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不自由な男たち 「男らしさってなんですか?」生きづらさを超えて無邪気な革命を始めよう

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
『不自由な男たち』(田中俊之・小島慶子 祥伝社)は議論のキッカケになる本

『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』(田中俊之・小島慶子 祥伝社)を頂いた。腐った魂を蹴り上げられたような、カタイ頭に釘を打ち込まれたような、そんな気分になった。「男らしさ」というか、もっというならば、男女問わず仕事にしろ恋愛にしろ家族にしろ、日本における生きづらさの正体について考えさせられる本だ。

著者の一人、田中俊之先生は、男性学を研究する気鋭の社会学者である。以前、彼とは拙著『エヴァンゲリオン化する社会』の出版記念イベントで対談した。その抄録は私の代表作『僕たちはガンダムのジムである』の文庫化の際に収録されているのでよろしければ。

彼の本はいつも楽しみにしている。社会の中での男性のあり方、生きづらさについてよくまとまっていて、問題提起していていつも感動する。書き手視点でもリスペクトしているのだが、私自身が昭和的価値観と平成的価値観の間で揺れる40男なので、読み手としていつも共感する。よくぞ言ってくれた、という。

圧倒的知名度を誇る小島慶子氏との対談をまとめたこの本は、彼を次のステージに連れて行ってくれることだろう。まあ、もっともっと化学反応を期待したいところだったが。

この本をキッカケに小島慶子氏と、東大の本田由紀先生と一緒にEテレの番組に出させてもらった時のことを思い出した。発言の量において、小島慶子氏>本田由紀先生>>>>>私という感じで、トラウマ体験となり。その後、私の母と、妻の母親と「陽平ちゃんの出番少ない問題」で長時間の電話が繰り広げられたことまで思い出してしまった。小島慶子氏の名前と発言を読み、懐かしさの前に蘇る苦い思い出に、書いていて涙が止まらなくなった。そして、自分の何者でもない感じは、あの頃から何も変わっていない。自分の存在が何なのか分からず震えている42歳の昼だ。これもまた「男らしさ」ってなんだろうと考えるキッカケとなった。ありがとう。

ルサンチマンの塊モードになってしまった。いつもの善良な自分に戻ろう。

真面目な話をすると、熊本の大震災や、サミット、オバマの広島訪問、消費税増税延期、衆議院解散回避、政治家や芸能人のスキャンダル、企業の不祥事、悲しい事件などなどが話題となる昨今だが、黙っていても参議院選はやってくるわけで。この選挙を自分事として考えるためにも、この本は有益である。これからの生き方、働き方について考えるための、である。対談形式なので、手軽に読めるが、おさえておくべきデータ、ファクト、論点がまとまっている。ディスカッションの題材にも使えそうだ。教え子にもすすめることにしよう。

働き方改革、女性の活躍、1億総活躍などの言葉が叫ばれている。改革とか活躍というと聞こえが良いが、生き方の多様性を認めていそうで、単なる搾取になるんじゃないかという危険性も我々は感じとらなくてはならない。この手の問題を考える上で、「男らしさ」に関する議論は有効だ。昭和的な「男らしさ」の呪縛と私たちは闘っている。結局、がむしゃらな働き方を男たちは強要される。この昭和的な男らしさの呪縛こそが、多様な働き方の障害となっていないか。そして、女性の活躍なるものも、このいかにも社畜な男性像との関係性の中で論じられるから、こじれてしまう。

これからの生き方、働き方を考える上で「男らしさ」というのは、議論のよい起点になると思う。「男らしさとは何か?」これを無邪気に問いかけ、語り合うことは有益ではないか。

そうそう、学生はといえば、就活まっさかりだ。

2016年度に続き、2年連続で就活時期が変更になった。2017年度は、経団連の指針では3月1日に採用広報活動スタートで、6月1日に選考開始である。つまり、決戦が迫っている、はずなのだが、このスケジュールを真に受けてはいけない。リクルートキャリアの調べでは、就活をしている学生の25.0%が5月1日時点で内定を持っていることが明らかになった。昨年同時期と比較しても、4.3ポイント高い。びっくりするような大企業がもう内定(のようなもの)を出したという話もよく聞く。

拙著『「就活」と日本社会』(NHK出版)でもふれたが、就活の歴史というのは時期論争の歴史であり。申し合わせをしても、何度も破られる。法的拘束力が必要だとか、政府が仕切るべきだとか、いやいや自由競争だとか、そんな議論になる。新卒一括採用に対する批判も、以前ほどではないが、盛り上がったりもする。

就活の研究をしているので、この時期はコメントを求められることも多いし、コメントしているだけであたかも就活礼賛論者代表のように攻撃されることも多いのが・・・。表向きではフライングに対する批判をしていても、みんなが早期の接触→内定出しに動く。応募のための要件の緩和や、中途採用の強化などを行う動きもあるものの、ますます新卒一括採用に回帰しているようにも見える。そろそろ感情的な批判はやめにして、なぜこういう風に企業が動くのかということを考える時期だろう。

6月1日解禁と言いつつ、すでに内定に近い打診をしている企業、この日に内定を出す企業、真面目にここから選考に入る企業など実に様々である。学生にとっては、最初の1社(一生の1社かもしれないけれど)を決断する時期が迫っている。就活は内定が出てからまた始まる。内定長者の学生はこれから、採用担当者に口説かれ、内定受諾を迫られる。

毎年、就活生をウォッチしていて注目しているのは、その学生は何を基準に会社を決めるのかということだ。もちろん、このあたりは採用担当者や周りの家族や友人から影響を受けるポイントでもあるのだけど。学生は企業を見極めるために、あの手、この手を使う。採用担当者に大胆なお願いをする学生もいる。その企業で働く、自分の大学のOB・OGとの面談を願い出る者、配属を希望する部署の社員との面談を依頼する者などである。もちろん、採用担当者が本当に採りたいと思っている学生には、黙っていてもこういう社員があてられるのだが。

毎年、こういう場で鋭い質問をする学生というのは頼もしい。「こんなことを聞いていいのか?」と不安になる学生もいることだろう。だが、明らかに優秀だと感じられる学生から鋭い質問がくると、面接官も唸ってしまうものだ。高校の同窓会で会った若い人は、就活がまだ苦しかった時期に6社ほぼ内定の手前まで進んだ。どの会社にも、社員と会うたびに「あなたが大事にしている志はなんですか?」という質問をぶつけていた。答が寒い会社は切っていった。結局、彼は大手総合商社に進んだ。最近、働き方改革で話題になった他、利益率トップになったあの会社だ。

ふと、考えた。今年、聞くべき質問は「男らしさとは何か?」ではないかと。もし、あなたが男子学生だったとしたならば。いや、そうじゃないとしても。というのも、この問いかけ自体が生き方、働き方における大事なリトマス試験紙だと考えるからだ。その人の仕事観、家庭感だけでなく、その企業の組織風土まで理解するヒントくらいにはなりそうだ。諸々、働き方改革などが進んでいると言われつつ、変わらない現実にも気づく。そこに失望するか、覚悟するかという話にもなるのだけど。

若者が無邪気に、いや自分の就職先選びのために切実に、こう問いかけることで何かが変わるかもしれない。

さて、あなたにとっての「男らしさ」とは何だろう?

そう言いつつ、私もまだまだ昭和的な男らしさを捨てられないのだけれども。以前ほど、仕事優先じゃなくなったが、やはり仕事が好きだし、家も持ちたいし、クルマが好きだし、酒を飲むのも好きだ。見た目もゴツくて日焼けしていないとダメだと思う。バカだと思われるのも嫌だし。だから、ジムで身体を鍛え、日焼けをし、本を読み漁り、酒を飲み、おしゃれをする。生きづらいわけではないが、たまにやり過ぎかなと思う。でも、楽しいから、そういう生活をやめるつもりもなく。

というわけで、「男らしさ」で今日も悩むのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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