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【MotoGP】8人の勝者を迎えて、いよいよ始まる日本グランプリで勝つのは誰だ?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ヴァレンティーノ・ロッシ(写真:ロイター/アフロ)

10月14日(金)〜16日(日)にツインリンクもてぎ(栃木県)で開催される「MotoGP MOTUL日本グランプリ」に熱い注目が集まっている。ロードレース世界選手権の中で最高峰に位置する「MotoGP」クラス(排気量1000cc)は今季からフランスのミシュランが公式タイヤサプライヤーに就任。さらに今季からエンジンを制御するコンピューターである「ECU」(エンジンコントロールユニット)が全車共通化されるなどレギュレーション変更が影響し、毎戦、予測不能で非常にドラマチックなレースが展開されている。近年稀に見る面白さを感じる混戦ぶりだ。

MotoGP【写真:MOBILITYLAND】
MotoGP【写真:MOBILITYLAND】

既に8人のウイナーが誕生!

今季の混戦ぶりは8人という優勝者の数だけを見てもよく分かる。2015年の優勝者は4人。2014年も2013年も4人で、これまでの3シーズンはホンダとヤマハのワークスに所属するマルク・マルケスダニ・ペドロサヴァレンティーノ・ロッシホルヘ・ロレンソしか勝利を掴むことができなかった。そんなシーズンが3シーズンも続いていたのである。

それが今年はまだ日本グランプリを含めて4戦を残す中で8人もの優勝ライダーが誕生している。これは2002年にMotoGPクラスが始まって以来の最多記録。それ以前の500ccクラス時代を含めても、メーカーのファクトリーバイクが戦う最高峰クラスにおいて、これだけ多くのライダーが優勝を分け合うシーズンは歴史上稀なことと言えよう。

中でも今季躍進しているのが復帰2年目の「スズキ」。2016年の規定で新興勢力である「スズキ」には今季のエンジン開発が認められており、エンジンの年間使用基数も「ホンダ」「ヤマハ」「ドゥカティ」の既存メーカーが7基であるのに対し、「スズキ」は9基使用可能という利点がある。特に今季からECUが各メーカーごとの独自開発製品ではなくイタリアのマネッティマネリ社のものに共通化されたことで、「スズキ」はこれまで以上に既存メーカーとの差を詰めることができた。そして、第12戦・イギリスGPでついにスズキGSX-RRに乗るマーベリック・ビニャーレスが優勝。「スズキ」は9年ぶりの最高峰クラス優勝を達成した。日本GPでも台風の目になることは間違いない。

スズキGSX-RRとビニャーレス【写真:MOBILITYLAND】
スズキGSX-RRとビニャーレス【写真:MOBILITYLAND】

日本GPで勝つのは誰か?

新興勢力ということで優遇措置を受けるメーカー「スズキ」「アプリリア」は3位以上でフィニッシュすると「コンセッションポイント」という来季以降の優遇に対する指標ポイントが加算されていく。このポイントは6点が分かれ目で、6点を獲得すると来季以降は「ホンダ」「ヤマハ」「ドゥカティ」などと同様に開発が自由にできないという制限を加えられることになる。「スズキ」はこれまで3位(1点)が1回、優勝(3点)が1回で4点を獲得しているので、あと1回2位(2点)以上でフィニッシュすると来季は既存メーカーと同じ条件で戦わなくてはいけない。

来季は「ヤマハ」ワークスへと移籍することが決まっているマーベリック・ビニャーレスにとって「スズキ」で走るラストの日本GP。条件が整えば、いろんな意味で勝ちにくるだろう。未来のワールドチャンピオン最有力候補でもあるビニャーレスと「スズキ」の活躍に注目が集まるが、ビニャーレスのツインリンクもてぎでの優勝はMoto2、Moto3時代にはない。

日本グランプリ(ツインリンクもてぎ)でMotoGPクラスの優勝経験があるのはダニ・ペドロサ(ホンダ)、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)、ヴァレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)の3人。ここ5年間はペドロサ3勝、ロレンソ2勝でスペイン人2人がツインリンクもてぎで強さを見せている。今年は応援席も作られる(あっと言う間に完売)ほどの人気者のロッシに至ってはなんと2008年以来、ツインリンクもてぎでの勝利から遠ざかっているから驚きだ。ただ、ロッシはドゥカティ時代とヤマハ復帰の2013年を除いては表彰台を獲得しているだけに、日本のファンはロッシの優勝を期待したいところだ。

ランキング首位のマルク・マルケス【写真:MOBILITYLAND】
ランキング首位のマルク・マルケス【写真:MOBILITYLAND】

そして、現在ポイントランキング首位で2位のロッシを52点引き離すマルク・マルケス(ホンダ)に目を向けてみると、MotoGPクラスに関して彼はツインリンクもてぎで未勝利。ただ、マルケスはGP125時代に2010年に優勝、Moto2時代にも2012年に優勝しており、ツインリンクもてぎでのMotoGP初勝利、三階級優勝に期待がかかる。

しかしながら、チームメイトのダニ・ペドロサはGP125(2002年・パシフィックGP)、GP250(2004年)、MotoGP(2011年、12年、15年)とツインリンクもてぎの三階級制覇を達成しており、ツインリンクもてぎマイスターのペドロサはマルケスの大きな壁として立ちはだかる。第13戦・サンマリノGPで今季初優勝を果たしたペドロサにとって、チャンピオン争いに残るためには日本GPは負けられないレースだ。

そして、第13戦・サンマリノGP以降、2戦連続表彰台を獲得したホルヘ・ロレンソもツインリンクもてぎを得意としており、2勝を含む5年連続の表彰台を獲得中。もてぎで第6戦・イタリアGP以来の今季4勝目を掴めるか?

ツインリンクもてぎを得意とするペドロサ【写真:MOBILITYLAND】
ツインリンクもてぎを得意とするペドロサ【写真:MOBILITYLAND】

来季に向けて見納めの組み合わせ多数

ライダー、メーカー、マシン間の大きく開いていた差が縮まったことにより、面白さが増した今季のMotoGPクラス。何といっても群雄割拠なライダーたちが接戦状態の中、ツインリンクもてぎで鍔迫り合いを演じるということで楽しみだ。そして、もう一つ、来季はライダーの移籍が相次ぐので、見納めになる組み合わせも多い。

まず、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)は来季から「ドゥカティ」に移籍する。2008年から9シーズンもの長きに渡って「ヤマハ」に在籍し、3度のワールドチャンピオンをもたらしたスペイン人ライダーが「ヤマハ」で走る姿は見納めだ。ツインリンクもてぎでの自身3勝目を日本のヤマハファンへの置き土産とできるだろうか。

ホルヘ・ロレンソ【写真:MOBILITYLAND】
ホルヘ・ロレンソ【写真:MOBILITYLAND】

その「ヤマハ」には先述のように「スズキ」からマーベリック・ビニャーレスが移籍。一方で「スズキ」には「ドゥカティ」からアンドレア・イアンノーネが移籍する。イアンノーネのチームメイトはMoto2クラスでランキング2位のスペイン人、アレックス・リンスとなることが決まっており、Moto2クラスでのリンスの走りにも注目だ。それと同時に「スズキ」のアレイシー・エスパロガロは来季から新天地「アプリリア」に移籍する。

「アプリリア」のステファン・ブラドルは来季から「スーパーバイク世界選手権」への転向が決まっており、ホンダのライダーとなる。鈴鹿8耐への出場があるかもしれない。またアルバロ・バウティスタは来季からドゥカティのプライベーターであるアスパーに移籍する。

そして、「ヤマハ」のライダーとして鈴鹿8耐の勝利にも貢献してきたポル・エスパルガロブラッドリー・スミスの2人は来季から新規参戦の「KTM」に移籍。新しいメーカーのワークスライダーとしての挑戦が彼らを待っている。彼らが乗るテック3のヤマハサテライトチームにはMoto2からヨハン・ザルコジョナス・フォルガーがステップアップを果たしてくる。ザルコのMoto2での2年連続日本GP優勝にも期待がかかる。

このように「ホンダ」ワークスのレプソル・ホンダを除いては、もう把握ができないくらいにグチャグチャに移籍する来季。それぞれのメーカーのファンは今年在籍するライダーに加えて来季から移籍してくるライダーにも注目してレースを楽しめるという魅力もある。

MotoGPクラスにはワールドカード参戦で「ヤマハ」から中須賀克行が参戦。さらにMoto2クラスではレギュラー参戦する中上貴晶の地元優勝への期待が高まっているし、長島哲太関口太郎浦本修充らのワイルドカード参戦組の活躍も大いに期待。Moto3では尾野弘樹が地元でトップ争いに加わり、今季ベストリザルトを残せるかも注目。とにかく見所がいっぱいすぎて書ききれない。こんなに話題豊富な日本グランプリは久しぶりではないだろうか。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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