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プレミアムフライデー(笑)にみる「働き方改革」的なものの矛盾 生温かく、激しく傍観しよう

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
プレミアムフライデーに大会を行ったZST(格闘技イベント)

プレミアムフライデーが始まった。月末の最後の金曜日を15時退社などとし、早めに仕事を終え、休んで頂いたり、消費してもらおうという取り組みである。働き方を変える取り組みでもあり、消費の活性化策でもある。

と、この説明だけで「無理ゲー」「クソゲー」臭を感じる方もいることだろう。なぜ締め日に近い月末の金曜日なのか、仕事は早く終わるのか、かえってサービス残業を誘発しないか、遊ぶお金はあるのか、消費の絶対量は増えるのか、単に消費がシフトするだけではないのか、この日にお金を使って頂くサービス業でお勤めの方はこの恩恵を受けないのではないかなどなど、ツッコミどころ満載だ。

実際、様々な事前調査が行われているが、評価は芳しいわけではない。『日経ビジネス』の2016年12月26日・2017年1月2日号(合併号)は日経ビジネスオンラインの読者に対するアンケート調査を紹介している。2016年12月15日から5日間おこない、1787名(男性80.7%、女性19.3%、30歳未満4.7%、30代16.0%、40代34.9%、50代31.6%、60代以上12.8%)から回答を得た。

プレミアムフライデーについては賛成52.2%、反対30.3%、どちらでもない17.5%だった。年収が少ない人ほど反対派が多いという傾向もみてとれた。普及するかどうかという問いに対しては、普及すると思うと答えた人が17.1%、普及すると思わないが59.9%、よく分からないが23.0%だった。なお、何をするかという問い(複数回答)においては、家に帰るが65.0%、買い物をするが34.8%、運動をする(スポーツやフィットネスなど)が30.7%、娯楽施設に行く(映画、漫画喫茶、パチンコなど)が27.8%、外食するが26.4%、旅行をするが17.7%と続いた。

今後、プレミアムフライデーに何をしたかという実態調査も明らかになることだろう。なんせ始まったばかりの取り組みなので、今後も企業は職場としても、消費の受け皿としても試行錯誤を続けるだろうし、消費者も楽しみ方を考えることだろう。現時点では評価するのはまだ早いが「無理ゲー」「クソゲー」臭がするのは言うまでもない。

ちなみに、筆者だが勤務先には「プレミアムフライデー」という概念はまだ浸透していないのか、夕方の会議を入れられそうになった。急な依頼であり、出席がマストではなく、もともと予定が入っていたので辞退した。そもそも概念が浸透していない上、このように会議は突発的に入るものなのだ。15時より前に職場を出て視察に出かける予定だったが、思ったより仕事に時間がかかり、やや遅い帰宅となった。まあこういうものだろう。あるコンセプトが浸透するには時間がかかるし、そもそもこのように、突発的に仕事が入ったり、予想以上に時間がかかったりするものである。

街に出かけて見たが、18時台の新宿はむしろ人が少なく感じた。もう既に店に入って飲み食いしていたのかもしれない。行きつけの蕎麦居酒屋で食事をし、ご招待頂いていたZSTという格闘技イベントを観戦し、やはりいつも行く恵比寿のバーに出かけたのだが、そのいずれも動員がいつもより寂しめに感じた。客の奪い合いが起こっているのか、早く家に帰っているのか。

もっとも、この手のことは体感値で判断してはいけない。のちほど、人がどう動いたのかは明らかになるだろう。妻によると「プレミアムフライデーに伴って銀座線にお客様が集中してます」というアナウンスがあったようだが。

そうそう、その妻のためには「プレミアムフライデープラン」というメニューをつくり、料理を作り置きしていったら好評だった。火をつけるだけでOKな土鍋ご飯、根菜スープ、アジのたたき、サラダ、フルーツ盛り、ノンアルコールカクテルなどだ。ちゃんとお手紙までつけた。好評だったが、よく考えるといつもと同じ光景だった。

数年前も「ゆう活」という、早く帰ろうというムーブメントがあったが、今や口にするのも恥ずかしい状態になっているのは言うまでもない(一部では定着したのだろうが)。私はこの手の「働き方改革」的なムーブメントに常に警鐘を鳴らしている。この手のものは、根本的・普遍的な矛盾をはらんでいる。仕事の絶対量、任せ方をどう変えるかという本質に踏み込まないものは、単なる労働強化になってしまう可能性だってある。改善レベルであり、改革ではない。いくら明るく煽ったところで、労働者はバカではない。むしろ、ガッカリの連鎖が広がっていくことだろう。

すでにプレミアムフライデー(笑)という空気が漂っていると感じるが、定着するかどうかは今後の取り組みによるだろう。子供だましの消費促進策、意識高い系アピールではなく、いかに仕事の絶対量とまかせ方を変えるか、サービス残業を誘発しないようにするか、遊ぶ金を労働者に配るかということに踏み込んで頂きたい。欺瞞的な取り組みは罪である。本当に断固として浸透させるなら、非妥協的な取り組み、烈々たるパトスをみなぎらせることが必要だ。

小生は、生温かく、激しく傍観する決意を打ち固めたのである。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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