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「侍ジャパンだけではないWBC」第7回 @ソウル 「日本も韓国も日韓戦に依存すべきではない」

豊浦彰太郎Baseball Writer
韓国の2次リーグ進出は絶望的だ(写真は2006年WBCより)(写真:ロイター/アフロ)

イスラエルが、2009年WBC準優勝にして2015年プレミア12王者の韓国を下した翌日朝、ぼくは羽田空港からアシアナ航空便に乗り込んだ。機内では「朝鮮日報」を求めた。前日の結果が(記事は読めないまでも)、どの程度大きく取り上げられているか知りたかったからだ。しかし、受け取った新聞は1日前のものだった。朝8時なのに・・・そんなものか。

ソウルに着いた。人生初の韓国だ。恥ずかしい話だが、多くの日本人が訪れる海外旅行の定番中の定番の韓国とハワイに、齢50過ぎにして一度も行ったことがなかったのだ。これもWBCのおかげだ。ぜひ、2021年はハワイでも開催して欲しい。

地下鉄が清潔で車両の幅が広いことに感銘を受けた。反対側の席との距離が異様に近い大江戸線あたりとエライ違いだ。地下鉄を乗り継ぎ、目的地の高尺スカイドーム最寄りの九一駅に到着した。お約束の乗り換えミスがあり、予定より30分以上到着が遅れた。外気は1度。しかし、日差しはふんだんに降り注いでおり、体感ではそれほど寒くない。

ドームは殺風景な体育館という感じだ。スタンドに通路が少なく、座席がギッシリ詰まっていたため観戦中に席を立つにが困難で「オムツが要る」と揶揄されていたが、今は座席を一部撤去しており、この問題はほぼ解決している。加齢により、オシッコが近くて仕方ないぼくは一安心だ。しかし、それでも観客の見易さを全く無視したネットや、その骨組みが視界を妨げイライラさせられた。

この日は、台湾対イスラエル、オランダ対韓国の2試合を観戦したのだが、結果はご存知のとおり。イスラエルが2連勝で東京行きの可能性をほぼ確実なものにした反面、2連敗となった韓国はせっかくの地元開催ながら、1次リーグ敗退がいよいよ現実味を帯びてきた。個人的には、韓国のファンが狂喜乱舞する姿が見たかったのだが、三塁すら踏めない展開で、盛り上がりたくてもその場面がない、そんなファンのフラストレーションが伝わってくる展開だったのが残念だ。韓国の8回の攻撃が無得点に終わると、一気に多くの観客が席を立った。

ちなみに長かった第1試合が終わったのが午後4時過ぎ、第2試合の開始予定が午後6時半だったので、遅い昼食というか早い夕食に出掛けることにした。現地で合流した、KBOのみならず韓国の歴史や文化にも詳しい友人のF氏と、彼の友人の2名の韓国人と連れ立って球場周辺の大衆的な焼肉屋に入った。韓国の焼肉というと牛肉を思い起こすが、この日食したのは豚肉。「豚肉も一般的ですよ」とのことだった。F氏とその友人は、お店のスタッフに頼んでスマホを充電させてもらっている。「これも近年は普通ですね」。それでは、とぼくも便乗した。

会話は当然、野球中心になる。「韓国ではWBCへの注目度はどうですか?」と聞いてみる。「もちろん、それなりにあります。なにせ、初の地元開催ですからね。韓国でも野球は最も人気のある観戦スポーツですし」とは、日本への留学経験もある韓国人のS氏。その日本語の流暢さはネイティブ級だ。「しかし、熱狂的というほどではありません」と言う。なぜなら「国民の最大の関心事は、依然として朴大統領の弾劾問題なんです。政治とスポーツは別物ですが、国民の感情に区別はないですから」。ナルホド、だ。

この食事会は韓国が連敗を喫する前で、まだ2次リーグ進出の可能性も多分にあったため、「東京で日韓戦となれば良いですね。両国で盛り上がること請け合いですね」と振ってみた。すると、今度はF氏がのたまう。「もう日韓戦はいいでしょう」。過去の国際大会での因縁の歴史や、2015年プレミア12での劇的な敗戦を経て、日本では日韓戦は黄金カードになっている(と思う)。テレビ局も当然、それを期待して要るはずだが。そう質問するとF氏は、「そればっかりに拘っていたのでは、国際大会としての発展性がありません」と言う。「(その時点で2連勝を挙げた)イスラエルや、メジャーの一流どころが名を連ねるオランダのような魅力的なチームも参加しているのです。日本も韓国も過度に自国チームや日韓戦に依存していたのでは、国際大会のホスト国としての成長がないですよ」。これは正論だ。

会話は熱を帯びてきたところで、そろそろ球場に戻るべき時間になった。お店のご主人にお礼を言って、充電していたスマホを受け取る。根っからのケチであるぼくが、会計はワリカンのつもりでいると、F氏が「この国ではワリカンは一般的ではありません。年長者が払うものなんです」と教えてくれた。取り敢えず、韓国語が堪能なF氏が全額をお店に払い、後で半分ぼくが負担した。日本人だけでワリカンしたのだ。そうか、この国にはもっと若い時期に来るべきだったと思った。

お店を出ると、ファンが続々詰めかけつつある球場前では観戦のチラシが無料配布されていた。F氏が「さあ、東京ドームに行こう!、と書いてある」と教えてくれた。しかし、その願いは数時間後には水泡に帰したのだ。試合後の球場周辺は、比較的過ごしやすかった昼間とは異なり、凍りつくような寒さだった。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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