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「熱い観客、金髪での結束、タイブレークでのハートブレーク」WBC準決勝 プエルトリコ対オランダ戦

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

駆けつけた観客は約2万5千人。メジャー最大の5万6千人のキャパシティを誇るドジャー・スタジアムには少な過ぎる印象もあるが、彼らは間違いなく熱かった。試合後も、いつ果てるともなく打楽器の音とともに「プエルトリーコ!」の連呼が鳴り響いた。

ぼくは、WBCの決勝ラウンドを現地で観戦するのはこれが3度目なのだけれど、回を重ねるごとにファンも選手もヒートアップしているのを実感している。正直なところ、2009年の第2回大会の準決勝、韓国対ベネズエラ戦では、前半で韓国が大量リードを奪うと、ベネズエラの選手には明らかに緊張感が欠如した怠慢プレーも見て取れたし、観客も勝利を目指して殺気立つこともなく、大量失点にも悪びれず陽気に応援を繰り返していた。何がなんでも勝利をもぎ取りたいというより、WBCを肴に同胞で盛り上がろうよ、という同窓会的ノリだった(少なくとも、ぼくにはそう感じられた)。

それが、サンフランシスコでの前回では、準決勝で侍ジャパンを下した際の選手の歓び様とそれを分かち合うサポーターの姿は感動的ですらあった。

そして、今回だ。

公平に見ても、プエルトリコは総合的な選手層で、一流どころとそれ以外の力量差が否めないオランダを上回っていたと思うが、決勝進出の原動力の一つが勝利への執念やイヤディアー・モリーナという「ハート&ソウル」を核にした結束力であったように思う。プエルトリコの選手は、みな金髪だった。団結のしるしとしてそうしたのだそうだ。そして、それは選手たちの間のみに止まらず、プエルトリコの人々の中でも、WBCチームへの精神的な後押しの象徴として頭髪を金色に染めることが広まっているという。

一方のオランダは、再三の好機を拙攻でつぶしたのが響いた。タイブレークの11回表を含み5度の併殺があり、それ以外にも初回に安打を放ったプロファーが、喜んでいる間に送球で刺されるなどのミスもあった。

タイブレークと言えば、11回は両軍とも犠打で予め一二塁に配置された走者を進め、次打者が満塁策で歩かされたが、その先が併殺打のオランダと決勝犠飛のプエルトリコで明暗が分かれた。個人的には、無死一二塁でのタイブレークでは、先攻チームは犠打ではなくヒッティングで複数得点を狙う策もあると思うが、両軍とも犠打だった(同点である以上、後攻は当然だが)。犠打で送れば、その次はかなりの確率で満塁策になる。なら、いっそのことタイブレークは1死満塁からでも良いんじゃないの?と言いたくもなる。同じ攻めを両軍に結果的に強いてしまうタイブレーク制度はなんとも興ざめだが、そんなことよりも、試合を長引かせずとっとと終わらせることがこの制度の狙いなのだから致し方なしなのか。好ゲームではあったが、やはり個人的にはタイブレークは好きになれない。次回大会からは、せめて決勝ラウンドだけでも通常の延長戦方式でやれないか。

試合後、そんなことを考えながらスタジアムから30分歩いてユニオンステーション近くのホテルに戻った。ドジャースの試合が開催される際は、ダウンタウンのユニオン駅との間にガンガン送迎バスが出るのだが、WBCではそんなサービスはないようだ。試合後、多くの日本人の観客はUberでタクシーを呼ぼうとしていた。ああ、そうか、これが「今」なんだなと思ったが、多くの観客が一斉にUberでクルマを呼んですぐに来るのかどうか?古いタイプのぼくは徒歩を選んだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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