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『地域再生の失敗学』 ゆるキャラ・B級グルメ・ふるさと納税ではなぜダメなのか?

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
『地域再生の失敗学』(飯田泰之 光文社新書)は地域再生の新バイブル!

これだ。こんな本を待っていた。GWの読書は『地域再生の失敗学』(飯田泰之 光文社新書)でキマリである。ここには「地域再生」の具体的な方法がてんこ盛りになっている。地域再生、地方再生などに関してこれまで「よかれ」と信じられて行われていたことのウソを華麗に批判し、本当にやるべき対策を提示している。

いますぐタクシーをとめて本屋に向かうべきだ。

あるいは、GWに実家に帰る際に、地方の光景を見つつこの本を読むのも一興だろう。

何より、私自身、この本を激しく求めていた。発売日を指折り数え楽しみに待っていたら、著者の飯田泰之先生から一足早く頂き。いてもたってもいられず、貪り読んだ。社会的な問題だけでなく、私の個人的な悩みのヒントとなる本だと確信していたからだ。

実は4月1日から、私の肩書きが増えた。「いしかわUIターン応援団長」を拝命した。石川県へのUIターンの旗振り役、アドバイザーという役割である(当初、プロデューサーという名前になる予定だったが、先方から「あまりに普通だ」という意見が出て、エヴァンジェリストになりそうだったが意識高い系みたいなのでやめてくれと変更を懇願し、応援団長か番長でとお願いしたら、後者は元野球選手のお薬問題で時節柄あれなので、応援団長となった)。

4月23日には、最新作『東京β』(筑摩書房)のリリース目前だった速水健朗氏との対談イベントを開いた。おかげ様で好評だった。

実はここ数年、私の講演依頼で最も多い演題が「地方の中堅・中小企業の採用力強化」だ。自治体や商工会議所などからお声がけ頂いたのだが、会場はいつも満員だ。参加者は毎回、必死にメモをとっていた。石川県との出会いも、セミナー講師で呼ばれたことがキッカケだった。徐々にこの県と人々、企業が好きになり、昨年度は採用力強化連続講座「いしかわ採強道場」の講師を拝命し(今年度もだ)。今年度から「いしかわUIターン応援団長」に就任した。

自分自身が石川県のこと、もっと言うと、地域再生や地方創生のことについて勉強不足であることを痛感する毎日である。採用や就職・転職のノウハウに詳しいだけでは、お役に立てないのだ。

労働者は生活者でもある。そこで「働く」だけでなく「住む」ことがいかに魅力的なのかを考えなくてはならない。要するに押し売り型ではダメなのだ。石川県にはたしかに、シェアトップクラスの優れた企業が多数ある(B2B企業が中心で、目立たなかったりもするのだが)。ただ、「優良企業ありまっせ」というアピール自体が、エゴだと猛反省したりもする。もちろん、トヨタに代表されるように、「どうしてもその企業で働きたい」という理由があるから地域間移動をするというケースはありつつも、まずはその街が魅力的でなくてはならないのだ。そして、受け入れる側の企業も「人が来なくて・・・」と嘆いていないで、いざ人が移住しようと思った時の受け入れ体制を考えなくてはならない。優良企業かどうかと、仕事が面白いかどうか、働きがいがあるのか、働き心地がいいのかはイコールとは限らないのだ。

この本の話に戻ろう。気鋭の経済学者、飯田泰之先生が「地域再生」を論じる時点で、この本の面白さは保証されたようなものなのだが・・・。この本は、構成がイイ。木下斉、川崎一泰、入山章栄、林直樹、熊谷俊人という、地域再生を語る上で、説明不要の(知らなくても紹介文を読めば納得の)最強の布陣が登場。飯田泰之先生の問題意識が各章で最初に述べられ、その後、専門家による講義、さらには飯田泰之先生との対談という流れになっている。人選の意図、論点の設定、意見の引き出し方などが実に、イイ。思うに、時代が求めている新書のひとつの類型はこういう本なのだと思う。手軽に読めて、でもお金を払ってでも知りたい専門家の知見が手に入るというか。思わず「キエー!」と叫びたくなるレベルだ。気鋭だけに。

何よりも秀逸なのは、「失敗学」と銘打っているだけに、地域再生・地方創生の失敗パターンを華麗に斬っているところである。成功体験よりも失敗体験からの方が学ぶべきことが大きい。しかも、地域ネタに関していうと、「成功事例」として語られていることが、実は安易に真似してはいけないことだったりする。

本書でも斬っているが、地元にお金が落ちない「B級グルメ」(もう海外の小麦ご賞味グルメと呼んだ方がいいのではないか しかも、地元らしさすらなく・・・だから「地元出身で東京で学生時代を送った中川主任の熱意でこのメニューが生まれた」的な感動ポルノにするしかなかったり)、成功するには決してゆるくない「ゆるキャラ」(キャラクタービジネスの会社にいた者としては、キャラなめるなと言いたくなる)、もはやその地方らしさのアピールにすらなっていない例すらある「ふるさと納税」(iPadはその村の名産品なのか、と)などなどだ。

地域の課題は同じようで複雑である。しかし、横並び意識が強い。そもそも「地域」や「地方」という言葉すら手放して、丁寧に課題を考えないといけないし、なりふり構わずたくさんのアイデアを出してトライアル・アンド・エラーを繰り返さなくてはならない局面なのに、横並びになってしまう、という。

発売前からAmazonで予約が殺到し、発売後1週間であっという間に5000部の増刷が決まったというのも、時代がこの本を求めているということなのだろう。リフレ派の論客である飯田泰之先生がこの本を840円+税という値段で売る行為自体には、それってデフレじゃないかとか色々思うところがあったが、良い本を手軽に手にとってもらいたいということなのだろう。この値段でこの本を買わせて頂けるというのは、実に有難い話だ。

最後にやや宣伝だが(ステマと言うな、関係者によるいじらしい告知だ)飯田泰之先生とは5月6日(金)19時より下北沢B&Bにてイベントを開催する。

飯田泰之×常見陽平饒舌大陸「ひたすら”地方”について語り合うナイト」 | 本屋 B&B

http://bookandbeer.com/event/20160506_bt/

特に、地方×雇用について語り合いたいと思う。

下北沢で僕たちと握手!

ストップ搾取!

最後に少しだけ真面目な話をすると、この本での問題提起だと思うのだが、別に地域再生・地方創生の政策に限らず、「それは、何に、いつ、どうキクのか?」という視点は当たり前だけど大事なのだ。でも、この当たり前を華麗に無視しているのがこの国なのだ。個々人がGW明けの仕事で意識したいポイントである。うむ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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