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WBC雨中の決戦は、勝利最優先の投手起用の日本ではなく選手の故障回避や球団への配慮優先の米国に凱歌

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

ロサンゼルスに雨の降る日もある。ある意味では、南九州の雪のようなものだ。珍しいが、決してあり得ないことではない。しかし、ぼくはこれまでドジャー・スタジアムでは通算で20試合以上観戦したことがあるが、雨に祟られたのは初めてだった。

昼間は、ドジャー・スタジアムから西に10数キロ離れた場所にある博物館で過ごしていた。開門予定の4時には球場に着くよう移動するつもりだったが、午後3時あたりから雨足がかなり強くなった。市バスを乗り継ぎ、徒歩もそれなりに併用するつもりだったので、小止みになるのを待ったがらちが明かない。時間はどんどん過ぎて行く。覚悟を決めて濡れながらバス停を目指した。雨に加え夕方の帰宅ラッシュもあり、道路は大渋滞。球場に着いたのは試合開始の10分前。あやうく、野茂英雄のファーストピッチを見逃すところだった。

準決勝2試合と決勝戦がセットになったチケットの席に、なんとかたどり着く。この試合でたまたま隣に居合わせたのは、LA駐在の若きビジネスマン氏だった。WBC3試合を見るためだけにロサンゼルスに来た、決勝戦が終わるとそのまま空港に向かい深夜便で帰国する、とお伝えすると「うわぁ、ホンットに野球が好きなんですねえ」と呆れられた。確かにそうだ。われながら酔狂だと思う。

雨中の決戦は2対1で米国に凱歌が上がった。この試合、日本の菅野智之、アメリカのタナー・ロアークがともに素晴らしい投球を披露したのはご存知のとおりだが、降板のタイミングが好対照だった。決勝ラウンドはタマ数制限が95球まで上がることもあり、小久保裕紀監督は菅野に6回81球まで投げさせた。ところが、米国のジム・リーランド監督は、4回終了まで被安打わずか2の与四球1で無失点と、ほぼ完ぺきな投球を続けていたロアークを、その時点でわずか48球ながらあっさり降板させた。悲願の決勝進出が目の前まで来ていながら、リーランドは勝利以上に投手を故障のリスクから守ることを重視したのだ。

いや、それどころではない。明日の決勝戦の捕手は、今回のチームUSAの看板の1人で、新人王、MVP、首位打者の経験があるバスター・ポージーではなく、ジョナサン・ルクロイを先発で起用すると試合後に明言したのだ。理由は、ルクロイがここまで4割を超す打率を記録しているから、ではない。単に「ポージーとルクロイを交互に先発出場させてきたから」なのだ。先発投手の降板タイミングにせよ、捕手の起用にせよ、選手の健康管理や球団への配慮を優先していたのだ。菅野に公式戦並みのタマ数を投げさせ、できることなら決勝戦まで温存したかった千賀滉大も惜しみなく投入した日本が、そんな米国に敗れ去ったのは正直悔しかった。

この決戦を前に、ESPNのシニアライター、デビッド・ショーンフィールドは、「日本球界のことはそれほど詳しいわけではないが」と前置きしながらも、今回の侍ジャパンはここまで全勝で勝ち上がってきているとはいえ、過去WBC を2度制した時ほどの力量はないのではないかと論じていた。「青木が3番を打っていることが象徴するように打線に人材を欠く」ことや「かつての大会での松坂大輔(06年、09年)や岩隈久志、ダルビッシュ有(ともに09年)のような絶対的なエース級の投手がいない」ことを理由に挙げていた。また、今大会6連勝とはいえ、アメリカに加え、プエルトリコ、ドミニカ、ベネズエラが鎬を削った北米での2次ラウンドに比べ、東京でのそれは「レベルが低い」とも指摘していた。準決勝では、菅野がようやく本来の投球を披露したが、それ以外はショーンフィードの見方通りになってしまった。

また、彼は「日本が優勝すれば東京でパレードが行われるだろう」とも記していた。残念ながら、それは実現しなかった。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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