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紅白歌合戦の挑戦を激しく評価する SMAP後の国民的番組とは

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
ロックバンドが普通に紅白に出る時代になりましたね、そういえば(写真:アフロ)

紅白歌合戦について書く。結論から言うと、最高に面白かった。よくやりきったと思う。ここまで振り切ったスタッフ、それにGOを出した首脳陣、そのネタに付き合った出演者に拍手を贈りたい。あっぱれ!

はっきり言って、ツッコミどころ満載だった。司会の嵐の構成員相葉君は、サラリーマンの宴会で司会を任された、20代後半で主任なりたての人みたいだ。それ以上に塩対応だったのが、有村架純である。カワイイだけで何もしない。最後は優勝したことすら、把握しきれていない始末。いや、採点方法も謎すぎたのだが。イギリスのEU離脱、トランプ当選、そして紅白と2016年は投票をめぐる謎に満ちた年だった。

タモリとマツコ・デラックスは何をやっているのか理解できなかったし、無駄遣いも甚だしかった。「恋ダンス」を振られた新垣結衣が戸惑いまくりで、素人かという感じだったし、なんせ踊れておらず、八百長感が半端なかった。ピコ太郎の「PPAP」で後半が終わり、ニュースに飛ぶという展開も謎すぎる。ゴジラをX JAPANの「紅」で攻撃するというのも、いくら彼らが「気合い入れろ!」と叫ぶ元ヤンキー臭のする集団だとは言え、無理筋である。

しかし、だ。このカオスとも言える演出も、今までの紅白の枠を壊そうとするチャレンジではあるまいか。そして、実は今どきの視聴者像とも合っているのではないだろうか。

いま、ヒット中の『ヒットの崩壊』(柴那典 講談社)でも指摘されているように、現在の歌番組は「フェス化」が進んでいる。長時間放送する、沢山のアーティストが登場する、その場だけのコラボがある(サプライズ含む)などが特徴だ。視聴者もテレビとスマートフォンの両方の画面を覗いている。そこで起こったことをSNSに投稿する。ハッシュタグでファン同士がつながる。だから、大型の歌番組がある際は、Twitterのトレンドに番組名やアーティスト名が入る。

まあ、正直、謎なネタは多かったものの、燃料を投下しまくったとも言えるだろう。SNSを当初からかなり意識していたのではないだろうか?

このように謎展開があると、その話が中心となってしまうのだが、肝心のパフォーマンスも評価できるものだったと言える。椎名林檎の都庁でのプロジェクションマッピングを駆使したパフォーマンスは圧巻だったし、バンドの音も良かった。特にベースの亀田誠治が、いい音を出し、自己主張をしていた。やはり映像技術を駆使したPerfumeのステージも華やかだった。ライブが苦手な宇多田ヒカルを生中継出演させたのもナイスだった。彼女の原点はスタジオだ。らしさが出ていたといえよう。松田聖子×YOSHIKIなど、豪華なコラボもグッドだった。郷ひろみなど、ダンサーなどとの共演も多々見られ、お祭り感が出ていた。選曲も別にヒット曲ではなく、定番曲が多いのも、今どきの音楽シーンを反映したものだ。

なんせ、2016年の芸能界といえば、SMAP解散をめぐる問題が話題となっていた。今回もSMAPが出るのかが焦点となっていた。本人たちが出なくても、映像企画をやるという話もあったようだが。ただ、結果として、SMAPなしで良かったと私は思うのだ。良くも悪くも、紅白はSMAP色に染まってしまう。あの状態のSMAPをどういうかたちであれ、紅白で扱うというのも酷な話だろう。それは本人たちにとっても、ファンにとっても悲しいものにならないか。

SMAPが出ないことによって、そして謎展開と呼ばれようとも新たなチャレンジをすることによって、「SMAP後」の日本の音楽シーン、新しい音楽の楽しみ方を提示してくれたのだと私は解釈している。国民的アイドルグループが解散した今だからこそ、この「国民的番組」は従来の「国民的」なるものを上手く手放し、新しい王道番組を目指したのではないか。

昨年くらいからの大きな流れといえば、地上波の番組がいい意味でぶっ壊れ始めたことだ。その波が、紅白にまで達したと言えないか。

もちろん、批判の声もあるだろう。例えば、この記事だ。

【紅白回顧】「謎の演出」「?」の連続だった第67回NHK紅白歌合戦 これでいいのか、国民的番組 - 産経ニュース

http://www.sankei.com/entertainments/news/170101/ent1701010035-n1.html

痛快なくらいに、叩いている。一昨年くらいまでの私ならこんな反応をしていたことだろう。ただ、「これでいいのか、国民的番組」という問題提起がされているのだが・・・。これでいいのだ。あれもこれも今の音楽シーンを上手く反映しつつ、歴史の歯車をまわし、新たな紅白像を創るためのチャレンジだ。

番組に関わった人たちに感謝する。ありがとう。

※常見陽平公式サイト「陽平ドットコム〜試みの水平線〜」から転載。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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