年ラグビー・ワールドカップの翌月には、プレミア12があった。

準決勝の日本対韓国戦の劇的な展開と空前の盛り上がりは今でも記憶に新しい。しかし、その翌日の同じく準決勝のアメリカ対メキシコ戦にもぼくはドームに足を運んだのだが、見事にガラガラだった。

この日もいつものようにスコアを付けながら観戦していたのだけれど、レモンサワーを売り子さんに注文したら「お仕事ご苦労様です」と言われ苦笑した。たしかに、閑古鳥の鳴くスタンドでマジメにスコアを付けていると、関係者と思われても仕方ない。

また、この日はあまりに不入りだったため、メディアの世界で働く旧知のT氏がぼくを見つけ、わざわざ席まで訪ねて来てくれた。

この時点では、まだ野球&ソフトの東京での(一時的な)五輪復帰は決まっていなかったため、「IOCやWBSCのエライさんが見るとまずいんじゃないですかね」という話にもなった。「日本国民は世界有数の野球好きと聞いていたが、自国が出ない限り集客できないじゃないか、なんてね」

また、氏は、日本が出ないとなるとプレミア12の決勝戦も、生中継での地上波放送がキャンセルされたことに憤慨していた。

「侍ジャパンのゲームの視聴率は高いんだから、日本戦放映権を非日本戦の放映義務とセットでテレビ局に売り渡せば良いんですよ」。聞けば、オリンピックの放映権の購入条件には、パラリンピックの放映の確約が含まれているそうだ。ナルホド、そんな手もあるな。

果たして、来月のWBC東京ランドではどうなのだろう。3月9日は東京での一次ラウンドで唯一日本戦が予定されていない日だ。もちろん、ぼくはこの日も(というかこの日こそ)ドームに足を運ぶ。また、旧友が見事にぼくを探し当ててくれるのだろうか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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