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News PicksはNo Picking運動にどう向き合うのか?誹謗中傷プラットフォームの行方

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
News Picksに対するNo Picking運動に賛同する。

最初に言っておく。私はNews Picksというサービスが大嫌いである。

約1年2ヶ月前の2015年3月13日に私はこんなエントリーを書いていた。

NEWS PICKSが嫌いになってしまった このサービスにネットでの議論なんて無理である

http://www.yo-hey.com/archives/55176065.html

忙しい人のために、批判の論点をまとめるとこうだ(このエントリーを書いた頃から考えが変わった部分も含めて記述する)

  1. 元記事と関係ない誹謗中傷、大喜利のような場になっている
  2. 1に関連して、中には記事の中身を歪めるようなコメントも見受けられるがそれも放置されている
  3. サービス自体にフリーライド感が漂っている

他にも、いかにも私が苦手な意識高い系の空気などもあるが、それはおいておこう。

もちろん、論者の仕事をしていると批判されるのは慣れっこである。そして、中には完全に誤解や偏見に満ちた言いがかりみたいなものもある。そんなもんだと思っていないとこの商売はやっていられない。

別にネットの誹謗中傷はNews Picksだけではないし、むしろまだまだ影響力も大きくはないだろう。News Picksで叩かれなくても、例えば、はてなブックマークや2ちゃんねる、TwitterやFacebookなど、人の記事を取り上げて誹謗中傷するツールはいくらでもある。しょうもない意見も含めて誰もが意見を言えて、すべてを可視化するのがインターネットだという考え方だってあるだろう。

とはいえ、言論のプラットフォームを志向するサービスが、どうでもいい誹謗中傷コメントを放置しているというのはいかがなものか。最近では、大手出版社のスタッフが同サービスの編集部に移籍したこともニュースになっていた。しかし、東洋経済新報社で東洋経済オンラインを手がけた佐々木紀彦氏を始め、同サービスに関わる者たちは胸を張ってこれが「ジャーナリズム」だ、「プラットフォーム」だと言うことができるのだろうか。これは有力老舗メディア企業を辞めてまでやりたかったことなのだろうか。

だから、私は同サービスは使っていない。登録しかけていたが、アカウントも抹消してもらった。同サービスを使ってTwitterやFacebookで記事を紹介している人を見かけても極力クリックやRT、シェアはしないようにしている(RTしてしまうことはあるが)。同サービスを使っている人を見かけると「編集部の知人に頼まれたのかな」と同情してみたり、時には「香ばしいやつだな」と思ったりもする。サービスを利用している著名人と飲みの席でNews Picksの話になると、批判だらけになったりする。使っているのは大人の事情ということで。

普通のサラリーマンや、無名のベンチャー企業の社長が売名行為のために「キレ者」を装うために大喜利を繰り返している様子を見ると、そんなにまでして目立ちたいのか、別にあなたが共有しなくてもその記事は人の目に触れるよと言いたくもなるのだが。中にはNews Picksやりすぎで、「もっと仕事しろ」と言われた人もいるのだが(大手企業の広報から直接聞いた話だ)。

そんな中、コピーライター・クリエイティブディレクター・メディア戦略家の境治さんが声をあげてくれた。

NewsPicksと三上俊輔に抗議する〜私の記事はピックしないでほしい〜

http://sakaiosamu.com/2016/0517111557/

※私人に対する批判を含むタイトルのエントリーを紹介することについてはやや迷いがあったが、このままリンクを紹介する。

ご自身が体験したトラブルをもとにしつつ、実にわかりやすくNews Picksの問題点を指摘している。もちろん、この批判自体は同サービスによく言われていることではある。しかし、彼はちゃんと弁護士に相談し、このサービスにおける意見、ピッキングという名の誹謗中傷が名誉毀損などになる可能性があることを指摘した上で、さらに「私の記事はピックしないでください」とお願いする「No Picking」運動を提唱している。

これは斬新な異議申し立てだ。

もちろん、前述したとおり、同サービスを叩いたところで、勝手に取り上げられ、誤解され、誹謗中傷される可能性があるのがインターネットの宿命ではある。ただ、サービスに対しての疑問、怒りに対してムーブメントを起こしたことに私は強く賛同する。

彼はデザイナーに依頼し、ライセンスフリーのNo Pickingアイコンまで作成している。この記事にもアップロードしようとしたが、解像度の関係でアップできなかった(いくつかのバージョンを作って欲しい、図々しい依頼だが)。

というわけで、News Picks関係者には、同サービスが「誹謗中傷プラットフォーム」と呼ばれないように、ピッキングのポリシー、審査規定などを再整理して頂きたい。

私は一生使わないし、人生困らないけどね。

最近はネットから距離を置いており、仕事に家事に邁進しているのだが、目の前にいる学生や教職員、家族と向き合うだけで人生幸せだ。ネットニュースより新聞、雑誌の方が面白いし。

よくこの手の話をすると、たまに「そのうちNews Picksに参戦するのでは?」など騒ぐ人を見かけるが、そんな勘ぐりをする暇があったら仕事した方がいいのと、そんなことはありえないと強く主張しておく。

ぜ っ た い に だ。

この記事もNo Pickingで。もっとも、意識高い系が取り上げて色々言うのだろう。まあこのサービスの問題点がますます可視化されることだろう。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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