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鈴鹿8耐3度の優勝ライダー、高橋巧26歳はまだまだ世界の舞台を諦めちゃいない!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ホンダCBR1000RRに乗る高橋巧

「鈴鹿8耐」で実走ライダーとしては20歳7ヶ月の最年少優勝記録。優勝はすでに3回を数える高橋巧(たかはし・たくみ)はまだ26歳になったばかりだ。年齢的には若手といえるが、今年で「全日本ロードレース選手権」の最高峰クラスJSB1000は8シーズン目、そして「鈴鹿8耐」は通算9回目の出場を予定している。そのキャリアは既にベテランの域に入りつつある。

ホンダ系トップライダーの中央に立つのが高橋巧。まさにホンダが期待する証だ。
ホンダ系トップライダーの中央に立つのが高橋巧。まさにホンダが期待する証だ。

ホンダの強豪チーム「MuSaShi RT HARC PRO(ムサシ・アールティー・ハルクプロ)」から今年もホンダCBR1000RRを駆り、国内のレースを戦う。そして、ホンダ2輪活動のワークス=「HRC」契約ライダーとして、MotoGPマシン「RC213V」の開発テスト走行を担当。名実共に国内におけるホンダのエースライダーとしての地位を確立している。そんな高橋巧は新たなシーズンの幕開けをどんな気持ちで迎えるのだろうか?彼に話を聞いた。

冬はとにかくバイクに乗ってトレーニング

近年、高橋巧はシーズンオフ中も極力バイクに乗ってトレーニングを行っているという。

高橋巧
高橋巧

高橋「バイクに乗ってトレーニングするようになったのはここ数年で始めたんですけど、清成さん(清成龍一)と8耐で組んでからですかね。バイク乗りに行こうって誘ってくださって。最近は時間があればオフロードバイクに乗るようにしています。

そういうトレーニングをするようになってから、ロードレースに活かせる部分も見つけられています。乗り方も少し変わってきて、実際、去年は一昨年より(レース用バイクの)タイムがあがりました。(バイクに乗ることで)新しく何か探しながら良いものを見つけられれば、結果につながっていくと感じています」

トップライダー達がシーズンオフ中に実戦用のマシンでテスト走行するチャンスは意外に少ない。レース用マシンに乗れない時間はダートの路面を走り込み、日々バイクと接することで高橋巧はどんどん安定した走りを身につけてきた。ここ数年、彼自身が普段の努力で縮めてきたタイムは目を見張るものがある。それはチームスタッフも認めている部分だ。

8耐で昨年のリベンジを

その普段の努力の成果が最も発揮されるのが、真夏の耐久レース「鈴鹿8耐」。昨年は元MotoGPワールドチャンピオンのケーシー・ストーナーをチームメイトに迎え、決勝に向けてチーム一丸となってより良い状況を作ってきたが、決勝レース序盤でストーナーが転倒して、リタイアという悔しい夏になった。

2015年鈴鹿8耐、高橋はトップ争いを展開【写真:MOBILITYLAND】
2015年鈴鹿8耐、高橋はトップ争いを展開【写真:MOBILITYLAND】

高橋巧にとって9回目の挑戦となる8耐。経験も豊富で優勝3回の実績をもってすれば、手慣れたものだろうと思いきや、「いや、辛いですよ、8耐は」と苦笑いする。

高橋「タフなレースだから、一回、勝ちを味わうとやめられないレースの一つですよね。スプリントとは違って何が起こるか予想ができないし、天気だったり、自分が転倒する可能性だってありますし、いろんな要素があるので、予想しようにも予想できないレースなんですよ。

毎年、状況も違いますから。タイムが伸び悩んでいて、他のチームは1秒以上速かったりとかすると厳しいなと思う状況は毎年あります。でも、自分たちはできることをやるしかないので、コンマ1秒でもコンマ2秒でもアベレージタイムを上げられるように、最後までペースを落とさずに走りきれるマシンを作ることが重要です。そこが一番難しい。一人でやるわけじゃないので、そういう難しくて辛いレースだからこそ、勝った時の嬉しさは本当にすごいですよね」

何度優勝しようが難しいという高橋巧。近年はライバルメーカーが新型マシンを投入して戦闘力の高さを見せているが、ワークスマシンを準備するホンダからはリベンジにかける姿勢を感じ取っているという。

高橋「ホンダも8耐は重要視しているレース。去年の負けはホンダも絶対悔しかったと思うし、今年は絶対取り返すという気持ちもすごく見えます。それだけ動いてくださっているので、勝たなきゃいけないですし、今年は何とかしたいですね」

今年の「鈴鹿8耐」で誰と組むかはまだ決まってはいない。大先輩、経験の少ない海外の若手、そしてワールドチャンピオン。ありとあらゆるバックグラウンドのライダーと組んできた高橋巧は今年いったい誰と組むことになるのだろう。通算10人のトップライダーと組んだキャリアを持つ若手は彼以外にいない。

【高橋巧の8耐ヒストリー】

2008年 3位:小西良輝/高橋巧  (ハルクプロ・代役出場)

2009年 3位:高橋巧/亀谷長純  (桜井ホンダ)

2010年 優勝:清成龍一/高橋巧/中上貴晶(ハルクプロ)

2011年 3位:玉田誠/高橋巧/岡田忠之(ハルクプロ)

2012年 41位:清成龍一/青山博一/高橋巧(ハルクプロ)

2013年 優勝:高橋巧/ハスラム/ファンデルマーク(ハルクプロ)

2014年 優勝:高橋巧/ハスラム/ファンデルマーク(ハルクプロ)

2015年 リタイア:ストーナー/高橋巧/ファンデルマーク(ハルクプロ)

高橋巧
高橋巧

MotoGPマシンに乗ること

高橋巧のプロライダーとしての仕事はレースを戦うことだけではない。MotoGPマシンのテストライダーとしてレーサーマシン(レース専用バイク)で走りこむという大きな役割を担っている。

高橋「MotoGPマシンとJSB1000のマシンは、レース専用と公道用マシンで全然違います。MotoGPマシンはどんどん新しいものを試せますけど、JSB1000は同じように試したくてもそんなにできない現状はあるし、(MotoGPマシンの経験が)活かせる部分はそれほどたくさん無いとは思います。でも、同じ2輪なので、乗り方だったり、セッティング方法だったり、学ぶことはたくさんあります。開発優先だから、転ぶわけにはいかないですし。MotoGPはみんなが乗れるマシンじゃないし、それをJSB1000のレースにも活かさなきゃといろいろ考えながら乗るようにしています」

自分のレースとMotoGP開発テストはライダーの視点からは緊張感を含め、別物ということか。では、高橋巧は「スプリントレース」「耐久レース」「MotoGPマシンに乗ること」3つのうちどれが最も好きなのだろう?そんな質問を投げると高橋巧は「難しいですね。。。」とはにかむ。

高橋「(大きく息を吸って。。。)MotoGPのスプリントレースが一番良いです!」

MotoGP日本グランプリに参戦した高橋【写真:MOBILITYLAND】
MotoGP日本グランプリに参戦した高橋【写真:MOBILITYLAND】

与えてもらっている今の環境に感謝しつつ、近年は言葉を選ぶようにして慎重に発言することが多い高橋巧。しかし、ライダーとして正直な気持ちを語ってくれた。

高橋「去年、ワイルドカードで(MotoGP日本GPに)出させてもらって、やっぱりあの世界の舞台でレースできたっていうのが良い刺激になりましたし、やっぱり世界で戦いたい!っていう気持ちが出場してより強くなりましたね」

高橋巧は活き活きとした表情でそう本音を語った。2015年の日本GPにワイルドカード(スポット参戦)で出場した初めてのMotoGP。実はスポット参戦でポイント獲得という結果を残すことはとても難しい。だが、彼は決勝レースでは12位完走、ポイント獲得。本人は満足いかない順位でも「正直すごい楽しかったです!!」と決勝レース当日のブログにも記している。

「鈴鹿8耐」に代役初出場で3位に入り、その後4年連続で表彰台を獲得して期待の若手として注目を浴び続けることになった高橋巧。もっと早く彼を世界の舞台へ、と願ってきた人は多い。しかし、ライダーとして脂が乗って、本当に世界で勝負できるタイミングはこれからやってくるのかもしれない。そのチャンスを引き寄せるために、26歳の高橋巧は全日本ロードレースJSB1000、鈴鹿8耐に自分の持てる全てを捧げるはずだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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