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映画「ゴーン・ガール」のパブリックイメージの作り方がリアルですごい

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
主人公のニックがメディアを前に協力を呼びかける

新作映画「ゴーン・ガール」が劇場公開になったので早速観てきました。2014年最後にして最高という評判通り、最後の最後まで目が離せない展開で、普段映画をあまり見ない人でも十分に楽しめる作品だと思います。

ジャンルとしてはサスペンスで、ネット上の反応を見ていると「怖い」「誰も信じられなくなる」「後味が悪い」という声が目立ちます。おそらく「誰が悪かったのか」を一緒に行った人と話してみると、見方の違いにまた発見があるはずです。

さて一方で、日頃コミュニケーションの専門家としてメディア対応をアドバイスしている私が注目したのは、世間が自分を見る目、つまりパブリックイメージに翻弄される登場人物たちの姿でした。

自分を題材にした物語を親が描いたことをきっかけに有名になってしまった女性エイミー。そして、そのエイミーが失踪した情報を得たいと記者会見で訴える夫のニック。

メディアで広まり、変化していくパブリックイメージと自分自身のギャップに苦悩する二人です。

とりわけ主人公のニックがメディアの注目を浴びるプロセスの描かれ方が、不祥事や事件によって急にメディアの注目を集めた企業経営者に見られる様子そのもので、取り巻く人たちとのやりとりやメディアに向けて発した言動と成り行きが、リアルなケーススタディに見えてきます。

主人公ニックは映画の中で、メディアの扱いに不慣れな人が犯す典型的な失敗をします。クライシス局面のメディア対応の基本でもありますので、そのポイントをまとめておくことにしましょう。(映画をこれから見る人はネタの微バレ注意)

1.正直なだけではうまくいかない

妻が失踪した事に関する情報を求めて記者会見で世間の協力を呼びかけるニックは、普段着と普段通りの態度でカメラの前に出ますが、それが結果的に世間の信頼を落とすきっかけになります。正直さは大切ですが、正直なだけではリアルには伝わらないということです。

2.身の潔白は迷わず答えることから

聞かれた質問に対してクリアに答えられないと信頼は得られません。答えを持っていない時はそれをはっきりと伝え、答えに迷わない。答えに迷うと辻褄合わせを疑われます。だからこそ答えるためには十分な準備が不可欠なのです。

3.弱点になる材料は使われる前に使う

世間に知られたくなかった情報が予期せぬタイミングでバレます。それによって信頼を失う前に、自分から告白する必要があります。

4.弱いものが支持を得やすい

メディアで報じられる内容は、視聴者の感情を意識して作られていきます。したがって、明らかな弱者(というイメージのあるもの)は守られなければならないという単一的な論調に流れがちです。相対する側は、それを意識した対抗策が必要になります。

5.一貫したメッセージによってパブリックイメージは作られる

きめ細かく注意深く考えて準備をせずには信頼を勝ち取ることはできません。その場の思い付きやありのままでは、うまくいかないのです。イメージを作り出すにも時間と手間がかかるということで、見終わった人が「怖い」と言う理由はまさにここにあるはずです。

映画「ゴーン・ガール」。ストーリーはあくまでフィクションですが、少なくともメディア周りのシーンに登場する舞台設定は、そのディテールまで、各分野のプロが協力して作り上げなければ生み出せないほど自然に、つまり、リアルに描かれています。

逆に言えば、視聴者側からリアルに見えるためには、それだけ作り上げられなければならないということかもしれませんが、それは見方を変えれば、出来上がったイメージとは違うシナリオを想像するという楽しみ方もある、とそんなことも感じさせてくれる映画です。オススメです。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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