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17歳でF1デビューするマックス・フェルスタッペン。カート世界選手権で見せた走り。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
写真:Red Bull GmbH and GEPA pictures GmbH

17歳でF1デビューを予定

来シーズン、F1「レッドブル」のジュニアチームである「トロロッソ」から17歳の若さでF1デビューを飾ることが決まったマックス・フェルスタッペンが話題を呼んでいる。

1997年9月30日生まれのオランダ人である彼はまだ16歳。日本では高校2年生にあたる若き少年が、高校3年生の年齢にしてF1デビューを飾る事になるのだ。運転免許の取得が18歳以上と定められている日本ではかなりアンビリーバブルな世界だが、F1の下に位置するフォーミュラカーレースの世界では15歳からトレーニングを始めるのは今や当たり前であり(小林可夢偉も16歳でフォーミュラカーレースに実戦デビュー)、海外のレースの世界では何ら不思議な事ではない。

マックス・フェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン

しかしながら、フェルスタッペンはまだ16歳。しかも、今年がフォーミュラカーレースに関しては全くのルーキーイヤーであり、フォーミュラに乗って1年に満たない経験の少ないドライバーである。そんな若手ドライバーがF1に乗るために必要な「スーパーライセンス」を取得できる事を懸念する声もある。それでも、レッドブルは彼をF1に押し上げることを決断した。

スピード昇格のフェルスタッペン

通常、レーシングカートのトップカテゴリーを10代前半に経験したドライバー達は16歳で「フォーミュラ・ルノー2.0」(排気量2000cc)という多くのシリーズ戦が開催されているカテゴリーでフォーミュラカーレースにデビューする。同レースを1年ないしは2年戦った後、「フォーミュラ3(以下、F3)」や「GP3」といったレースにステップアップし、そこから日本の「スーパーフォーミュラ」と同格の「GP2」「フォーミュラルノー3.5」といったレースを経てF1デビューを果たすのが典型的なパターンだ。

F1のシートが空くタイミングもあるので、カートのトップカテゴリー卒業からはやくても4年から5年かけてF1までの階段をかけあがるのが通常だ。それがフェルスタッペンにいたっては半年でデビュー決定。1年でF1実戦デビューを飾るというから、驚きのスピード昇格であることがお分かり頂けるであろう。これまでのF1最年少出走記録は2009年にデビューしたハイメ・アルグエルスアリの19歳125日。これだけでも充分なスピード昇格だが、アルグエルスアリが足掛け4年に渡ってフォーミュラカーの下積みを積んだのに対し、フェルタッペンは僅か1年というのだから異例中の異例の事態だ。

レーシングカート時代は?

フォーミュラカーレースを戦うレーシングドライバーのほとんどが登竜門にしているのがレーシングカートの世界。F1ドライバーをはじめ、国内レースのトップドライバーは、レーシングカートの時代からその名を知られる目立つ存在だったケースが多く、F1チームもカートを戦う少年達を青田買いして育成プログラムに囲い込むのは今や当たり前だ。

では、マックス・フェルスタッペンはどうだったのか?

息子のタイムを計り、サムアップするヨス・フェルスタッペン
息子のタイムを計り、サムアップするヨス・フェルスタッペン

実はマックスは今から2年前の2012年に鈴鹿サーキット・国際南コースで開催された「カート世界選手権」のレースに参戦している。当時14歳のマックスに関する情報は少なく、「フェルスタッペンの息子」という代名詞が先行していたという印象だ。

そう、マックスの父は元F1ドライバーのヨス・フェルスタッペン。日本のファンには「ヨス番長」というニックネームで親しまれた1990年代後半に活躍したドライバーだ。鈴鹿のレースには父ヨスも来日し、つきっきりで息子マックスにアドバイスを送っていたのが印象的だった。父ヨスもかつてレーシングカートの世界でトップクラスの選手だった時代があり、カート世界選手権にも参戦していたことがあるそうだ。

フェルスタッペン親子 【写真:MOBILITYLAND】
フェルスタッペン親子 【写真:MOBILITYLAND】

14歳にしては大柄で大人びた印象のマックス・フェルスタッペンだが、父親ヨスの個性が強すぎて走り出してすぐは「親の七光り」的な部分が目立った印象だった。しかし、走りを重ねて行くうちに徐々に速さを披露しはじめ、レースの軸になっていった。決勝レースのグリッドは後方からのスタートになったが、4レース行われたレースで強烈なオーバーテイクショーを披露。第4レースでは一時トップを走行するも、優勝目前で他車と接触し後退。最高位は4位に終わったが、このレースで「鮮烈な」印象を残したのは間違いなく、マックス・フェルスタッペンだった。

レースでは何度も競技団からの呼び出しを食らう暴れっぷりはもちろん、何が印象的かというと、マックスが初めて参戦したダイレクトドライブのカート最高峰カテゴリーレース「KF1」で並みいるワークスドライバー達と互角の勝負を見せたことだ。この年のカート世界選手権はレーシングカート界を牽引するスタードライバー達が参戦した年で、ビッグネームに勝負を挑む勢いは圧巻であった。さらにいえば、前年までKF3に参戦していたマックスにとって、初めてのKF1のレース。しかも、タイヤはヨーロッパで使われているものとは異なるブリヂストンのハイグリップタイヤを装着しての初レースだった。アジア遠征も初めて。無論、世界屈指の高速カートコースである鈴鹿・国際南コースも過去に走った経験はない。初めてづくしのレースで14歳の少年がいきなり見せたパフォーマンスは強烈なものだった。

後方グリッドでスタートを待つマックス・フェルスタッペン
後方グリッドでスタートを待つマックス・フェルスタッペン

レーシングスーツやヘルメットを見てもらえば分かる通り、この時点ではまだレッドブルによるサポートは受けていない。

フォーミュラはいきなりF3

マックス・フェルスタッペンは翌2013年からミッション付きカートのレースに本格的に転向。現在ではヨーロッパのカートレースの主流はダイレクトドライブからミッションカートに移行しており、若手ドライバー達もフォーミュラに上がる前にミッションカートの最高峰レースを戦うのがセオリーになっている。

2013年、マックスはミッションカートの最高峰カテゴリー「KZ1」のビッグレースで優勝。2013年末に初めてフォーミュラに乗り、今年、フォーミュラカーレースにデビューした。しかも、多くの若手が必ず経験する「フォーミュラ・ルノー2.0」ではなく、いきなり「FIAユーロF3選手権」にデビューしたのだから、これも異例の飛び級デビューとなった。

そして、F3デビュー後のレースが実に素晴らしい。現在の「FIAユーロF3選手権」は出場台数25台前後のハイレベルなメンツが集った選手権シリーズである。しかも、F3のレースでは高いドライビングスキルだけでなく、マシンに対する豊富な知識が求められるため、フォーミュラ経験のほとんどないルーキーがいきなり活躍できるようなレースではない。しかしながら、マックス・フェルスタッペンは今シーズンの第2ラウンドで優勝を飾ると、シーズン中盤で破竹の6連勝。(8月24日の時点で)ランキング2位につけ、残り2ラウンドの成績次第ではランキング首位のエステバン・オコン(17歳)を破って逆転チャンピオンも夢ではない位置につけている。

ユーロF3で活躍中のマックス・フェルスタッペン
ユーロF3で活躍中のマックス・フェルスタッペン

ルーキーイヤーにして、この異例の活躍ぶりに目を付けたレッドブルは8月になってジュニアドライバーとしての契約をマックス・フェルスタッペンと締結。そして、既にF1テストを経験しているアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(DTMドライバー)、カルロス・サインツJr.(フォーミュラルノー3.5参戦)、ピエール・ガスリー(フォーミュラルノー3.5参戦)、アレックス・リン(GP3参戦)らを差し置いて、マックス・フェルスタッペンはF1レギュラーの座を獲得してしまったのだ。

進むF1ドライバーの若年化

16歳でF1昇格決定。何もかもが異例の昇格。決してレッドブルの話題作りの一つではないだろう。F1トップチームは精巧なドライビングシミュレーターを有しており、ドライバーが持つスキルをデータから客観的に判断できる時代である。数あるドライバーの中から、年齢の話題性だけで何の根拠もなくマックス・フェルスタッペンを起用したりはしないだろう。

今シーズン、21歳のケビン・マグヌッセンをマクラーレンが起用し、レッドブルのジュニアチーム「トロロッソ」は20歳のダニール・クビアトを起用し、2人ともルーキーイヤーから素晴らしいパフォーマンスを披露していることからも分かる通り、下位カテゴリーでの経験やF1テストの走行量は必ずしもF1でのレースパフォーマンスとリンクしない。

「実力ではなく、持参金(持ち込みスポンサー)でシートが決まるF1」を嘆くファンが多いが、本当にそれだけだろうか?精巧なシミュレーションができるマシン製作技術を持ち合わせたF1チームが求めているのは、精巧なシミュレーターを使い、能力をデータ上で表せるドライバーなのではないだろうか。好データを弾き出せるドライバーを早い段階でF1の実車に乗せ、F1でトレーニングさせる。そんな時代が来ているのではないか。そう言う意味でも、マックス・フェルスタッペンの17歳でのF1デビューと今後は非情に興味深い。

関連記事:世界カート選手権レポート(2012年/STINGER)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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