Yahoo!ニュース

モバイルのトレンドはやはり5G、IoT、クラウド

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
MWCが開かれたFira Barcelona会場 2013年に撮影

先日、エリクソン・ジャパンでMWC2016の総括話を伺った。その親会社のEricssonはスウェーデンを拠点とする世界最大の通信機器メーカーであり、今では日本のNTTドコモやソフトバンク、KDDIなどの通信業者にもEricssonの製品は入り込んでいる。通信が有線から無線へと変化・拡大してきたことで、海外の通信機器メーカーは世界各地へと飛び出してきている。ノキアも携帯電話部門をマイクロソフトに売却した後は、通信機器メーカーとして世界各地の通信業者に入り込んできた。

残念ながら日本のNECや富士通など通信機器メーカーの海外知名度は小さい。これまで彼らはNTTに納める製品を作ってきた仕事がメインだったため、広いユーザーを求めて世界各地にマーケティングを繰り広げてこなかったためだ。従来のピラミッド構造の産業から早く脱出すべきなのだが、残念ながら日本のエレクトロニクス大企業は、世界レベルからはかなり低い位置にいる。経営ディシジョンの遅さも日本企業に共通する。シャープが好例だ。

さて、通信ネットワーク業者が主体のMWC(Mobile World Congress)2016では、世界のIT産業のトレンドを知ることができる。昨年あたりから気になっている5G、すなわち第5世代のモバイル通信技術はMWCでも最大のトピックスだったようだ。国内ではNTTドコモがMWCで15Gbpsを超えるデータレートの実験をデモするなど世界的な知名度を上げるために必死に取り組んでいる。

エリクソンによると、5Gの姿はこれまでの1G(アナログ)→2G(デジタル)→3G(高速デジタルでCDMA)→4G(さらに高速のOFDM)とやってきた進化とは異なるようだ。これまでは新しい方式が古い方式を置き換えてきたが、5GはLTE(4G)と10年くらいは共存していく。2Gから4Gまでは、ひたすらデータレートの高速化を目指してきたが、5Gは高速化だけではない。低速のIoT技術も共存する。そのための準備段階として、データレートが最高1Gbpsという4G(LTE-Advanced)時代からNB(狭帯域)-IoTなどのIoT向けのデータレートは遅いが消費電力が低い規格を4Gネットワークに乗せる方向だ。

5Gはもともと10Gbpsというとてつもなく速いデータレートを売り物にしてきたが、1ms以下という低レイテンシも規格に取り入れられそうになっている。5GでもNB-IoTに代表されるように遅いレートの通信も同じワイヤレス通信網で取り扱えるようになっている。

その準備として改めてLTEからNB-IoT規格を取り入れることが6月にも決まりそうだ。また、同じLTEを使いながらCat-M1と呼ばれるIoT向けの規格も最近確定した。つまり、IoT用の遅いデータレートのデバイスも同じセルラーネットワーク内で通信させよう、という動きである。規格は上記の二つに絞られそうだ。ともにバッテリ寿命を10年以上としている。データレートは上り/下りともCat-M1が1Mbpsで、NB-IoTは100kbps程度である。IoT向けのセルラー規格は、モデムの低価格化と10年の電池寿命、広い面積のカバー、サイト当たりの100万デバイスの接続、といった特徴を持つ。

もちろん、高速化の動きもある。世界初の商用1GbpsのLTEソリューション(クアルコム製のモデムチップ)をエリクソンが発表した。この延長に5Gがある。

さらに、今年のトピックスの一つが、免許不要周波数帯での通信規格だ。LAA(Licensed Assisted Access)と呼ばれる免許のいる周波数帯と免許不要の周波数帯の両方を使い、キャリアアグリゲーションも可能な手法である。もう一つ、MulteFireと呼ぶ免許不要の5GHz帯を使うLTEであり、Wi-Fiと競合する。

これらの動きは、モバイルネットワークを念頭に置いたものであり、その上でさまざまなモバイル端末が通信することになるため、コンテンツのデータ増大に備えるものである。

では、世界中のモバイル通信業者に提供するモバイルネットワークにエリクソンが対応するためには、どうすればよいか。NTTドコモやソフトバンク、KDDIだけではない。欧州のオレンジやO2、ボーダフォン、米国のベライゾンやAT&T、世界中のさまざまなモバイル通信業者はそれぞれの方式や仕様が異なり、一つの製品を世界の通信業者が使うことはない。エリクソンが知恵を絞った考え出したアイデアがクラウドRANという考えだ。最近モバイルネットワークのことをRAN(radio access network)と呼ぶが、RANそのものをクラウドベースで運用しようという訳だ。ここに仮想化の概念を持ってくる。

仮想化とは、もともとIT分野で企業のコンピュータを効率よく運用しようという考えから始まった。企業内コンピュータはメール用、ウェブ用、会計用、など専用のコンピュータを揃えながらも使われていないコンピュータがあるなどIT投資効率が悪いという問題を抱えていた。そこで、1台のコンピュータハードウエア内を仮想的なパーティションで分離して複数台あるように見せかけることにした。1台のコンピュータ内で分離した複数の『仮想コンピュータ』にそれぞれOSとCPUを配置し、まるで複数台のコンピュータがあるように見える。

こういった仮想化の概念をRANにも持ってくる。RANの世界でも、分散型RANや集中型RAN、フレキシブルなElastic RAN、仮想化RANなどを導入し、エリクソンはこれらを含む包括的な概念としてクラウドRANを考え出した。RANは今後、3G、4G、5G、キャリアアグリゲーションなどが混在するネットワークとなる。そこで、さまざまな通信業者の要求にこたえるためにより柔軟なネットワークアーキテクチャが求められている。

エリクソンの仮想化RANは、VNF(virtual network function)を分離アーキテクチャ上でプロトコルスタックの一部を商用市販のハードウエアに集中させ、それ以外を分散サポートする。これにより、RANとコア機能の両方を同じサーバ上で同時にホスティングできるようになる。性能を犠牲にすることなく仮想化できるため、少ないコストで運用を単純化できる。エリクソンの本社があるスウェーデンに設置されたリモートサーバで、仮想化されたRANを使えるようになる。仮想化とクラウドがカギとなる。

(2016/05/05)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

津田建二の最近の記事