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異性交際と結婚についての30年間の推移

筒井淳也立命館大学産業社会学部教授
(写真:アフロ)

異性交際と結婚についての40年間の推移

交際・結婚ステータスの議論

2016年11月24日のNHK「クローズアップ現代プラス」では、「恋人いらないってホント?出現!“いきなり結婚族”」というタイトルで、若者の恋愛の状況について特集されていました。

これに対して、「『草食系男子の増加』という大いなる勘違い:実はバブル世代でも7割に彼女はいなかった」という記事が先日(12/8)掲載され、「交際が減ってきた」という見方は、しばしば参照される国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査・独身者調査」の結果を恣意的に集計・解釈しているだけではないか、といった疑義が提示されています。

後者の記事の主張にはもっともな点があります。「出生動向基本調査」には、「異性の友人」というあいまいなカテゴリーがあります。恋人はいないけど、異性と友人として「交際」している人は、「交際相手なし」のなかに含まれないのです。たしかにこれは私たちの実感には合いません。そこで、「異性の恋人がいる」というカテゴリーで再集計すると、必ずしも「草食化」、つまり恋人がいない人の増加はみられない、ということでした。

「異性の友人」というなんだかよくわからない選択肢が入っているのは、過去の時点(初回調査の1982年)ではまだリアリティがあった、ということなのでしょう。ただ、途中で質問の言葉遣い(ワーディング)を変えると過去との比較がしにくくなるので、残してあるのかもしれません(機会があれば、事情を関係者に聞いてみます)。

あとで全体の集計表を載せますが、この「異性の友人あり」を選ぶ人の割合は、たしかにかなり減ってきました。これは文字通り減っているというよりは、(1987年調査以降の)「友人として交際している異性がいる」という質問文の解釈が、「交際」に偏ってきている可能性があります。つまり、友人以上の存在を想定している人が増えたため、この選択肢を選ぶ人が減ってきたのかもしれません。

交際・結婚ステータスのデータ

ただし、「草食化」を否定する記事の集計にも一定の限界はあります。というのは、「出生動向基本調査・独身者調査」は文字通り独身者を対象とした調査であり、結婚している人は含まれていないからです(離死別者は調査対象ですが、集計からは外れています)。たとえば、仮に恋人のいる未婚者がある期間で増えていたとしても、結婚経験者の割合が減っていれば、「恋人がいるか結婚を経験している人」の割合は変化しないかもしれません。全体として結婚・交際している人の割合が一定で、「恋人とつきあっているけど結婚しない人」が増えているだけかもしれないからです。

そこで、国勢調査から配偶関係データを抽出し、そこから「結婚を含めた交際ステータス」のデータを作ってみました。結果は以下のとおりです。

図1 男性の交際・結婚ステータスの分布の推移
図1 男性の交際・結婚ステータスの分布の推移

最初に留意点ですが、今回は時間がなかったので男性のみのデータです。また。1982年のデータについては、「出産力調査」における調査票の選択肢のワーディングが1987年以降と異なりますから、留意が必要です。より正確な比較は、1987年以降で行う必要があります。最後に、2005年より前だと国勢調査と調査年がずれていますので、割合の計算は概算にとどまります。

以上を踏まえてデータを見てみましょう。「結婚もしたことがないし、現在交際相手もいない」という人の割合は、25〜29歳では「徐々に増えつつある」くらいでしょうか。これと連動して、やはり20代後半では「結婚経験ありor現在恋人あり」の人は徐々に減り続けてきました。

次に、もう少しだけカテゴリーをブレイクダウンして、「結婚経験・恋人なし」「恋人あり」「結婚経験あり」「その他」の4つに再分類した上で、推移をみてみたのが図2です。

図2 男性の交際・結婚ステータスの分布の推移(4カテゴリー)
図2 男性の交際・結婚ステータスの分布の推移(4カテゴリー)

20代後半について言えば、交際していない人の割合も少し増加してきていますが、他方で恋人ありの人の割合も増えています。この一見不思議な現象がなぜ生じているかというと、結婚経験者割合の減り方が激しいからです。未婚化が進むなかで、交際なしの人も恋人ありの人もどちらも減っていないのです。恋人ありの人が増えているのは、結婚にまで踏み込めない人が増えている、ということでもあります。

NHKの「クローズアップ現代プラス」では、「恋人はいらないけどいきなり結婚したい」人が出現してきたことに注目していましたが、以上のようなデータを見る限り、そういった人がどれほどのボリュームでいるのかについては今後のデータを冷静に見極めていく必要があるといえるでしょう。

最新の2015年の「出生動向基本調査」については、年齢別のデータの集計結果がまだ出されていませんので、こちらが出てきたら情報をアップデートしてみたいと思います。また、性交渉の経験等も視野に入れた集計はまた別途行ってみようと思います。

立命館大学産業社会学部教授

家族社会学、計量社会学、女性労働研究。1970年福岡県生まれ。一橋大学社会学部、同大学院社会学研究科、博士(社会学)。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015年)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016年)、『数字のセンスを磨く』(光文社新書、2023)など。共著・編著に『社会学入門』(前田泰樹と共著、有斐閣、2017年)、『社会学はどこから来てどこへいくのか』(岸政彦、北田暁大、稲葉振一郎と共著、有斐閣、2018年)、『Stataで計量経済学入門』(ミネルヴァ書房、2011年)など。

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