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今なぜSTEMか

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
コンピュータという万能マシンを考え出したアラン・チューリングの描いた絵

最近STEM(ステムと発音)という言葉が使われるようになってきた。STEMは、Science(科学、理科)、Technology(技術)、Engineering(工学、生産技術あるいは実用化技術)、Mathematics(数学)の略である。これら昔から使われてきた言葉が、なぜ今更、流行語のように言われるようになってきたか。AI(人工知能)、IoT、5G通信、自動運転車、FinTech、バイオ、医療など新ビジネスと直結する手段となってきたからだ。

Scienceは言うまでもなく、理科、あるいは科学を意味するが、ここでは物事の原理や原則を納得できる形に解明することを表している。十年以上も前から「製造技術や生産技術をサイエンスする」と言われるようになっている。つまり、試行錯誤や技能者の感、といった手探りでの開発や製造の手法ではなく、明確な指針を与えるための手段がサイエンスに他ならない。

Technologyは技術、テクノロジーという日本語を当てはめるが、これはScienceに基づく原理を元に、何かを実現するための手段を指す。テクノロジーと称して、スマホやケータイ、パソコンの新製品を指す言葉として使っているメディアは多いが、それならその意味は永久にわからない。レジス・マッケンナという有名な広報マンがいるが、彼の言葉にザ・テクノロジー・トランスペアレント(技術の透明化)がある。これは製品に使われている技術が見えなくなることを表しており、彼はテクノロジー・トランスペアレントになる時期が製品の普及期だと述べている。ほとんどの人はスマホや携帯電話がどのような原理で通話できるのかを知らない。でも、ほとんどの人がそれらを使いこなしている。パソコンやタブレットも同じだ。

そしてEngineeringは、製品を作るための技術であり、学校では簡単に「工学」という言葉で表現しているが、その意味は単なる専門分野を表すことではない。実用化するための技術である。これがなければせっかく生まれたテクノロジーも腐ってしまうだけである。製品を万人に提供するためには、Engineeringがなければ不可能。だからこそ、とても大切な技術である。俗によく言う「死の谷」はEngineeringがないから、開発されたテクノロジーが実用化されないことがよくある。

最後のMathematicsは、単なる数学と言ってしまうものではない。アルゴリズムや物事を解くためのモデルの立案に使う手段である。例えば、シリコンという固体の中を電気が流れたり止めたりできる半導体トランジスタの動作を説明するために解く方程式があるが、それは電流や電圧の分布を表現している。つまり数学は、物事の起きていることをうまく説明するためのモデルやメカニズムを考え、実際の結果とうまく合わせて説明できるための手段となる。金融では、先物取引や、1週間後あるいは1ヵ月後の相場や商品価格を予想するための方程式があるが(考案した人たちはノーベル経済賞を受賞)、これはいつ(t)、価格(x)は時間の経過と共にどう変わっていくかを、自分でモデルやメカニズムを考え偏微分方程式で表現したもの。

これらS、T、E、Mがモノづくりはもちろん、新しいビジネスを作るのに必要不可欠な道具になってきている。これはコンピュータという概念があらゆるものに入ってきたことと関係する。コンピュータは、一つのハードウエアを作り、そこにソフトウエアを埋め込むことで様々な機能を加えたり独自性を与えたりできるマシンである。そのコンピュータはパソコンやスマホだけではない。電気釜やエアコンなど便利なものには半導体(マイコン)という形で入り込んでいる。だからこそ、これからの新製品や新ビジネスにも必要不可欠になる。

STEMは基本的には、学校時代に勉強していることが望ましい。しかも、高校や大学などの教師はその精神をきっちり教えるべきだ。また、それほど忙しくない文科系でもSTEMを教えるべきではないだろうか。そして、社会人になってからもSTEMを学ぶことは自分のキャリアに役立つように文部科学省は動いてほしい。STEMは政府が掲げるソサエティ5.0(その定義がいまだによくわからないが)という新しい情報社会の構築やアプリケーションにはマストである。STEMを使って新製品、新サービスを創造していくことは何よりも経済を活性化し、この国をもっと賢く発展させるために必要ではないか。

(2017/03/03)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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