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ホンダF1の未来を担うのはこの2人!〜SRS-Fスカラシップ選考会

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
SRS-Fスカラシップを獲得し、ホンダの育成ドライバーになった2人

11月12日(水)、平日の鈴鹿サーキット(三重県)で、熱い戦いが展開されていた。この日行われたのは、鈴鹿サーキットが主宰するレーシングスクール「SRS-F(鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラ)」の生徒から、ホンダのスカラシップ獲得者を決定する選考会だ。

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同校は1995年に開校したフォーミュラカーのレーシングスクールで、これまでに佐藤琢磨(F1、インディカー)をはじめ、松田次生、伊沢拓也、山本尚貴ら数多くのトップドライバーを輩出している。主席で卒業した者を筆頭にスカラシップ生にはホンダからレース参戦のための支援が用意されるため、SRS-Fからのスカラシップ獲得は上位カテゴリーにステップアップするための近道と言われている。

最終選考に4人が挑戦

今年のスカラシップ選考会には4人のドライバーが出場。SRS-Fは「体験スクール」に始まり、「ベーシック」と「アドバンス」のレッスンを経て、関門を突破した限られた選手だけが「スカラシップ選考会」に進出できるシステム。夏から始まった合計6日の選考会の結果と過程が考慮され、スカラシップ生が選ばれることになっている。

出場選手は金石勝英(神奈川県/18歳)、河野駿佑(東京都/18歳)、石坂瑞基(埼玉県/19歳)、上村優太(兵庫県/19歳)の4人。これらの生徒に加えて、現在はホンダの支援を受けてレースを戦う松下信治(2014年、全日本F3王者)、高橋翼(全日本F3)など卒業生6名が同一条件のスクールカーでレースを戦った。

レースはセーフティーカーも導入される波乱含みの展開に
レースはセーフティーカーも導入される波乱含みの展開に

この日の鈴鹿サーキットは朝方に降った雨が路面を濡らすウエットコンディションで計測走行(予選)が開始。徐々に路面が乾いていく難しい路面状況の中、2つのセット走行(レース)が行われ、首位でチェッカーを受けたのは全日本F3チャンピオンの松下信治。先輩としての貫禄を見せつけた走りだった。

難しいコンディションの中、緊張のせいか生徒たちのミスが目立ち、先輩の松下を上回る者は現れなかった。ただ、今日の走行に加えて、これまでの成長を含めた成果もスカラシップを選ぶ上での基準になる。走行を終えた時点では一体誰が選ばれるか全く予想できない展開になっていた。

そして、いよいよ緊張のスカラシップ生の発表の時が来たのである。

今年のスカラシップ生は上村と石坂

中嶋悟校長からスカラシップ獲得を告げられたのは2人。主席に上村優太(かみむら・ゆうた)、そして次席に石坂瑞基(いしざか・みずき)と発表された。

スカラシップ生を発表する中嶋悟SRS-F校長
スカラシップ生を発表する中嶋悟SRS-F校長
上村優太(かみむら・ゆうた) 最終走行前の緊張の表情
上村優太(かみむら・ゆうた) 最終走行前の緊張の表情

主席の上村優太は神戸市出身の19歳。2002年のF1日本グランプリを親子で観戦。その時に受けた衝撃からレーサーを志した。レンタルカートからレースをはじめ、本格的なレーシングカートのレースに参戦。それと同時に中学時代には陸上部に所属し、陸上200mでは県大会ベスト10入りも果たしている。レーシングカートでは鈴鹿サーキット・南コースで開催される鈴鹿選手権をメインに参戦。2013年にはCELL OPENクラス(125cc)で王者に輝いた。その王者のご褒美として獲得した鈴鹿サーキット国際レーシングコースの練習走行料金が無料になるスカラシップを存分に活かし、今年はSRS-Fと並行してスーパーFJ鈴鹿シリーズに参戦。元F3000ドライバーの舘善泰(たち・よしひろ)氏の指導の下、鈴鹿を走り込んで選考会に備えてきた。

石坂瑞基(いしざか・みずき)は16歳からフォーミュラに乗る慶応ボーイ
石坂瑞基(いしざか・みずき)は16歳からフォーミュラに乗る慶応ボーイ

次席の石坂瑞基は埼玉県・富士見市出身の19歳。キミ・ライコネンがごぼう抜きの優勝を演じた2005年のF1日本グランプリを観戦し、レーサーを目指す。両親がレースファンではなかったこともあり、何から始めるべきか見極めるのに苦労したと言うが、レーシングカートを始めてからはトントン拍子でステップアップ。2011年に全日本カート選手権KF2クラスでシリーズ3位になり、普通自動車免許取得前でも4輪レースに出場できる「限定Aライセンス」を獲得。16歳でフォーミュラカーレースのスーパーFJにデビューした。そして、2013年、GTドライバーとしてチャンピオン獲得経験もある道上龍(みちがみ・りょう)氏の指導を受け、スーパーFJ鈴鹿シリーズのチャンピオンを獲得。今年は主だったレース活動は行っていないが、SRS-Fのレッスンに集中して1年を過ごしてきた。石坂は慶応大学に在学する慶応ボーイということも注目すべきトピックスだ。

夢はF1ドライバー、そしてチャンピオン!

主席の上村、次席の石坂に共通するのは、共にF1日本グランプリの観戦がレーサーを目指すキッカケになったこと。2人が口を揃えて語るのは「夢はF1ドライバー、そしてチャンピオン」という大きな目標だ。

上村優太と石坂瑞基
上村優太と石坂瑞基

また、最近は国内でも小学校低学年からキッズ向けのレーシングカートでレースを始めたというドライバーが増え、レースキャリア開始の低年齢化が進んでいるが、彼ら2人はキャリア開始がとび抜けて早いわけではなく、カート時代もトップカテゴリーの超有名選手という存在ではなかった。しかし、いつかはフォーミュラカーのレーサーになる、そしてSRS-Fでホンダのスカラシップを得るという目標を胸にそれぞれのアプローチで努力を積み重ね、這い上がってきた選手達と言えるだろう。

主席で卒業した上村優太
主席で卒業した上村優太

来シーズンに彼らがスカラシップドライバーとして参戦するレースは現段階では発表になっていないが、国内でF4/FCクラスまたは新発足のFIA-F4のレースに参戦すると予想されている。2015年からはホンダがF1にパワーユニットサプライヤーとして復帰するタイミングで、夢のあるスカラシップ獲得は彼らのモチベーションをさらに高めてくれるに違いない。

来年、マクラーレンへのパワーユニット供給を行い、F1に参戦することになるホンダ。将来の日本人ドライバーの起用に対する国内のF1ファンの期待は大いに高まっている。今後の成果次第ではホンダがパワーユニットを供給するF1チームも増えていく事だろう。そういう意味で、彼ら2人は大事なタイミングで夢の実現へ向けた第一関門を突破したといえる。ホンダF1の未来、国内でのF1人気の回復を担うのはこの2人かもしれない。今後のさらなる成長に期待しよう!

【関連リンク】

鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラ

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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