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鈴鹿市がようやくモータースポーツ振興に本腰!? 市役所にモータースポーツ専門部署も誕生!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
鈴鹿市の玄関口、白子駅に誕生したモニュメント

「F1日本グランプリ」や「鈴鹿8耐」を開催する鈴鹿サーキットが所在する三重県・鈴鹿市は日本で唯一、「モータースポーツ都市宣言」(平成16年12月24日)を行っている街だ。今年は宣言から10周年を迎える。それを機に鈴鹿市は平成26年4月1日より、商業観光課の中に「観光・モータースポーツ振興 グループ」を開設。さらに同グループと市内のモータースポーツ企業や団体が協力し、市民のモータースポーツに対する関心を高めるための市民講座を行う事になった。

鈴鹿サーキット
鈴鹿サーキット

市民対象のモータースポーツ講座がスタート

平成26年度の事業としてまず最初に末松則子市長の定例記者会見(4月17日)で発表されたのが「初心者のためのモータースポーツおもしろ体験・講座」の開催。これは鈴鹿市に縁のあるモータースポーツ関係者からモータースポーツに対する知識を学んだり、市内のレース関連の工場を見学したり、一緒にレース観戦を体験したりするもので、鈴鹿市ならではの無料体験プログラムになっている。

無料で参加できる講座のチラシ
無料で参加できる講座のチラシ

ただ、この講座は市民向けのプログラムで、小学5年生以上の鈴鹿市民、または在学在勤の人が対象だ。2輪コースと4輪コースがあり、2輪では「TSR」、4輪では「リアルレーシング」の工場見学も含まれており、モータースポーツファンにとっては是非とも参加したいプログラムだが、イベントのタイトルにあるように初心者向けのもので、モータースポーツに触れる機会があまりなかった市民にこれを機に関心を持ってもらいたいという思いがあるようだ。

鈴鹿市はモータースポーツ都市宣言を行ってから10年になるが、「モータースポーツのまち」として認知される市外県外のイメージとは大きく異なり、市民のモータースポーツへの関心は決して高いとはいえない。こういった企画はそういう現状を変える目的がある。

F1開催を失って、初めて市民が考え直した

平成16年(2004年)に行われたモータースポーツ都市宣言。その背景にあったのは1987年より鈴鹿サーキットで開催され続けていた「F1日本グランプリ」の開催地を巡る動きだった。当時、F1規格の新設計のサーキットに生まれ変わった「富士スピードウェイ」がF1開催に向けて動いており、ヨーロッパでは近い将来の日本グランプリ開催地の変更が既成事実かのように報じられていた最中だった。

F1日本GP開催時のピットウォーク。木曜日から多くの観客が来場するのは鈴鹿だけ。
F1日本GP開催時のピットウォーク。木曜日から多くの観客が来場するのは鈴鹿だけ。

折しも当時は中国GP(上海国際サーキット)、マレーシアGP(セパンサーキット)など新興国でのF1開催が始まり、世界的に国や自治体の行政がF1誘致に強く関与した開催権取得合戦が行われていた。鈴鹿での開催が危ぶまれる中、鈴鹿市はモータースポーツ都市宣言を行って行政としてのバックアップを名乗り出たが、当時の鈴鹿市はF1開催を一企業の活動と捉える考えが強く、F1開催における経済効果の大きさも充分に把握しているとは言えなかった。

F1の開催地は2007年から富士スピードウェイに移り、2006年は最後の鈴鹿での開催となった。16万人を集めた2006年の大会で行われた経済効果の調査によると、F1開催での鈴鹿市への経済効果は約76億9200万円。三重県への経済効果は約119億4500万円と算出されている(2009年のF1経済効果調査報告書より抜粋)。

これだけ大きな経済効果を失ったこと、そしてF1日本グランプリを失い、世間の鈴鹿に対するモータースポーツと結びつけるイメージが低下したことで、行政も市民も初めてその価値の高さに気づいた。鈴鹿市は行政サイドで音頭をとって周辺5市1町で結成された「F1地域活性化協議会」が中心になってF1再開に向けて動き、市内では「鈴鹿モータースポーツ市民の会(現・NPO法人鈴鹿モータースポーツ友の会)」が市民への啓蒙活動を行った。2009年から鈴鹿サーキットに再び「F1日本グランプリ」の開催が戻ってくるが、リーマンショック後の不況や日本チームの撤退により、現時点ではピーク時の2006年当時の経済効果には達していないと考えられる。

少しずつ見え始めた関心の高まり

10年前のモータースポーツ都市宣言の当時は行政がまず何に取り組むべきかを理解しているとは言えなかったが、ここ数年で鈴鹿市の行政サイドの動きも市民のモータースポーツへの関心も大きくトーンが変わってきている。その理由の一つが鈴鹿市内に「鈴鹿製作所」を構えるホンダのF1への復帰(2015年から)。そして、2011年に行われた「地域ブランド調査」で「スポーツのまち」として鈴鹿市がサッカーの磐田市や鹿島市を退けて1位になったという報道もこういった動きの変化を後押ししている。

国道の開通前イベントで走ったリアルレーシングのスーパーフォーミュラ用マシン
国道の開通前イベントで走ったリアルレーシングのスーパーフォーミュラ用マシン

また、鈴鹿市内にはレーシングカーを1000台以上生産した「ウエストレーシングカーズ」や、ロードレース世界選手権Moto2クラスで王者に輝いた「モリワキエンジニアリング」などモータースポーツ関連企業が数多くあり、スーパーフォーミュラやSUPER GTに参戦する「リアルレーシング」や鈴鹿8耐に参戦する「TSR」などのトップチームも鈴鹿に拠点を構える。また、鈴鹿8耐開催時には鈴鹿商工会議所青年部のメンバーが長年にわたって国内最大級のバイクパレード「バイクであいたいパレード」を開催して、鈴鹿市に来場するモータースポーツファンと街をつなぐ活動を行っている。この10年でそういった個々に行っていた活動が少しずつまとめあげられ、理解され始めたとも言える。市内、県内のメディアもモータースポーツを積極的に扱うようになっており、現在は10年前では考えられなかった報道ぶりだ。

鈴鹿市がモータースポーツ振興グループを設置し、市民向けの体験講座を開催し、市内のモータースポーツ企業や団体がこれに協力する。こういった企画が生まれる事はこの10年の大きな変化の現れといえる。今後はモータースポーツ振興を内向けではなく、「シティセールス」としていかに外に向けてアピールし、観光客を誘致し、「SUZUKA」の名前をブランドとして確立させられるかがポイントになっていくだろう。ちなみに、市民からの公募で選ばれた鈴鹿市の都市イメージキャッチコピーは「さぁ、きっともっと鈴鹿」(サーキットにかけている)。

鈴鹿市役所ロビーにあるモータースポーツ展示コーナー。全国的にも珍しい取り組み。
鈴鹿市役所ロビーにあるモータースポーツ展示コーナー。全国的にも珍しい取り組み。
モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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