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IoTで日本が勝つためには

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

IoT(Internet of Things)もM2M(machine to machine)も、ビッグデータもワイヤレスセンサネットワークも、パーバシブコンピューティングも、サイバーフィジカルシステムもユビキタスコンピューティング、さらにはインダストリアルインターネット、インダストリ4.0など、どれもこれも同じようなコンセプトを違う文化の人たちが違う言葉で表現している。数年前からIoTを追いかけてきて、2年ほど前にこの考えにたどり着いたが、うれしいことに、7月3日のセミナーで講師の一人が述べておられたことに我が意を得たりと思った。

株式会社エーイーティー主催AETワークショップ「Internet of Everythingへと更なる進化を遂げるIoT」に参加した。午前中の講演は聴けなかったが、午後からの講演を聴き、最後のパネルディスカッションのモデレータを仰せつかった。午後からの講演では、ワイヤレスセンサネットワークのセンサ端末(IoT端末)に使う電源をエネルギーハーベスティング技術で使おうとする研究や、センサを実際の建物の崩壊でどのようなデータが得られるかなどの研究があった。IoTは現実になりつつある。外国ではすでにセンサネットワークを商用化している所もある。

IoTもM2Mなど上に述べた概念はどれもセンサとネットワークによって、いろいろな物理空間の情報を簡単にコンピュータで扱えるようになるのである。だから、センサ端末、無数のセンサが結びつくネットワークトポロジー、3G/LTEなどのモバイルネットワークへデータを飛ばすゲートウェイ、クラウドインターネット、集められる巨大なビッグデータ、処理するコンピュータ、データを蓄積するストレージ、そしてビッグデータを解析してユーザーの除く目的や要求に応じたサービスを提供する。こういった一連のシステム全体をIoTともいう。

ただし、こういったシステムで工場の生産性を上げる目的に使われるのであれば、インダストリ4.0となる。製造業のビジネスモデルを単なる製品販売だけではなく、稼働のアベイラビリティを高め信頼性を高めると提供する機械を使うたびに料金を得る従量制のビジネスへの転換を図るのなら、インダストリアルインターネットになる。いずれも場合も、IoTシステムを基本とする。

全体の大きなシステムを作り、サービス提供まで含めるならば、1社で全てを実行することが難しい。だったら、だれかと組まなくてはならない。パートナーシップの構築が欠かせない。2社間からさらに多くのパートナーを組み入れるエコシステムへ発展させることができれば日本は間違いなく勝ち組になれる。

これまで日本は、IoT端末やセンサ端末など、目に見えるハードウエアを作ることは得意だった。しかし、全体のシステムを構築し、その元でサービスを提供することは得意ではないようだ。アップル社のすごい点は、このシステムをiPhoneというハードウエアを作り、App Storeを開き、通信オペレータが構築したモバイルネットワークを利用してサービスを提供したことである。グーグルやアマゾンと共に、OTT(Over-the-top)と呼ばれるゆえんだ。OTTのトップとは、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの通信オペレータだ。OTTは文字通りその上を行く。

日本がIoTで本当に勝ち組になるためには、ハードウエアだけを作るのではなく、モバイルネットワーク上のサービスも含めたシステムデザインも描くことが決め手となる。全体のデザインを描き、その中のハードウエア端末を設計製造するとなると、これまでの御用聞きと下請けの部品メーカーから脱却することができる。自社でできなければ、誰かと組み、システムデザインを明確にする。

そのためには自社の強みを売りにしたうえでのシステムデザインに必要な相手を見つけ、組むことになる。当然、海外に目を向け一緒に仕事することになる。

それを成功させるために必要なことは何か。相手を上から目線で見ないように相手の仕事を敬う姿勢・態度が重要なのである。相手はシステムデザインが得意で、自分はハードウエア作りが得意であることに自信を持つと同時に相手の得意なところを敬う態度・気持ちを持つことが重要だ。その相手は、日本人の男ではないかもしれない。外国企業の女性CEOかもしれない。

このようなパートナーシップからエコシステムへと発展させるためには、日本のビジネスマンは意識を変える必要がある。男女差別、国籍差別、言語差別、年齢差別、あらゆる差別を撤廃し、それぞれを敬う「訓練」が必要かもしれない。日本の女性側でさえ、「女だからお茶を入れなきゃならない」と考える古い意識を変えてもらわなければならない。ハラスメントはもってのほか。大声を出して相手を威圧したり、弱い立場の人間を恫喝したりするのは絶対にダメ。日本がIoTで世界に勝つためには、まず差別意識を徹底して撤廃することがまず第一歩だろう。もちろん、日本の良いシステムは崩さないようにすることが前提だが。

こういった意識を変えるためには、おそらく小学校からの教育システムまで変えていく必要がある。みんな平等でいて、算数の得意な人、国語の得意な人、運動の得意な人、絵の得意な人、音楽の得意な人、それぞれ自分の得意を褒め合い、各自の能力を引き出す(Educe)のである。これが教育(Education)の本質だから。今回のパネルディスカッションでは、教育問題にまで言及することになった。全て日本がIoTで勝つための方策である。

(2015/07/06)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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