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震災を乗り越え、参戦!「鈴鹿8耐」への出場権を獲得したホンダ熊本・社員チームの逆転劇!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
Honda緑陽会熊本レーシングの北折淳

4月14日と16日に発生した熊本地震の影響で工場施設が被災し、5月6日からようやく生産ラインを再開した「ホンダ熊本製作所」(大津町)。その製作所の従業員らで形成され、「鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」に毎年出場している従業員レーシングチームが、5月7日、8日に鈴鹿サーキット(三重県)で開催されたレースに出場した。

オートバイレースの祭典とも形容される夏の「鈴鹿8耐」にはホンダ、スズキ、ヤマハ、カワサキなどの従業員で形成される社員チームが数多く参戦しているのをご存知だろうか。

鈴鹿8耐に向けたレースに出場したホンダ従業員チームのピット
鈴鹿8耐に向けたレースに出場したホンダ従業員チームのピット

メーカーによって形態は異なるが、多くは従業員たちがクラブ活動としてレーシングチームを結成して参戦する。この「社内チーム」と呼ばれるジャンルのレーシングチームは実は日本のオートバイレースの黎明期から長きに渡って活動を続けている例が数多くあり、1978年から始まり今年で39回目の大会を迎える「鈴鹿8耐」の第1回大会から長きに渡って挑戦を続けている「社内チーム」もあるほどだ。

社員チームが鈴鹿8耐への出場枠を争う!

そんな各メーカーのバイク好き従業員が集まって活動する「社内チーム」だが、今年の「鈴鹿8耐」はFIM(国際モーターサイクリズム連盟)が「世界耐久選手権」の1大会での参戦台数を70台と定めたことで、今年は「8耐トライアウト」なる選考会レースに出場しなくてはならなくなった。

鈴鹿200kmレースのスタート 【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿200kmレースのスタート 【写真:MOBILITYLAND】

その選考会の最初の大会が4月24日に決勝レースが行われた全日本ロードレースJSB1000(排気量1000cc)の開幕戦「鈴鹿200km」レース。地震の被害にあったホンダ熊本の3チームもこのレースに出場を予定していたが、その前週に地震が発生したため、このレースを欠場。

すでに「ホンダ熊本レーシング」は出場権を獲得していたが、「Honda緑陽会熊本レーシング」「HondaブルーヘルメットMSC熊本」の2チームは選考会「8耐トライアウト」を通過しなくてはならず、5月8日の最終選考会「8耐トライアウトファイナル」に意を決して出場した。この「8耐トライアウトファイナル」には鈴鹿8耐の出場枠を争う51台がエントリー。その中で上位17位までが出場権を獲得するという厳しい戦いだ。

奇跡の大逆転劇で鈴鹿8耐へ

熊本から遠征して参戦したHonda緑陽会熊本レーシング(手前のマシン))
熊本から遠征して参戦したHonda緑陽会熊本レーシング(手前のマシン))

「8耐トライアウトファイナル」にホンダ熊本製作所の従業員クラブチームである「Honda緑陽会熊本レーシング」からは井上拓海(いのうえ・たくみ)、北折淳(きたおり・まこと)の従業員ライダー2人が出場。

運命を決める決勝レースでは17位以内を走っていた頼みの綱、井上拓海が転倒。その時、北折は18位以下の落選エリアを走行。万事休すかに見えた状態だったが、残り5周ほどのレース終盤、北折が自己ベストタイムをマークしながら17位のチームを猛追。サーキットの観衆の目はギリギリの状態で攻め続ける北折の走りに釘付けとなった。

17位の最後の枠を争うチームの戦いはファイナルラップまで熾烈を極める接近戦に。刻一刻と変わる当確ラインに、最後まで気の抜けない戦いが展開された。そして15周のレースを終えてチェッカーフラッグを受けた時、北折淳は16位でフィニッシュ!「Honda緑陽会熊本レーシング」は17位以内に与えられる出場枠を見事に勝ち取った!

16位完走でチームの8耐出場権獲得を果たした北折淳
16位完走でチームの8耐出場権獲得を果たした北折淳

残念ながら研究所の従業員チーム「HondaブルーヘルメットMSC熊本」(ライダー:森健祐)は26位フィニッシュで出場枠獲得ならず。落選の結果に終わった「HondaブルーヘルメットMSC熊本」だが、主催者推薦により決定される11台の枠で出場できる可能性もまだ残されているが、こればかりは分からない。

しかし、製作所の施設内はもちろん従業員たちが住む地域がライフラインの復旧がまだ完全ではない中、熊本から鈴鹿サーキット(三重県)まで遠征し、「8耐トライアウトファイナル」に出場したことにまずは大きな拍手を送りたい。

ホンダ熊本レーシングは2人が表彰台

また、既に出場枠を持っていた「ホンダ熊本レーシング」の従業員ライダー、小島一浩(こじま・かずひろ)と吉田光弘(よしだ・みつひろ)は同じ日に行われた「鈴鹿サンデーロードレース・インターJSB1000」のレースにスポット参戦した。鈴鹿から遠方のチームにとっては、こういったレースは本番を想定したテストを行う重要な機会となる。

ホンダ熊本レーシングの吉田光弘
ホンダ熊本レーシングの吉田光弘

練習もほとんどできない状態で挑んだレースで小島が見事にポールポジションを獲得。レースでは小島が逃げ、そして吉田は2位争いを展開する好走を見せ、サーキットの観客を沸かせた。10周のレースで、小島がトップを譲ることなく逃げ切って優勝、吉田が3位表彰台を獲得。九州を代表する8耐参戦チームといえる「ホンダ熊本レーシング」の大活躍に観客からは惜しみない拍手が送られた。

優勝した小島、3位の吉田が表彰台に。
優勝した小島、3位の吉田が表彰台に。

実は最初の震度7を記録した地震の翌日、九州のサーキット「オートポリス」でテスト走行を予定しており、バイクはトラックに乗せられ固定された状態だったため、マシンの破損を免れたそうだ。そして、彼らは鈴鹿サーキットのレースになんとか出場することができた。

震災の影響で暮らしも仕事もまだまだ大変な中、「鈴鹿8耐」にかける彼らの意気込みは大きく、力強い。ホンダのバイクの多くは熊本製作所で生産されている。バイクを自らの手で組み立て、バイクを愛してやまない従業員たちのレース活動に心が熱くなった週末だった。震災で被害に合われた方々の一日も早い復旧を願い、夏の「鈴鹿8耐」では九州から出場するチームがさらに心に残るドラマを展開してくれることを祈ろう。

写真提供:Gallery Type S

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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