【F1】F1の無料放送が日本で消滅。フジテレビF1中継30年目に突入も岐路を迎えた日本のF1。

F1オーストラリアGP(写真:ロイター/アフロ)

「BSの無料放送が無くなってF1中継が見れない!」

ネット上にはそんな日本のF1ファンの悲痛な叫びが多数書き込まれている。「オーストラリアGP」からスタートする2016年の「F1世界選手権」だが、今年は残念ながら衛星放送チャンネルの「BSフジ」によるF1の無料テレビ放送が行われない。フジテレビ地上波の全戦放送も2011年を最後に休止状態にあるため、ついに日本におけるF1無料放送は消滅してしまった。

マクラーレン・ホンダも参戦しているが。。。
マクラーレン・ホンダも参戦しているが。。。

日本でF1中継消滅の危機は脱した

今年も日本でF1中継を担当するのは「フジテレビ」。2016年のF1中継は有料のCS放送チャンネル「フジテレビNEXT・ライブプレミアム」で全21戦の全セッションが生中継される。また、同チャンネル加入者はインターネット配信でも視聴することができるようになっている。

このようにF1中継が完全に日本で無くなるわけではなく、有料だが視聴する方法はある。ただ、自宅の地理的な事情や経済的な事情などでCS放送に加入できない人もいるだろう。地上波放送、無料BS放送が行われないことは必然的にF1視聴者の人口が減ると考えられる。

ただ、それ以前に、今年は日本でF1中継が完全に消滅するかもしれない危機的状況があった。2016年からアジア地域におけるF1の放映権は米国資本の「FOXスポーツアジア」が獲得。日本でF1を放送するためには同社を介して放映権を得なければならなくなってしまった。フジテレビが直接F1統括団体と放映権についてのやり取りを行っていた昨年までとは異なる状況が生まれていたのだ。

フジテレビ以外のテレビ局(有料放送チャンネル)が放映権の獲得に向けて動いているという具体的な話もあったが、数十億円とも言われる高額な放映権料にすぐに手を引いたと聞く。1月後半の段階では日本のF1中継は絶体絶命の危機だった。しかし、そんな中、2月9日にフジテレビは上記のCS放送の継続を発表。有料放送のみとなるが、今年も何とかF1中継を日本で視聴することは可能になった。

難しい状況が続くF1中継の現在

地上波の無料放送では広告収入がベースになるが、数多くの日本企業がF1を広告媒体としていた時代に比べると現在は充分なスポンサー獲得が難しい。これはF1の人気があるないの話ではなく、現実的にF1はほとんどが深夜枠での放送となるためスポンサーが付きにくい、という事情が大きく影響していると考えられる。

テレビの放送枠はいわば米を作る田んぼのようなものである。テレビ局の立場からすると、大きな広告収入を見込めないコンテンツに放送枠を割くことはできない。広告収入を得られ、なおかつ低コストで制作できるコンテンツを放送する方が費用対効果はあるので、そういう選択をするのは企業としては当然だ。

また、フジテレビはF1を全戦放送のほかに「日本グランプリ」のホスト局として日本グランプリの国際中継映像を作る「仕事」をしていたが、近年はF1の国際映像は海外を転戦するクルーによって制作されており、現在はフジテレビが日本グランプリの国際映像を作っているわけではない。

テレビ局としての「旨み」が以前よりもはるかに少ない中でも、フジテレビがF1放送を毎年継続してきたことはある意味、奇跡かもしれない。

F1日本グランプリの冠スポンサーは長年、フジテレビがつとめた。
F1日本グランプリの冠スポンサーは長年、フジテレビがつとめた。

フジテレビF1中継は30年目に

2016年3月18日(金)、「フジテレビNEXT・ライブプレミアム」で放送されたオーストラリアGP・フリー走行の中継で、長年解説者を務めている今宮純氏が冒頭に「フジテレビが中継を始めて30年目。オーストラリアGPで500戦目」と感慨深く語った。1950年から始まったF1世界選手権の全936戦のうち、半分以上のレースをフジテレビは放送してきたことになる。

【1987年~】

フジテレビはF1中継を1987年ブラジルGPから放送開始。日本では初となる全戦中継だった。この年から日本人ドライバー、中嶋悟が日本人初のF1レギュラードライバーとして参戦。フジテレビは「日本グランプリ」(鈴鹿)の冠スポンサーも務めた(2009年まで)。

【1989年~】

F1ブームの象徴ともいえるマルボロカラーのマクラーレン・ホンダ
F1ブームの象徴ともいえるマルボロカラーのマクラーレン・ホンダ

開幕戦ブラジルGPから、現在は「報道ステーション」の司会を務める古舘伊知郎氏を実況アナウンサーに起用。プロレス仕込みの実況で日本に「F1ブーム」を巻き起こすキッカケを作る。「音速の貴公子、アイルトン・セナ」「中嶋悟のしこしこ納豆走法」などのキャッチフレーズはお茶の間にかなり浸透した。1991年、日本のF1ブームはピークを迎え、芸能人も数多くF1ファンを公言するように。ちなみに当時の「日本グランプリ」は録画放送で、夜8時からのいわゆるゴールデンタイム枠で放送された。

F1ブーム全盛期の1991年の日本グランプリ
F1ブーム全盛期の1991年の日本グランプリ

【1990年代半ば】

92年でホンダがF1から撤退。94年に人気ドライバーのアイルトン・セナが事故死し、その模様がテレビで伝えられると、日本のF1人気は急激に失速。古舘氏もこの時代にF1中継を離れている。バブル崩壊で日本のメーカー、スポンサーも相次いで撤退し、次なる見所の醸成が必要となった時代である。

F1を通じてモータースポーツ中継のノウハウを得たフジテレビは1996年に国内レースの「全日本F3000選手権」から「フォーミュラニッポン」へのリニューアルを主導。テレビ中継を通じて、F1を目指す次世代スターの発掘を始める。同レースからはラルフ・シューマッハ、ペドロ・デ・ラ・ロサなどがF1に昇格したほか、日本人F1ドライバー、高木虎之介の誕生も大きな話題となった。

【2000年代】

セナ亡き後のスター選手として、ミハエル・シューマッハが台頭。そこにジャック・ヴィルヌーブなどの若手選手も肉薄していたが、日本人の応援対象としてはインパクトにかけたのが1990年代の後半。

キミ・ライコネンを前面に押し出した当時のメルセデスブースの装飾
キミ・ライコネンを前面に押し出した当時のメルセデスブースの装飾

それが2000年代になるとホンダの復帰、トヨタの参戦もあり、再び日本にブームの兆しが見える。英国F3王者の佐藤琢磨がF1デビューすると、その期待値は高まり、再びF1が注目されるようになる。2003年からは若手タレントの起用が目立つようになり、山田優、永井大らが地上波F1中継の放送に加わった。この演出は賛否両論を生んだが、彼らのコメントを通じてジェンソン・バトン、キミ・ライコネンといったイケメンドライバーの存在が知られるようになり、それまでは男性が主に興味を示していたF1に女性ファンが増える要因となったといえる。

また、その一方で2003年からCSチャンネルでの放送をスタート。データを基にした詳細な解説を交え、地上波とは一線を画すコアファンに向けた放送を行った。

【2010年代】

リーマンショックの影響でホンダ、トヨタがF1から撤退。日本人ドライバー不在の年もあり、お茶の間から徐々にF1が姿を消すようになる。F1そのものが好きなコアファンは徐々にCS放送の視聴へと移行していった。2011年を最後に地上波の全戦中継は休止。2012年からは「BSフジ」でディレイ放送が行われた。

このようにフジテレビは30年という長い歴史の中で、ブームと停滞という紆余曲折を経ながらも放送を続けてきた。

地上波放送の復活を望む声もあるが

BSでの無料放送が消滅したことは個人的にも非常に残念なことだと思っている。というのも無料放送が無くなることで、これまでBSで視聴したファンのF1離れが懸念されるのはもちろん、新たなライトファンの獲得が非常に難しくなるからだ。今やテレビCMや広告でもF1の姿を目にすることはほとんどなく、インターネットで結果が伝わるだけでは新たなファンは生まれてこない。

長門さんが立ち上げたF1地上波放送復活を望む署名サイト
長門さんが立ち上げたF1地上波放送復活を望む署名サイト

中にはそういう状況を危惧してアクションを起こすファンもいる。Facebookで女性モータースポーツファンのグループ「モタスポ女子部」を主宰する長門亜弥さんは署名キャンペーンサイト「Change.org」で「F1地上波放送復活を」という署名活動を立ち上げた。彼女は「学生時代にたまたまテレビで流れていたF1を見て、ジェンソン・バトンを好きになりました。私は今年、CSに加入したのでF1中継を観ることができますが、たくさんの人がF1を観る入り口がなくなってしまうから」とキャンペーンを立ち上げた理由を話す。まだ100名程度しか賛同者が集まっていないが、ピュアな思いからインターネットを使ってアクションを起こした。

だが、現実的には署名を集めても上記のような難しい事情があり、山はそう簡単には動かない。F1ファンがこういうアクションをもっと行っても良いものだが、そういう活動は他にあまり見当たらない。きっと多くのF1ファンはSNSなどを通じ、F1中継を取り巻く事情を何となく理解しているのだろう。無いものは仕方がないと割り切った考えのファンが多いということか。

F1を伝えるテレビの役割、影響力は大きい。
F1を伝えるテレビの役割、影響力は大きい。

フジテレビがF1中継をスタートさせてから30年。すなわち、日本にF1が浸透し始めて30年だ。近年は親子孫の3世代でF1を楽しむファンも出てきている。2回に渡るF1ブームのおかげで、F1中継を見なくとも、F1を何となく理解している人口は意外に多く、潜在的なライトファンが存在する。

ただ、今年も日本人ドライバー不在のシーズンとなり、ライトファンは応援の対象を見つけづらいのも事実。今後、ホンダが上位争いを続けるようになり、期待の日本人ドライバーが参戦する時が来れば無料放送復活の機会も訪れるかもしれない。その日が来るまで、どんな形であれ、日本でF1の放送が続けられることを祈ろう。