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みんな外に出たかった    ポケモンGOを米9都市でプレイ

津山恵子ジャーナリスト、フォトグラファー
ポケモンGOにはまる人々。年齢は7歳から70代。Morgan Freeman撮影

「暑いねー」

と、声をかけると、

「はい、暑いです。今日は駅まで40分歩いたので」

と、アシスタントのK君。彼は歩くのは好きそうに見えないコアの任天堂ゲーマーなので、「え?そう」と驚くと、

「ポケモンのゲームが出たんです。歩くと、ポケモンが捕まえられるんです。日本ではまだ出ていないから、津山さんがプレイしてツイッターしたら、大変なことになりますよ」

と額に汗して言う。

7月8日、多くのポケモンファンが待ち焦がれていた「ポケモンGO」の存在を知った瞬間だった。その晩にダウンロード。しかし、その後しばらく忘れていた。

プレイを始めたのは、13日、米大統領選挙のルポのため、中西部のカンザス州ウィチタ(人口約39万人)に到着した晩だ。同行しているフォトグラファーのモーガンは、プレイステーションのコアゲーマーだが、ポケモンGOのことを知らなかった。繁華街のバーで「えー、知らないの?」と話をした途端、彼は血相を変えて、即ダウンロードした。

バーを出て、二人でポケモン探しを始めると、ダウンタウンを歩いている若者がみなスマホを覗き込んで、プレイしていることに、初めて気がついた。

14日は、ミズーリ州インデペンデンス(人口約10万人)という小さな街に移動した。仕事を終え、ポケモンを捕まえようと、モーガンと夜10時半頃、ダウンタウンに出て驚いた。歩行者で、ポケモンGOをやっていない人はいないと言っていいほどだった。生まれて間もない赤ん坊をカゴに入れて、ぶら下げたままプレイしている夫婦、ちょっと太目の兄弟、子沢山の親子連れ、10代の友達グループがうろついていて、何度も会う。小さな街ゆえ、レストランや店があるのは2ブロックぐらい。そこに人々が集中している。特に、普段は人が寄り付きそうにない裁判所前の階段に数十人が集まっていた。

そこが、「ポケモンGOスポット」だということを、可愛い姉妹から聞いた。結局、夜中まで90分ほど歩き回り、その晩のうちに、ポケモン64、レベル6を獲得した。

実は、ゲームは苦手だ。10年ほど前、一番簡単だと紹介された任天堂のハローキティに挑戦し、リモコンの操作が分からず、キティが3回続けて死んだ。ところが、ポケモンGOではゲーマーではないのに、順調に進んでいる。気を良くして、モーガンにこう宣言した。

「1日に30分歩けば、10日間でポケモン250は軽い」

しかし、それは甘かった。ポケモン出現の頻度が場所によって異なるからだ。人がたくさんいれば、ポケモンもいると思ったが、翌日訪れた大都市ケンタッキー州ルイビル(人口76万人)では、ダウンタウンを歩いてもほとんど収穫はなかった。しかし、プレイしている人は他の都市と変わらずたくさんいた。

ところが、同日晩に訪れたイリノイ州オファロン(人口2万8000人)では、再びスポットを見つけた。線路の上に集まっていた2ダースほどの若者に聞くと、真っ赤に塗られた昔の汽車の車掌車、古い銀行ビル、図書館の3つの歴史的な場所が作る三角形の中心が、線路上で、スポットになっているという。彼らに話しかけているわずか10分ほどの間に、

「あ、タウルスが現れた。ちょっと今は話しかけないで!」

「イーヴィーもこっちにいるぞ」

と、わずか20メートルほどの線路上を若者が行ったり来たりしている。

実は、イーヴィーは、私はすでに3匹ぐらい捕まえていた。なぜイーヴィーがそんなに嬉しいのか分からなかったが、複数の都市でプレイしている人は少ないから、その土地で現れる限られたポケモンのうち、可愛いのが嬉しいのだろうと思った。

そのオファロンで、ジグリーパフというポケモンが、孵化器に入れていた卵から孵った時は感動だった。

「あ、すごい可愛い」

と道端で声を上げると、近くにいた若者が集まってきた。

「ジグリーパフだ!あり得なーい!」「羨ましい!」「嘘だろ」

と声が上がった。

結局、カンザス州ウィチタでプレイを始めてから9都市、同じ光景に出会った。ダウンタウンに行くと、若者だけでなく、家族連れ、グループが集まって、プレイをしている。2週間前は誰もいなかったダウンタウンの風景が一変した。若者が、自分の街にある歴史的建造物のことを学ぶきっかけにもなっている。

「単に外出する理由があるのが嬉しい」

「今まで友達と時間を潰すのに、バーに行ったりしてお金がかかっていた。ポケモンGOは、お金をかけずに友達に会える」

「1時間で4、5人の友達ができる。人に出会ったり、話をしたりすることができるようになった」

と、プレイヤーの笑みは、ポケモンGOの効果を物語る。

ポケモンGOをプレイしていると、すぐに会話が始まるため、すでに数十人に感想を聞いたが、異口同音に聞くのは、「外出するきっかけになった」ということだ。米国人は、オープンで社交的だと思っていたが、にもかかわらず、そんなにも外出したがっていたのか、とびっくりした。17日訪れた歴史的な街、オハイオ州メダイナでは、広場で老若男女がポケモンハントに余念がない。ワインバーに入って話を聞くと、ダウンタウンにこんなに人が集まるのは、近年なかったことだという。当然、近所のビジネスに恩恵をもたらし、街は活気付いている。

ポケモンGOがなぜ、米国でこれほどの社会現象になったのか。私なりの感想だ。

1、 プラットフォームがスマホだったため、簡単にダウンロードして始められる

2、 外出するきっかけを作った

3、 ポケモンを捕まえるために、情報を交換するなど、他人とのコミュニケーションのきっかけを作った

ポケモンGOプレーヤーは、7歳から71歳の人まで出会った。皆、笑みを浮かべて、連れ合いと会話しながらプレイしている。こんなゲームがかつてあっただろうか。

唯一の懸念は、「身の安全」だ。すでに、崖から落ちたり、捻挫したり、死亡例までが報道されている。ハイウェイで、ポケモンを捕まえようとしていた若者が、交通事故を起こした例もある。私は、何かにつまづいて転びやすいので、道がでこぼこのところでは、スマホをポケットにしまうことにしている。

取材中に聞いたゲーマーによると、ポケモンGOのせいで亡くなった人は世界で40人以上いるという。今後、どこでプレイしていいのか、などルールが必要になってくるだろう。

しかし、それほどの影響があるゲームアプリは、稀だ。人々を外に出させて、明るい日差しのもとに、家族や友人が集うきっかけになった。こんなに多くの人々をハッピーにさせた、初めてのゲームアプリではないだろうか。

ジャーナリスト、フォトグラファー

ニューヨーク在住ジャーナリスト。「アエラ」「ビジネスインサイダー・ジャパン」などに、米社会、経済について幅広く執筆。近著は「現代アメリカ政治とメディア」(共著、東洋経済新報 https://amzn.to/2ZtmSe0)、「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社 amzn.to/1qpCAWj )、など。2014年より、海外に住んで長崎からの平和のメッセージを伝える長崎平和特派員。元共同通信社記者。

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