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創業以来の赤字転落 三井物産の会社説明会に行ってきた 「人の三井」の底力

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
まるでロックフェスのような規模、自由度、熱気

なぜ、三井物産は採用活動をここまで頑張るのか?

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三井物産の新卒採用のための会社説明会、「360°丸ごと三井物産」にお邪魔した。この企画は、新卒向け会社説明会の中でも特別編、スペシャルバージョンといえるものだ。3月26日(土)、27日(日)の2日間、東京ミッドタウンホールにて開催。3,000人超を動員した。4月10日(日)には大阪梅田のアウラホールでも開催される。

同社をはじめ、大手総合商社は上位校の学生にとって人気業界、憧れ企業である。その一つである三井物産が、なぜここまで採用活動に力を入れるのか、私は疑問だった。いや、たしかに総合商社は人間が全てである。三井物産は「人の三井」だと呼ばれている。「ラーメンからロケットまで」と言われる総合商社のビジネスは、主に貿易と事業投資から成り立っているが、とはいえ一般にはわかりにくいものだ。企業理解を深めてもらうための取り組みだとも言えそうだ。新卒採用は、売り手市場化も進んではいる。とはいえ、なぜここまでやるのか。

ちょうど3月23日、同社は2016年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が700億円の赤字になりそうだと発表した。1947年の創業以来の赤字である。三菱商事も3月24日に、1,500億円の赤字に転落することを発表した。この業績について就活生、および社員はどう捉えているのかについても気になっていた。こういう時に、新卒採用の現場で発信するメッセージというのは今後の会社の方向性を探る上でも参考になる。

前置きが長くなってしまったが、三井物産の3月26日(土)の東京ミッドタウンホールでの新卒の学生向けイベント「360°丸ごと三井物産」のレポートと、人事総務部人材開発室室長中野真寿氏のインタビューをお届けする。

ロックフェスのような規模と自由度、熱気 なんでもありの時間と空間

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「まるでロックフェス」これが「360°丸ごと三井物産」の率直な印象だ。会場の東京ミッドタウンホールには、12ものコーナーが設けられている。200名入る講演会場が1つ、30〜50名規模のブースが9つ、他に社員との座談会スペースが2つある。1日を9回の枠に分け、同時並行で会社説明、部門・職種説明、座談会などが行われる。1日中いてもいいし、参加したい数コマに参加するだけでも構わない。

各ブースは「部屋」と呼ばれる。「金属・鉄 機械・輸送」「食糧・食品」「化学品」「エネルギー」「コンシュマー」「次世代」「コーポレート」など部門ごとのプレゼンの他、新人の部屋、人事部長の部屋、経営者の部屋(関連会社社長が登壇)、女性担当職(総合職に相当)の部屋、イノベーションの部屋、海外勤務者の部屋など多岐にわたる。

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各部屋(という名のブース)には、プロジェクターとマイクが設置され、プレゼンが行われる。総合商社は部門ごとに雰囲気が違うと言われているが、たしかに着ているスーツやシャツの色、雰囲気などが微妙に違うように思う。それはともかく、社員との距離が近く、質問、相談もし易い。印象的だったのが、社員と学生との距離が近いこともあってか、「ぶっちゃけ話」も多数、飛び出していたことだった。「皆さんも『半沢直樹』とか見て、関連会社出向を左遷だと思っているでしょ。違いますよ、これぞ商社の醍醐味なんですよ」「アパレル関連の部署にいた時は逆に白シャツ禁止でした」などなど、砕けた雰囲気でホンネが伝えられる。人事部長、関連会社社長などを講演後につかまえて、質問をぶつける様子なども見受けられた。

座談会スペースは、様々な部署の社員が出るコーナーの他、女性業務職にしぼったコーナーも設置されていた。女性社員の前には、入社年次、産休・育休を経験しているかどうかなども表示されており、相談する相手を選びやすいつくりになっている。

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ユニークな取り組みだったのが、「海外勤務者の部屋」である。私がお邪魔した際には、ハーバード・ビジネス・スクールに留学中の社員がスカイプで生出演。これまでのキャリアや留学生活について語るという取り組みだ。学生は、スカイプ経由で質問することができる。

参加した学生からは「1日で様々な部署の話を聞くことができるので有り難い」「社員との距離が近い」などの声が聞かれた。700億円の赤字についても、「業界・企業には浮き沈みがあるものなので気にしていない」「今後の改革が鍵」など、深刻にとらえている様子でもなかった。もっとも、大学名を聞くと、MARCHクラスの学生は「明治なんですけど・・・」など、大学名を言うのをややためらったのも印象的だった。いや、明治は長年人気大学ランキングで上位に入っているのだが。総合商社を受けるのには、自分の学歴では不十分だと思っていたのだろうか。声をかけた学生はすべて、イベントに満足していた様子だった。

このように、ロックフェスのような規模、自由度、熱気に満ちたイベントだった。「360°丸ごと三井物産」という名前に偽りはないという印象だ。

三井物産 人事総務部人材開発室 室長 中野真寿氏に聞いてみた

当日、同社の人事総務部人材開発室 室長 中野真寿氏にインタビューする機会を頂いた。なぜ、ここまでやるのか。採用責任者としての想いなどを質問した。

学生は何を期待しているのかをとことん考える

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常見陽平(以下、常見):単刀直入にお伺いします。三井物産はなぜ、ここまで採用活動に力を入れるのですか?こんなに大規模な説明会をやる理由は何ですか?世間は「なんで、物産はここまでやるんだ?」と捉えると思うのですが。

中野真寿氏(以下、中野):うちの採用はいつも学生目線に立って考えるようにしています。私自身、人事総務部に来る前は営業が長かったからか、営業時代は常にお客さんの立場にたって、お客様の目線で仕事を考えてきました。今、採用という仕事に置き換えてみると、今わたしのお客さんは学生ですから、学生目線で「本当に何をやってあげるのがいいのかな?」と考えています。

その中で新しい施策としては、今回の「360°まるごと三井物産」もそうですが、三井物産に入ってから10年間の成長をドラマ仕立てのショートムービーにしたり、あとは「知るカフェ」という、大学の目の前にある就活カフェを結構使ってます。たぶん、私達はどの会社よりも多くそこを活用していると思いますが、これも学生目線に立った施策なんです。私達が指定する会場に来てもらうより、私達の方から学生に近づいていったほうが、講義の合間とか、学校が終わってからすぐに足を運んでもらえますので。やっぱり、学生目線に立って考えるとこういうかたちになっていきますね。

常見:昨年もこの「360°まるごと三井物産」を開催していましたよね。反響はどうでしたか?

中野:アンケートを読む限りでは大好評でした。ここまで様々な切り口から三井物産のことを理解する機会があるというのはありがたいといった反応が多かったです。もともと、総合商社のこと、三井物産のことを深く理解してもらいたいという意図でやっていたのですが、その目的は達成できたのではないかと思います。

常見:今年は東京で2日、大阪で1日の開催になりました。

中野:実は昨年は申し込みが殺到し、抽選となって多くの学生が来られなかったり、また混みすぎていて話が聞けないという課題がありました。そのため、今回東京は2日間とし、大阪でも開催することにしました。西日本の方はそちらに参加して頂けます。昨年は、1日だけだったので、来られなかった人もいましたが、今年は東西で3ですからね。その他にも、たくさん種々さまざまな会社説明会を企画しています。おそらく総合商社の中では一番多く説明会をやっているのではないでしょうか。やっぱりいろんな角度から、本当の姿を知ってもらいたいという気持ちからなんです。

これだけ説明会をやっていますと本当の姿が見えますので、「わたしはこの会社じゃない」って思う学生もいるでしょう。でもそれはその人に気づきを与えてあげたということだと思いますから、それだけでも価値があると思ってます。

常見:昨年は1日1,800人でしたよね?

中野:やっぱり、抽選にもれて来られない人が多かったですね。来場してもごった返していて。

常見:わかります。私も企業で人事をしていた時に経験しました。プロジェクターの画面もよく見えないし、発言も耳を立てて聞くとか。たくさん来て頂けるのは嬉しいですが、学生さんに申し訳ないなと思っていました。拝見しましたが、各ブースの声もぶつかりませんし、とはいえ、各ブースに人がいっぱいいて盛り上がっている感がありますし。それでも、庶民の感覚からすると、「“大”三井様がなんでここまでやるんだ?!」ってやっぱり思うんですよね。

中野:そうですか。でも、商売なんでもそうですけど、やはり謙虚な姿勢じゃないと、そういうことでは仕事なんか創れないと思うんですよね。やっぱり私達もお客さんに満足してもらうビジネスをやっているわけです、本業において。私はいつも言うんですけど、三井物産のファンをつくろう、って。でもファンになってもらうということは大変なことです。人は感動しなければ絶対にファンにはなってくれませんので。感動してもらうっていうことは、お客様の期待以上のサービスを提供しなきゃいけないんですよ。だから、どうやったらファンになってくれるか、いつも試行錯誤していろいろな企画を考えています。

常見:なるほど!

中野:そう考えると、例えばSkypeで海外と繋いで、ビジネススクールに留学している社員と会話するなんて。たぶんね、普通の発想からいったらないと思うんですけど(笑)。

常見:ないですね。

中野:向こうは夜中で対応してくれていたりするわけですから。

常見:しかも、ビジネススクールって相当ハードですからね。

中野:でもやっぱり、「学生は知りたいよね」って。三井物産に入ったら、絶対海外に行くだろうと思っているわけです。どんな生活して、どんな考えで社員は過ごしているのかなって。学生にとって、知りたいことでしょ?

やっぱり「人の三井」なのか?

常見:私はそのセッションの場にいましたけれども、学生の質問が前のめりで。三井物産っていうことを超えて、ハーバードビジネススクールのことを聞きたいとか、TOEFLやGMAT対策みたいな質問も出ていて、それを社員が丁寧に答えていたのですね。ここまで取り組むのは「人の三井」というか、イデオロギーというか、伝統というか。やっぱり「広く世に人材を求めたい」っていう部分ってあるんじゃないんですかね?

中野:うーん、それはあるかもしれないですけどね。ただ、「人の三井」って言われるのは大変光栄なことですけど、その言葉とは関係なく、とにかく人に関わるという風土があるんだと思います。たとえば、当社の社員はやたらとOB・OG訪問を受けるのが好きなんですよ。お節介というか。

常見:はい(笑)。学生からそんな話を聞きます。

中野:なんか、やたらと(笑)。これって、別に私達が指示しているわけでも何でもなくって。自分もそうしてもらったから、やっぱり「学生のためにしてあげたい!」っていう視点でみんなやってくれているんだと思います。自分も就活生で大変だったころに本当の良くしてもらったので、自分も恩返しをしようと。例えば、私達がこの2日間で85人の現場社員を呼んでいるんですけど、みんなやっぱり、「学生のためなら是非、光栄なことなのでやらしてください!」って言ってくれるわけですよね。他社は「協力してもらうのが大変なんです」っていうことがすごく多いと聞きますが。うちの会社って本当に頼んだら二つ返事で、仕事休日返上でみんな来るわけですよ。

常見:えっ、2日間で延べ85人ですか?しかも、めちゃくちゃ忙しいと言われている商社マンが、休日の予定を空けて。

中野:現場の社員ですね。総務人事部を入れたら100人をこえますよ。うちの文化というかDNAというか。

常見:もう「人の三井」っていう言葉が関係ないくらい、みんなが当たり前のようにやっているということですよね。

中野:あとで協力してくれた社員に御礼を言うと、皆、こちらこそありがとうございました、って言ってくれるんです。結局、人に会社のことを伝えるということは自分の勉強にもなりますし、また逆に学生からパワーをもらった、って。

常見:あー、なるほどですね。

広報担当 喜田敬太郎氏(以下 喜田):中野が着任してから、更に学生目線に変わっていったという印象です。どっちかというと、なんか売り手市場になるからとか、人材を広く確保しなくちゃいけないからとかじゃなくて…。中野がやりたい採用っていうのは、こうだっていうのが強いっていうことですよね。

常見:おもしろい。

中野:会社から言われているわけでも、なんでもないわけですよ。

喜田:そうですよね。

常見:なるほど。

中野:でもうちの会社ってやっぱり、担当に仕事を任されていますから。自分の仕事は自分が一番よくわかっている、という自負がありますので、周りがなんと言おうと、上司が僕に何言おうが、「僕はこうやりたいんです!」って言っていくような会社なので(笑)。その考えに共感してもらう努力をするというのが当社の社風なんじゃないかと思いますよね。

三井物産には学歴フィルターは、ない。学生のセルフスクリーニングが不安。

常見:三井物産、というか総合商社に対しては「うちみたいな大学だったら受けちゃいけないんじゃないか?」みたいに思っている学生が多いと思うのですよ。率直に言うと日東駒専クラスなら厳しくて、最低でもMARCH以上じゃないとか、いや東一早慶の、しかも頑張った学生しか入れないんじゃないか、体育会だとか帰国子女でしか入れない会社じゃないかみたいな誤解をされているんじゃないかと。

中野:誤解されていますね。本当にね。

常見:誤解だとそれは。

中野:誤解です。いや誤解を解きたいっていうのもあるんですよね。私が人事総務部に来る前は、「誰がどの大学を卒業している」とか、「上司はこの大学だ」なんて考えたこともないですし。学歴社会なんて思ったこともないですよ。これは真面目な話になるんですけど、学歴で足切りしたりなんか絶対しませんからね。

常見:おお、言い切りましたね。この言葉は絶対に書きますね。

中野:はい。英語で足切りすることも私はないですから。当社の理念とか価値観に共感してくれる学生に「来て欲しい」と思うわけですよね。外国人と交渉していても、英語が喋れるから仕事ができるわけではないですよね。この人と仕事をしたい、この人は信頼できるから一緒にやりたい、と思うのって英語力でもないですから。仕事はどこまで行っても人と人です。これが本質だと思っているので、人間的魅力のある人がほしい。だから、私達の面接はやっぱり人物本位の面接です。どこまでいってもやっぱり人物をよく見て、「この人は魅力あるなぁ」とか、やっぱりそういう所に賭けたいんですね。やっぱりうちはそういう会社だと思いますよ。英語は入ってから頑張ってくれればいい。

常見:なるほど!可能性に賭けると。

中野:はい。

常見:たぶん有名大学以外からの応募数が少ないんだと思うんですね。要するに、構えてしまっていて応募しない学生がいるのではないか、と。

中野:元々、すでにセルフスクリーニングがかかっちゃっているんですかね。そんな誤解を解くために、私たちはたくさんの説明会を開いていますし、実際に接触してもらえると、「あ!違うんだ!」っていう反応をしてくれる人がほとんどなわけですよ。

常見:現場にいてさらに人事に来たっていうなかで、最近の若手社員に対する不満だとか、「こんな人材足りないんじゃないか?」とかね、「これじゃダメじゃないか?」とかってやっぱり思ったこととかあったんではないですか?

中野:プレゼン能力とか、情報を収集する能力はすごいですね。インターンシップを見ていると僕らなんかよりもプレゼン能力、めちゃくちゃ高いですよ。でもやっぱり、今の時代、インターネットでなんでも情報は一瞬にして手に入りますし、何か質問するとぜんぶGoogle先生が答えてくれますので、考えぬく力と、自分の足で情報を稼ぐ力などが足りないと思います。試行錯誤を繰り返して、その過程でいろいろなことを考えて自分だけの情報にたどり着く、という体験を是非してほしいなと思います。なんでも検索できる時代の弊害だと思いますね。

商社は、すごく地道な作業の積み重ねですし、下積みもあります。僕らはモノをもたないのでお客さんは「お宅の○○が欲しい」って来るわけじゃないですよね。「中野さんと話をしたい」とか、「中野さんだから相談したい」とか。世界中を私達が飛び回って、現場を見て、色んな話を聞いて、情報を価値ある情報に変えていく。商社パーソンは、現場に行く、駆けまわる、足で情報を稼ぐということを意識することが大切ですよね。

常見:ちょっと嫌な話をしますが、東大とか慶応には、就活攻略サークルみたいなのがあって。1年生から対策をしていて、「商社か外資に行く」っていうのが彼らのゴールだったりするんですよね。そういう学生についてどう思われますか?

中野:就職がゴールと思っている人たちが結構いますからね。これからがスタートっていうことなのに。でも、私が就活の心得みたいなことを学生に話したりもしているんですけども、その一つにあるのはやっぱり、「自分の言葉で語って欲しい」なんですよ。

常見:そこですね。

中野:これはね、別に就活予備校行って、または就活塾に行って、何かスラスラしゃべれればいいかっていったら、まったくそんなことはないですよ。別に緊張して頭が真っ白になったとしても、一生懸命しゃべって伝えてくれればいいわけであって。大事なことは、言葉が詰まってもいいのでその人が本当に考えていることを自らの言葉で語ってほしいということ。緊張している方がよっぽど人間味が出たりもしますしね。「自分の言葉で語る」っていうことがすごく大事なんですよね。この方がよっぽど伝わりますよ、相手に。

常見:なるほど。いいですね。「自分の言葉で語る」って、ずっと就活の世界で、やっぱり人事部長が学生に伝え続けていることなんです。だから20年くらい前の『就職ジャーナル』にも「自分の言葉で語る特集」みたいなのがあって。それをマニュアル化してどうするんだみたいなオチもあるわけですけどね(笑)。

一時の業績だけで右往左往する人が別に欲しいわけでもない

常見:そうそう、また嫌な質問をします。今日もちょっと既に質問が出ているかもしれませんが、なんせ「700億円の赤字」という設立以来の事件がありました。そういう環境下での採用活動で思うことというかね。これを受けて「これから会社を変えるためにこんな人材を採らないといけないな」っていう観点だとか、逆に言うと「赤字でビビっているような学生いらないぞ」みたいな話も含めて、お伺いできればと思うんですけど。

中野:私はね、言い方は変ですけど、逆にチャンスだと思っているんですよね。なんでかと言うとですね、学生にいつも聞いているんですけど、「みなさんは一体どうやって就職する先、会社を決めるんですか?」って。「業績ですか?」「知名度ですか?」「自分のやりたいことをできる会社を選ぶのか?」って。自分の人生の多くを仕事に捧げるわけですからやっぱり「よく考えてください」って言ってます。当社は「創業以来の連結業績赤字」という危機にあり、私達はこの現実を重く受け止めなければいけないし、この現状にしっかりと対峙して、全社一丸となって「挑戦と創造」を続けていかなくてはいけないと思っています。

でも、私達は「じゃあ資源ビジネスをやめるか?」といったら絶対そういうことはありません。国のためにエネルギーの安定供給という使命を背負っていますから。でも、会社の事業ポートフォリオからすれば非資源もしっかりとやらなければいけない。

でもね、私達は本当に目の前の利益だけを追求している会社ではありませんから、一時の業績だけで右往左往する人が別に欲しいわけでもないわけですよね。そういう人たちっていうのは、たぶん、自然と淘汰されていくんでしょう、このなかで。逆に言うとセルフスクリーニングが勝手にかかっていくということですよね。僕らの欲しい人材はそういう人たちではないので。こんな中だからこそ業績ではなくて私達の理念とか価値観とか、そういうことに共感してもらって、「こういう会社で働きたいんだ、本当に!」っていう人がいいですね。たぶん覚悟をもった人が来てくれると思うんです。

常見:そうです。そういうことですよね。

中野:そういう人の方がよっぽど欲しい人材ですよ。

常見:三井物産が好きだったんじゃなくて、三井物産の業績と知名度が好きだったっていうね、そこで離れるような人間はね。

中野:私もそうなんですけど、「商社じゃなくて三井物産に入りたい」っていう人が結構当社に来るんです。私も三井物産しか受けていないんですが。「そういう人をつくりたい」というのもあるわけですよね。

常見:以前人事の方をインタビューした際も、「商社ではなく三井物産」っていうキーワードは他の方からも出てきたんですよ。出てきたというような記憶があって。他の総合商社と三井物産の違いって何だと思います?

中野:学生から見れば同じように見えるかも知れませんね。でも、「仕事に向き合う価値観」みたいなものに当社の特徴が出ていると思います。私達は、目の前に儲かる仕事があったとしても、それって「世の中のため、人のためになる仕事か?」っていうのをやっぱり考えます。「うちだけ儲かる」っていう仕事は絶対やらないわけですよね。これは創業者の益田孝の「眼前の利に迷い、永遠の利を忘れるごときことなく、遠大な希望を抱かれること望む」という言葉にある通り、そういうDNA、価値観をもっている会社だと思います。会社によってはそんな理念とか価値観より「そんなことより、会社のために1円でも多く儲けて来い!」っていう会社もあると思います。どちらが良いということではないと思いますが、うちの会社はやっぱりそういう会社ではないので。

二つ目は、どこまでいっても「自分の想い、一人ひとりの想いをカタチにする会社」だと思いますね。「お前は一体何がやりたいんだ?」って若い頃から問われ続けますから。私も23年間営業やってきましたが、壁にぶち当たり、挫折しながらも自分の夢みたいなものをカタチにしてきたわけです。商社の仕事は厳しいと思いますが、仕事を通じて自分の夢や目標を掴むことができるなんて、そんなことをできる会社って、そんなにないんじゃないですか。私達はどこまでいっても、トップダウンではなくボトムアップの会社ですし。「俺はこんなことやりたいんだ!」、「私がこれをやります!」っていう、夢や志をもって入ってきた人達はみんな、その目標に向かって挑戦している。それを三井物産という舞台で追っかけているわけですよね。やっぱりこの二つが当社の特徴ではないかと思います。こんな理念や価値観、社風に共感してくれたら「三井物産に来たいんです!」って言ってくれるんだと思うんですよね。

常見:あんなに頭いい人、気の強い人がいる環境で、でも「俺はこれがやりたいんだ!」って言い続ける、と。力強い言葉、ありがとうございました!

現地レポートと、採用責任者インタビューをお届けした。

思うに、新卒採用の基本は昔も今も変わらないと思う。人と人が、どれだけ本気で向き合うかどうかだと思う。もちろん、就活は大人の論理で動いている。大人たちはズルいことをするし、学生たちも様々なテクニックを使い、時には「盛って」向き合ったりもする。ただ、最後は人と人が本気で向き合っているかどうかだと思う。

率直に、社員も学生も熱量が半端ないイベントだと思った。「求人詐欺」という言葉が流行語大賞になりそうな荒れた労働社会であるが、人と人が向き合うという原点を大事にしたい。

そして、創業以来の赤字転落に直面した三井物産の社員たちの話は何かこう、清々しかった。この環境下で三井物産に飛び込む学生が、どんな学生で、これからどんな活躍をするのか楽しみになった。

自分語りで恐縮だが、約20年前、戦後の政治・経済史に残る贈賄事件を起こし、当時1兆円の借金があったリクルートへの入社を決めた時のことを思い出した。「お前、辞退するんだろ」という空気でゼミの仲間が私に接していたことを思い出す。ただ、そんなことはどうでもよくて、当時の私はそこにかけてみようと思ったのだった。

さて、今年、三井物産に入社する学生はどんな人たちだろう。内定式が終わる頃、彼ら彼女たちへの取材もオファーすることにしよう。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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