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ホンダF1初優勝から50年。メキシコの空に吹けよ神風!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
65年F1メキシコGP優勝のホンダRA272 【写真:MOBILITYLAND】

ルイス・ハミルトン(メルセデス)の勝利で2015年のワールドチャンピオンが決定した2015年の「F1世界選手権」は1992年以来、23年ぶりの開催となる「メキシコGP」を迎える(決勝日は11月1日)。

ホンダにとって思い出の地

「メキシコGP」の舞台となるのは、メキシコシティ近郊にあるエルマノス・ロドリゲスサーキット。サーキットの名前は1960年代のメキシコを代表するF1ドライバーだったリカルド・ロドリゲス、ペドロ・ロドリゲスの兄弟に由来する。リカルド・ロドリゲスがノンタイトル戦として開催された地元メキシコGPで事故死すると、サーキットはリカルド・ロドリゲスサーキットと命名された。その後、1971年に兄のペドロ・ロドリゲスがヨーロッパのレースで事故死した後、現在の名前になった。「エルマノス」とはスペイン語で兄弟という意味だ。

同サーキットは今季より「マクラーレン・ホンダ」としてF1に参戦するホンダにとってはメモリアルな場所だ。1965年10月24日に開催されたF1「メキシコGP」で、ホンダF1チームのリッチー・ギンサーが3番グリッドからスタートし、見事F1での初優勝を飾ったのだ。今からちょうど50年前の話である。

F1初優勝を果たしたホンダRA272
F1初優勝を果たしたホンダRA272

F1に参戦して僅か2年目での快挙を成し遂げたホンダ。2輪グランプリを制し、鳴り物入りでF1に参入したホンダは1年目の1964年は完走できずにノーポイント(3戦のみ出場)。翌65年は2度の6位入賞でポイントを獲得したものの、決め手を欠くばかりか、現場部隊と日本の研究所の間には大きな軋轢があり、戦力アップの足かせになっていたとも言われている。今のようにインターネットで密にコミュニケーションができる時代ではなく、開発は思うように進まなかった。

翌66年からF1は排気量3000ccに変更されることが決まっており、小排気量1500ccで行われる最後のF1「メキシコGP」に、一度は現場を外されたF1エンジニアの中村良夫が向かった。そしてホンダに入社する前に航空機の設計に関わる技術者として働いていた中村は標高2300mという高地にあり空気が薄いサーキットに合わせて混合気を調整。中村の航空機で培ったノウハウは見事に功を奏し、ホンダは1度もトップを譲ることなくF1初優勝を果たしたのだ。

中村良夫が日本に勝利を伝えるために打った電報の言葉は「Veni, vidi, vici(来た、見た、勝った)」というジュリアス・シーザー(カエサル)の勝利宣言だったという。その奇跡の勝利、日本の技術者の歴史的勝利から50年の月日が流れた。

初勝利までの過程はホンダのYouTubeチャンネルでも紹介されているので、1960年代の第1期F1活動を詳しく知らない人はぜひこの機会に見て欲しい。

Honda原点コミックVol.5「来た、見た、勝った」

アメリカGPでの入賞で良い流れ

記念すべき勝利から50年というアニバーサリー的なタイミングであるにも関わらず、ラグビーフィーバーの冷めやらぬ日本ではメキシコの奇跡が改めて語られることも、報じられることも、ほとんどない。それは50年前のF1と今のF1は全く異なるもので、今季苦戦する「マクラーレン・ホンダ」の現状がそう簡単には好転しないことを多くの人が理解しているからだろう。

アメリカGPで好走したマクラーレン・ホンダ 【写真:PIRELLI】
アメリカGPで好走したマクラーレン・ホンダ 【写真:PIRELLI】

現在のF1はシーズン中のパワーユニット開発に大きな制限がある。今季は「トークン」と呼ばれる部品の点数を使うことで、限られた部分の改良が可能になっているだけだ。劇的な進化は期待できない。

ただ、先週末のアメリカGPではハリケーンの影響で大雨となり、走行セッションが中止されるなど荒れた展開になった。そんな中で、決勝レースも波乱含みの雨となったが、今季残りのトークンを使ってアップデートされた最新型パワーユニットを搭載するフェルナンド・アロンソが一時5位を走行。残念ながら終盤にトラブルを抱えて後退したが、チームメイトのジェンソン・バトンはさすがのレース功者ぶりで旧タイプのパワーユニットながら6位入賞を果たしている。悪くない流れで迎える50年後のメキシコGPだ。

とはいえ、コースレイアウトは当時とも異なるし、最後に開催された92年から比べてもコースは大きく変わっている。それでも変わらないのは2300mという富士5合目にあたる高い標高。ターボエンジンにも大きな負担がかかるだけでなく、全チーム全ドライバーにとって何もかもが初めての環境での難しい戦いだ。長いストレートは現在も健在である新エルマノス・ロドリゲスサーキットは「マクラーレン・ホンダ」にとっては厳しい戦いを強いられる可能性が高い。しかし、レースウィークは降雨も予想されており、いろんな意味で波乱含みになりそう。ホンダ初勝利の地、メキシコで奇跡は起きるか?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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