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今後、世界、日本の市場はどう動くのか?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

世界の株式は、乱高下を繰り返しています。そのなかでも、日本の株式は上下に最も振れ幅の大きい動きをしています。これは、何を意味しているのでしょうか?

世界の株式が乱高下する背景には、アメリカ、日本をはじめとして世界の長期金利が上昇したこと、それを受けて投資資金の流れが逆回転したこと、その結果として為替市場も不安定な動きになったことが挙げられます。

まず5月22日のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言から、FRBが景気回復により量的金融緩和を縮小し、出口戦略を検討しているのではないかという疑念が生まれて金利が急騰、それまで円からドルへと流れていた投資資金が逆回転して円高に向かい、日本の長期金利も上昇したこともあって、日本株式は、23日16000円に迫ろうかの勢いから一転急落、前日比1143円安と13年ぶりの大幅な下落を演じました。

そこから日本株式は、乱高下を繰り返しながら、6月13日には12500円も割れて黒田総裁の新緩和政策を打ち出した4月4日の水準に達し、この3週間で2カ月ほどかけて上げてきた3000円近くを埋めてしまう下げとなり、大胆な金融緩和による上げ分を帳消しにしてしまったということになります。そして、18日までは世界の株式は乱高下しながらも大きく下落しない中で、逆に日本の下落が際立っていました。

しかし、ここにきて6月19日バーナンキFRB議長が量的緩和政策の縮小の方向性を明確にしたことで、長期金利が2.6%台まで上昇、ニューヨークダウは20日には大きく下落して15000ドルを割り14750ドル台へ、それに合わせて欧州株もドイツDAXが8000ポイントを割り、瞬間7655ポイントに達するなど大きく崩れ、世界的に株式が一時的に不安定になっています。

市場は、FRBの金融緩和の縮小によりこれまで大量に供給されてきた資金が市場から減るのではないかという恐れ(実際は、金融緩和を続けながらそのスピードを緩めるだけなのですが)から、これまでの株式、債券、為替の環境が変化することを意識し始めたといえます。日本、アメリカの市場の動揺が、世界に波及、特に新興国などの市場は、アメリカの金融緩和縮小から資金が本国へ回帰するのではないかという懸念から新興国通貨が下落し、株式も大きく下落しています。

日本を見ると、インフレターゲットを採用して国債などの資産買い付け増額により大量の資金を供給することで金利低下を促し、経済を刺激してデフレの解消を目指した黒田日銀総裁の大胆な金融緩和政策が、結果的に、景気回復と物価上昇期待から来る金利上昇と、一方で多くの国債を吸い上げ、市場での売買が細るなかで金利低下を促すこととの間には、大きな矛盾があることから、先行きに対する金利の落ち着きどころが見えなくなって、ボラティリティが上昇し、予想外に長期金利の不安定を招き、当初の0.6%前後から1%台にまで上昇したこと、そのために為替市場が円安一服から円高に転じたこと、そしてそれを後押ししたのがバーナンキFRB議長の議会証言によりアメリカの金融緩和の縮小懸念が広がったことが挙げられます。

とはいっても、アメリカの株式市場も乱高下していますが、ニューヨークダウでみて、5月22日に高値15542ドルをつけてから、瞬間最安値14551ドルになるくらいで、上下1000ドル前後の間で動いています。その他、ドイツやその他の欧州の株式市場も、上下に振れても高値圏で、日本ほど崩れているわけではありません。それに比べて、日本の株式市場は、500~1500円という大幅な乱高下を一方的に、しかも一日ごとに繰り返していますから、日本株式の乱高下には別に違った理由があるといえます。

それは、昨年11月14日に総選挙実施が決まったときから自民党の勝利、安倍政権の誕生を予想して11月13日の8600円台を底に上昇、そして打ち出すデフレ脱却、経済成長の政策(アベノミクス)による経済再生・成長への期待、円安の進行、そして黒田日銀総裁の大胆な金融政策で先行きの更なる期待が膨らみ、株式指標から見ればもはや買われ過ぎと思われる水準を超えて上がり続け、買えば上がる、上がるから買うようなミニバブル的な様相になっていました。

その点で、安倍政権への期待ということが、他の世界の株式市場とは異なり、大幅な上げ(11月から85%近い上昇)を演じてきたといえましょう。それが急落し、大きな乱高下を繰り返すようになったのは、きっかけはバーナンキの量的金融緩和縮小の可能性を言及した議会証言でしたが、それまでの日本株式の上げが膨らみすぎた期待によるものであったがためといえます。

そして5、6月においてアベノミクスの政策が期待に添わない内容になっていると見ると、すなわち日銀が打ち出した大胆な金融緩和政策がそれを抑制する具体的な手段が固まっていなかったために金利の上昇を招いたこと、もっとも重要な第3の矢である成長戦略が法人税減税や雇用規制の緩和などの大胆な政策に踏み込まないものであったことなどを市場が感じたときに、期待がしぼむように株式も膨らみすぎた上げ分を帳消しにする形で下落し、落ち着きどころを探して乱高下しているといえましょう。

それでは、これから、日本、そして世界の市場はどう動くのでしょうか?先行き不安から、1年先までは読める人はいないのではないでしょうか。もちろん、国内及び世界の経済が今のまま延長線上で推移するとしても、不安定な為替、株式、金融の各市場を見ている限りでは、半年先の状況も読みにくいのではないかと思います。

しかし、そもそも、先行きに対する見通しが見えないから、市場は不安を感じて動揺し、ちょっとしたことでも過剰に反応するから大きく乱高下するのであり、その不透明感が払拭されれば、将来への不安も緩和され、市場は落ち着くものだといえます。個人的には、6月19日のバーナンキFRB議長発言で量的金融緩和縮小の道筋を明示し明確化にしたことで、それがいつどのように行われるのかという不透明要因が緩和されましたから、一時的なショックで大きく下落したアメリカをはじめ世界の株式市場は今後も乱高下を繰り返しながらも、その上下幅を小さくしつつ落ち着きを取り戻していくと見ています。

そして、まだ量的金融緩和縮小が始まっていないなかで資本が逃げるのではないかという先行きへの恐れから新興国の為替や株式などの各市場が大きく下落していますが、アメリカを中心に先進国の市場が早く落ち着き、特に金融引き締めという懸念を払拭して、上昇しすぎた長期金利が正常に戻った上で、バーナンキFRB議長が予想しているようにアメリカ経済が堅調に回復するのであれば、世界経済も緩やかながらも堅調な拡大が続くという予想が広がり、新興国の各市場も安定してくることになりましょう。もちろん、アメリカ経済が予想外に緩やかな回復であれば、量的金融緩和縮小による懸念が後退して、長期金利は低下し、新興国を含めて世界の株式市場も落ち着きを取り戻し、再び堅調な動きになるのではないでしょうか。

一方、日本株式の乱高下は、アメリカの金融緩和縮小という要因とは別に、アベノミクスに対する評価という要因が影響していて、前者の要因が消えても、後者の要因が好転しないと、簡単には収まらない可能性があります。23日に行われた東京都議会議員選挙で自民・公明の与党が大勝し、7月に行われる参議院議員選挙でも与党の勝利が予想される中で、株式市場は、中国やアジア諸国の株式市場が資本逃避を懸念して大きく下落したことに引きずられるように大きく下落しました。もちろん、世界の株式も動揺しましたが、日本ほどひどく乱高下していないように見えます。

そう考えると、株式市場は、アベノミクスに対する厳しい評価があるために、他国と比較して大きく崩れた分を取り返せていないのではないかと感じます。国民が安倍政権に対して強く期待したのは、三本の矢を着実に実行して、デフレ脱却、経済成長を実現することです。投資家が三本の矢というアベノミクスに対する期待を完全に失うことになれば、これまでの堅調であった株式は振り出しに戻り、債券や為替は、財政赤字の拡大から悪い金利高、円安に振れるかもしれません。その意味で、日本の株式市場が堅調に推移するには、今後の安倍政権の経済運営にかかっています。今は、憲法改正よりも、アベノミクス期待から回復の芽がでている日本経済を本物にするために、金利の低位安定、成長戦略(今出ている項目でも確実にやり遂げれば成果が出ますし、その上で投資減税などの小手先ではなく、法人税減税や雇用規制の緩和、あるいは農業の規制緩和・自由化などの抜本的な規制改革などを行えば、大きな効果を生みます)の政策を着実に実行し、経済を立て直すことに全力を注ぐことといえましょう。

最後に、当然、今回の市場の乱高下は、何もなかったことになるのではなく、その傷は金融・経済に痕を残し、いずれ別の形で再び市場や経済を動揺させる問題へと醸成している可能性があると考えています。それは、アメリカのサブプライム問題から起きた金融・経済危機が欧州の債務危機を引き起こしたことと同様なことが想起されます。そして、今回の金融緩和縮小の方向性が、成長維持のための無理な政策によるひずみからインフレと景気減速にある新興国の経済に、資本流失などによる通貨下落から打撃を与えようとしていることが、次の危機を呼びこまないか危惧しています。

最近、中国、ブラジル、インド、ロシアなどの新興国、成長著しいトルコなどで、デモや暴動が起きているのは、そうした経済成長によるひずみの結果といえます。すなわち、長期政権のもとで無理な経済成長を行ったことで、その成長に乗れた人たちがいる一方で、成長に取り残されて貧困に喘ぐ人たちがいるなどして、経済格差の拡大というひずみが残っていたといえます。そこに、そうした人たちが、今回の市場の乱高下の中で物価高、失業などで一段と生活苦に直面し、しかも長期政権であるがゆえに腐敗がはびこる現在の政府に対して強い不満を持ち、それが爆発した結果として、デモや暴動となって現れているといえましょう。(中国の影の銀行問題も、そうした経済成長によるひずみの結果といえましょう。)といっても、問題はもう少し先に現れることでしょうから、当面市場は落ち着きを取り戻していき、世界経済も元の堅調な姿(とはいっても問題を内在化させて、何もなかったかのような姿)に戻るのではないでしょうか。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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