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【インディ500】賞金総額は約15億円!ついに100回目を迎える世界最大の自動車レース

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
インディ500(2014年)(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

5月、6月は「世界3大レース」と呼ばれる有名な自動車レースのシーズンだ。F1の「モナコグランプリ」(5月29日決勝)、アメリカのインディカーシリーズの「インディアナポリス500マイルレース(インディ500)」(5月29日決勝)、そして、スポーツカーレースWEC(世界耐久選手権)の「ルマン24時間レース」(6月18〜19日決勝)がそれぞれ開催される。

この3つのレースのうち、最も長い歴史を誇るのが1911年(明治44年)に第1回大会が開催された「インディ500」である。戦時中の休止期間を経て毎年1回開催されており、なんと今年で100回目の大会を迎えるということで、数ある自動車レースの中でも歴史と伝統で群を抜く存在だ。

賞金総額15億円。アメリカの国民的レース

「インディ500」はアメリカ・インディアナ州の州都であるインディアナポリスにある「インディアナポリス・モータースピードウェイ」(1周2.5マイル=約4km)で開催される。現在は日本人ドライバー佐藤琢磨も参戦する「インディカーシリーズ」の1戦として開催されているが、元々は単独のレースとしての開催だった。のちにレースはシリーズ戦の1戦となるが、アメリカの自動車レースは主にダート(土)の路面を使用したものが中心であり、数少ない舗装されたコースで開催される「インディ500」を走るレーシングカーはいつからか「インディカー」と呼ばれるようになっていった。

シリーズの中の特別な1戦であった「インディ500」は今やアメリカにおけるモータースポーツの象徴的な存在となっており、アメリカ人でその存在を知らない人はまず居ないと言える「国民的レース」なのだ。

インディ500の観客数は決勝だけで約40万人と言われる。写真は2011年。
インディ500の観客数は決勝だけで約40万人と言われる。写真は2011年。

その特別な存在感は多額な賞金にも表れている。2015年の賞金総額は1340万ドル(約15億円)で、優勝者のファン・パブロ・モントーヤは約2.7億円をこのレースだけで稼ぎ出している。全200周で争う決勝レースの1周ごとに賞金が用意され、優勝できなくても数千万円が稼げてしまう、まさにアメリカンドリームなレースなのだ。

1911年 第1回インディ500の優勝マシン、マーモンWASP
1911年 第1回インディ500の優勝マシン、マーモンWASP

そして、「インディ500」がアメリカ国民に知られる存在になった理由は他にもある。このレースは1911年の第1回大会から毎年5月の戦没者追悼記念日(メモリアルデー)の週末に開催されていて、全米に生中継される。そのテレビ中継の中では必ず紛争地で働く米軍兵の姿が映し出され、メモリアルデーに合わせたセレモニーも行われる。そして、恒例のアメリカ国歌の斉唱の後は米軍機が飛来する。追悼記念日に合わせた厳粛な雰囲気の後、エンターテイメントの世界へ一気になだれ込む演出は伝統的に守り通されている。これがアメリカの国民的な恒例行事の一つにモータースポーツイベント「インディ500」が存在する理由といえる。

100回目の大会のウイナーは誰に?

第100回「インディ500」の決勝レースは現地時間の5月29日(日)に開催されるが、すでに「インディ500」に向けた走行は始まっている。スターティンググリッドを決める予選は非常に複雑なものだ。ただ、5月22日(日)にはポールポジションを決定する「ポールデー」が行われ33台のスターティンググリッドがレースの1週間前に決定する。「インディ500」は1列3台、11列で33台の隊列を組んでスタートするのも伝統だ。

そんな33台の枠に対して出場するドライバーは33人。今年は予選落ちするドライバーはいない。33人のうち母国アメリカのドライバーは14人と半数以下で、近年はヨーロッパや中南米のドライバーが多数参戦している。かつてはアメリカ人が中心のレースだったが、2000年代になってから優勝を飾ったアメリカ人は2014年のライアン・ハンターレイ、2006年のサム・ホーニッシュ・ジュニア、2004年のバディ・ライスの3人だけ。アメリカの国民的レースイベントでありながら、外国勢に押され気味の状況になっている。

ただ、今大会は記念すべき100回目の大会。アメリカ人なら誰もが夢見る「インディ500優勝ドライバー」の座を狙ってくるだろう。アメリカ人の中で国民的注目を集めるのはマルコ・アンドレッティとグレアム・レイホールの2人。マルコ・アンドレッティはF1ワールドチャンピオンで1969年のインディ500優勝ドライバー、マリオ・アンドレッティの孫。そして、グレアム・レイホールは1986年のインディ500優勝ドライバー、ボビー・レイホールの息子である。どちらもアメリカのレースにおける象徴的な家族に生まれたドライバーだが、現役生活はかなり長きに渡っているものの、いまだにアメリカ人としての栄光にたどり着けていない。国民的関心ごとになるのは間違いない。

マルコ・アンドレッティとグレアム・レイホール【写真:本田技研工業】
マルコ・アンドレッティとグレアム・レイホール【写真:本田技研工業】

また、「インディ500」には「インディカーシリーズ」には全戦参戦せず、このレースのみ、あるいは楕円形のオーバルコースだけ参戦するドライバーも居る。これはアメリカにはオーバルだけでレースをやってきたオーバルマイスター的な選手が多い、いかにもアメリカ的な特徴といえる。その一人が1996年のインディ500優勝ドライバー、バディ・ラジアー。毎年この「インディ500」だけに参戦するが、近年は予選落ちも2回経験している。今年も48歳にして挑戦する。アメリカ人としては昨年「インディカーシリーズ」でランキング7位となったジョセフ・ニューガーデン、2014年のウイナーであるライアン・ハンターレイも注目。そして、これまたオーバルマイスターの地元インディアナポリスのドライバー、エド・カーペンターも悲願の優勝を狙う。

外国勢としてはファン・パブロ・モントーヤ(コロンビア)、トニー・カナーン(ブラジル)、エリオ・カストロネベス(ブラジル)、スコット・ディクソン(ニュージーランド)といったインディ500優勝ドライバーたちがトップチームから参戦していることからも優勝候補になることは間違いない。

日本からは佐藤琢磨が優勝を狙う!

100回目となる「インディ500」の注目はやはり佐藤琢磨の活躍だ。日本人唯一の現役インディカードライバーであり、2012年のインディ500ではダリオ・フランキッティと最終ラップで優勝争いをし、アメリカのファンの喝采を浴びた。

佐藤琢磨は今年もA.J.フォイトのチームから参戦【写真提供:本田技研工業】
佐藤琢磨は今年もA.J.フォイトのチームから参戦【写真提供:本田技研工業】

その走りが認められ、インディ500最多優勝経験(4回)の記録をもつアメリカの象徴的レーサー、A.J.フォイトのチームに翌年から加入。小規模な体制でありながら、日本人として初めてインディカーシリーズの優勝を飾る(ロングビーチ市街地コース)など、佐藤琢磨の存在はすっかりインディカーでおなじみになっている。「インディ500」は自身7回目の挑戦であるが、これまで6回のチャレンジのうち最高位は13位と「インディ500」では思うような結果につなげられていない。ただ、近年のチームは体制強化を行っており、今年最後まで諦めないレースを展開するだろう。予選での速さも重要ではあるが、200周という長い決勝レースで戦えるマシンができたとしたら、2012年のようなラストチャンスにかける走りが期待できる。

果たして、アメリカの国民的レース「インディ500」の100回目のレースで勝つのはどのドライバーだろうか?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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