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中国のPM2.5は海外勢の力なしに対策強化は無理そう

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

ここ数週間、中国・北京などでPM2.5が深刻な状態になっているというニュースが繰り返し報じられている。中国政府は対策に力を入れているというが、伝わってくる情報からは、自助努力だけではどうも状況の大きな改善が難しい雰囲気が漂っている。

「状況は悪くなっている」

昨年と比較して北京の微小粒子状物質PM2.5は悪化している、少なくとも住民の不安は増している、というのがどうも一般的な現地の感覚のようだ。

昨年の今頃、北京でPM2.5の取材をした。いわゆる報道のイメージと違って、視界の悪い日が毎日続いている訳ではなかった。風が吹けば飛散して青空が広がり、PM2.5の濃度も一気に下がる。逆に風が吹かないと濃度が上がる。確かに、視界が悪くなることはあったが、ニュースで見かけるように、ガスマスクのような大げさな装備でたくさんの人が歩いているような光景があちこちにあるわけではなかった。

その時に動画にまとめたPM2.5の基礎知識がこれである。

参考: 北京PM2.5 知っておきたい20の事実(金曜動画ショー)

https://www.youtube.com/watch?v=zuDx3UVlJQ8

つまるところまさに「風まかせ」の毎日で、現地では天気予報と同様、いやそれ以上にPM2.5の変化をスマホアプリで気にしながら生活をしている。そういうこともあって、実際のところ、状況が改善に向かっているのか悪化しているのかは生活の中では判断がつきにくい。

実は10年のスパンで見みると、大気汚染の状況は改善しているという見方もある。

「中国政府は大気汚染の問題解決に向けて真剣に取り組み、実は大きな成果を上げている。たとえば北京では、特に毒性の高い汚染物質は1/3を削減し、亜硫酸ガスだけを見れば2/3がなくなった。状況はずっと良くなっている」

北京にあるビジネススクール長江商学院のアンソニー・リュウ客員教授はそう語る。

また北京の大気汚染は、今年1~10月で見ると、散発的に悪化することはあっても、全体的には前年と比較して改善している。

もちろん、だからと言って安心できる状況とは到底言えないし、一時的なものかもしれない。人の実感としてもまた別の話である。実際のところ、住民の不安が増しているのは、生活の中で質的な変化や具体的な現象に注目しているからだ。

1つは、過去に見られなかった「赤色警報」(深刻な大気汚染が発生すると予測した際に発令する警報のうち最高レベルのもの)が12月だけで2度も出たこと、そしてもう1つは、空気が悪いと言いつつも、以前は旅行者か外国人くらいしかマスクをしなかったのが、今年は一般市民も着けるようになったことなどが象徴的に語られる変化である。

対策の変化は海外を意識して起きている

中国のPM2.5への対応で重要な動きが生まれた契機は、国民の人権や健康への配慮などよりも海外勢を意識したものである。

最も大きなマイルストーンは、在北京米国大使館が大使館敷地内にPM2.5の観測装置を設置し、数値の一般公開を始めたことだ。当初、中国政府は内政干渉だとして猛抗議したが、結局、国内世論もあり、その後、自分たちも同様の装置を設置してデータの公開を始めた。これが現在、国内の生活に不可欠な情報になっている。

次に、APECや軍事パレードなど国際的な注目の集まる一大イベントで青空を演出するために周辺の工場生産を停止させ、車の乗り入れを禁止する取組みをしていることがある。

もちろんこれ自体は単に経済活動を止めているだけの話で、一時的にしか有効ではない。しかし、青空を生み出せたという手ごたえによって、重要なタイミングごとに使われる手法として定着した。12月の赤色警報発令時には北京だけで2100社に生産停止や減産措置を取らせている。これは9月の軍事パレードの時と同規模の対策だという。

注目すべきことに、最近になってその「青空を生み出すコスト」が、莫大な生産性の低下というコストであり、経済成長を追い続ける中国政府としては真剣に受け止めざるを得ない大気汚染のコストとして認識されはじめているということである。これが中国政府が真剣に対策に乗り出すきっかけになるのではないかと期待する声が見られるようになった。

参考:大気汚染のコストに関する Infographics

http://knowledge.ckgsb.edu.cn/2015/12/21/infographics/air-pollution-in-china-coughing-up-the-cost-of-smog/

また「赤色警報」も、海外からの指摘を受けて発令するようになったという話がある。PM2.5の濃度が最も深刻だったのは11月末から12月1日ごろだったが、最高から2番目の「オレンジ」警報だった。PM2.5の数値は実にWHO推奨上限の約40倍だった。それに比べて初めて赤色警報が出た12月8日は10倍程度。初めての赤色警報を出し渋ったことを海外からも強く指摘されたことを受けて、比較的状況が軽かった翌週に発令したと見る向きが少なくないのだ。

外から目を光らせるべき時だ

実際のところ、工場の粉塵や自動車の排ガス、冬は暖房用の石炭燃焼が主な原因になっているPM2.5の排出を急に抑えることは容易ではない。企業もコストのかさむ環境対策に抵抗が大きく、また遵法意識の低さが問題になることも少なくない。規制強化は進めてはいるが、十分とは言えない。

一方で、中国国内で発信される情報について、検閲・削除の話題が絶えない。PM2.5による健康被害の情報や、政府の情報隠しといった指摘や批判はすぐに消されているという。

もちろん環境問題は一朝一夕に解決できるようなものではないが、情報のアクセスや流通さえも制限されているということが、なお一層の不安と不信を招いている。

米国の研究によると、中国の大気汚染による死者は1日あたり4000人に達している。これは中国の全死亡者数の実に17%に及ぶという。大気汚染は日本へも飛来するほか、深刻な土壌・水質汚染、そして汚染食品にもつながっている。そしてこうした指摘はほとんどが海外勢によるものだ。

日本に流れる報道は、視界不良とPM2.5の濃度が異常になって生活に影響が出ていること、その結果売れているグッズなどの情報に留まっている状況だ。

日本はこの問題に対して、主に日中韓の環境相会合と日中都市間連携協力で関わりをもっている。だが、環境省のサイトを見ても、都市間連携協力事業を受託している公益財団法人地球環境戦略研究機関のサイトを見ても、典型的な役所の文書が並んでいるぱかりで、具体的な取組みの進捗や状況がよく分からない。

情報の検索性も非常に悪い。ようやく見つけた資料を見ても、調査・ニーズの把握・会議の開催・研修などというような、悠長で何もやってなくても書ける単語が並ぶばかりで、強力に推進し進捗しているという印象が全くない。

中国側から情報が十分に発信されない状態だからこそ、日本側にある情報をしっかり開示し、問題を指摘し、状況改善へのマイルストーンを刻んでいくことが重要だろう。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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