半導体を捨ててサービスができるのか、心もとない富士通の経営陣

富士通(株)の半導体部門である富士通セミコンダクター(株)を、富士通本体がバラバラに売却しようとしている。富士通にとってハードウエア、特にカギを握る半導体は邪魔もののように映っている。というのは、富士通セミコンダクターが手掛けてきた半導体製品のほとんどを売却しようとしているからだ。今回はマイコンとアナログ部門を米国のスパンション社に売却することが決まり、もう一つのシステムLSI(プロセッサとメモリ、周辺、I/Oなどからなる半導体チップ)はパナソニックとの合弁企業を作り、そこに押し込めてしまおうとしている。残る半導体事業は製造部門だけ。これを台湾のTSMCと合弁会社を作り、その新会社に組み込もうと画策している。富士通にわずかに残るのは、超ハイエンドのプロセッサであるSPARC64チップだけになる。これは市場の小さなスーパーコンピュータにしか使われなくなっている。富士通は、サーバ用にSPARCチップからインテルのXeonプロセッサに切り替えているからだ。

富士通の社長は記者会見の席上、「半導体はなくならない。重要になってくる。半導体ビジネスには、ある程度距離を置くが、サーバのCPUやキーデバイスがあるため富士通は深く関与していく」と述べている。しかし、これまでの半導体事業のいきさつを見る限り、ごく一部のSPARC64チップしか残さない。半導体を重要とは決して見ていない、と考えるのが普通だろう。半導体事業にビンタとリンチを加え、「お前を愛しているよ」と言っていることに等しい。ある半導体の元エンジニアは「富士通経営陣は半導体をゴミと見ている」、と正直に言う。

富士通の経営陣は、かつてはIBMしか見てこなかった。IBMが右といえば右を向いた。IBMがサービスに力を入れると言ったら、ハードを縮小してきた。10年以上までだが、富士通はハードの中核である半導体事業を縮小し、パソコン用のサービスとしてコールセンターなどに力を入れた。

しかし、IBMをきちんと取材すると、事実はハードを捨ててサービスに力を入れたのではなかった。ハードとソフトの資産を生かしてサービスという心を付けてシステム提案していた。

かつてIBMは単品の装置を売っていた。コンピュータ本体だけ、プリンタだけ、ストレージだけ、ソフトウエアだけ、といった装置やソフト単体をそれぞれの事業部が売っていた。しかし、顧客の要求をしっかり聞くと、装置単体ではなく、システムを構築して欲しかったという。コンピュータとプリンタ、ソフトウエア、ストレージなどを互いに接続・組み込んで、システムとしての性能・機能を満たす必要があった。そこで、IBMは装置やソフト単体ではなく、それらを組み合わせてシステムとして顧客に提供しようとした。この思想がソリューション提案のサービスなのである。すなわち、開発してきたハードとソフトの資産を利用してソリューションをサービスとして提供する。

10年以上前の話だが、当時の富士通の経営陣はこのIBMの戦略を全く理解していなかった。半導体事業を縮小したのはこの頃からだった。「これからはサービスの時代だからハードは要らない」、と言ってはばからなかった。そして、今回の半導体事業の解体につながっている。ハードウエアの中核となる半導体を切り捨てて、何をコアコンピタンスとするのか、今の経営陣も理解していないようだ。

IBMは今でも半導体を手放さない。半導体ビジネスにもサービスと言う概念を持ち込んだ。半導体製造サービスを今やファブレス企業などに提供しているし、最先端の半導体開発には、IBMコモンプラットフォームと呼ぶアライアンスを構築し、サムスンとグローバルファウンドリーズといった半導体メーカーとコストをシェアしている。この製造プラットフォームを使って半導体を設計するための設計ツールやIP回路(半導体チップ上の一部のカギとなる回路のこと)ベンダーも参加してエコシステムを作っている。コストシェアリングという概念で最先端の半導体を握っているのである。

富士通は、サービスを提供するのに、形までなくしてしまおうとしている。心だけではビジネスはできない。形あるものに心を吹き込むことでサービスが生きてくる。形をなくしてしまうことでどのようにしてサービスできるのだろうか。半導体が赤字なら黒字に転換させる経営手法を持ち込めば良いのである。切り捨てるものではない。これからの富士通経営陣の手腕が見ものである。

(2013/05/02)