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レノファ山口:昇格決定は持ち越し。雨に煙ったドローゲーム、J-22に最終戦の意地

上田真之介ライター/エディター

明治安田生命J3リーグ第38節の注目カード、レノファ山口FCとJリーグ・アンダー22選抜(J-22)の一戦が11月14日に維新百年記念公園陸上競技場(山口市)で行われ、0-0で引き分けた。この結果、暫定で首位山口と2位FC町田ゼルビアとの勝ち点差が3に拡大。町田は15日にホームでブラウブリッツ秋田と対戦し、勝てば勝ち点差がゼロになるが、黒星の場合は得失点差の関係で山口が圧倒的に有利な状態でリーグ最終戦を迎えることになる。

J3第38節:山口0-0Jリーグ・アンダー22選抜▽得点者=なし▽6322人=維新百年記念公園陸上競技場

手に伝わった冷めぬ熱

上野展裕監督
上野展裕監督

試合が終わりホーム最終戦のセレモニーが閉幕したあと、ちょうど上野展裕監督が私の前を通りかかった。会釈をして握手。それはどの現場でもある光景だが、はっと驚いたのはその手の熱さだった。決して『闘将』という言葉を当てはめるような指揮官ではない。ただほとんどベンチに座すことなくピッチサイドで声を張り続ける様は、11.5人目の選手とも、0人目の選手とも言えるだろう。冷めぬ熱が手を火照らせていた。

――熱。試合後に行われる監督の記者会見。上野監督は毎試合、サポーターの応援と、90分を戦い抜いた選手たちへのリスペクトから言葉が綴られる。時に厳しい質問が飛んでも、回答には選手への期待が必ず込められる。だが、14日のそれは少し違っていた。もちろん選手を称える言葉に変わりはないのだが、指揮官はこう語った。「選手には今までの人生で一番動いた90分にしようと話したが、それができたかというとクエスチョンマーク。コンディショニングも含めて見直していきたいと思う」。コンディションやメンタル、チーム最終戦という相手の状況などが複合的に重なった結果、確かに、人生史上最高のタフさを表現できていたとは言い難い。上野監督は続ける。「志を持って山口のみなさんと戦いたい。J2に上がるのが目標だが、それだけではなく、応援して良かったと誇りに思えるようなチームにしたい。それを思うと今日はもう少し。もう一度話し合って、そういう姿を見せられるようにしたい」。強い言葉だ。悔恨でも、憤怒でも、焦燥でもない、言うなれば時代の動く瞬間に立ち向かう志士の熱のようなものがじわり伝わってきた。

主導権はJ-22。山口は苦戦

スコアレスドローに終わったゲーム。山口としても得点がなかったのは5月24日の町田戦以来となった。サッカーのハイライトはやはり得点に直結するシーン。ネットの揺れなかった試合を深く掘り下げる必要なないのかもしれないが、流れを記しておきたい。

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前節に続いてボランチの小塚和季が出場停止の山口は、DF登録の宮城雅史を最前線で起用する急造布陣。4-1で勝利した前節・盛岡戦ではその策がうまくはまったが、今節は山口のストロングポイントをピンポイントで抑えに来たJ-22に主導権を握られ、ターゲットに据えた宮城への供給が少なくなった。特にJ-22は宮城に加えて山口のフィニッシャーたる岸田和人にも触らせないよう動きを制限させ、ボールホルダーにも厳しくアプローチ。中途半端になったパスはほとんどを拾い上げてカウンターに繋げていった。

J-22は前半7分にカウンターから攻め込み左サイドから前川大河(C大阪)がクロスを送ってチャンスメーク。同16分には石田雅俊(京都)が背後に抜け出してゴールに迫ったが、それぞれ福満隆貴、代健司がはね返したり体を寄せたりしてシュートまでは持ち込めなかった。山口は上述の通りに肝の部分を封じられ岸田にすんなりとは入らなかった。それでも同38分、小池龍太が右サイドの高い位置から低いクロスを入れると、スクランブルのこぼれ球を宮城がシュート。しかし相手DFに当たって枠には飛ばず、どちらに流れが傾いても不思議ではない状態で後半に入っていく。

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試合経験を積ませることにも重点を置くJ-22は後半、早い時間帯から選手を交代投入。特に後半14分にピッチに立った大島康樹(柏)は相手守備陣を置き去りにするスプリントでゴールに向かい、得点にあと一歩まで肉薄。後半30分過ぎまでは主導権を握り続けた。

対する山口は前に付けるパスだけでなく、横パスでもミスが目立った。「J-22の選手たちにはラストゲームという思いもあったし、技術の上手い選手もいた。(山口の)前線は前から行きたいが、後ろは裏をケアして間延びが生じた。崩しのところも今日は人数が少なかった」と島屋八徳。ゲームをじっくり構築しようとする意志が見えた守備側と、ゴールを急いだ攻撃側とで意識統一ができなかった。それに加えて、昇格争いのプレッシャーや、雨中のピッチコンディションも相まって、少ないタッチ数でボールを動かしていく山口のベースが揺らいでいた。終盤に廣木雄磨、平林輝良寛らを投入。ようやく中から外、外から中へとリズミカルにボールが動き始めたが、J-22の寄せも素早く、1点を掴み取ることはできなかった。

高畠勉監督
高畠勉監督

J-22は今シーズン限りで廃止となる見込み。J3最終節は試合が組まれていないため、この山口戦が事実上の最終戦となった。J-22側のゴール裏には『2年間お疲れ様。ありがとう』の横断幕が掲出。今節は気持ちの入ったゲームを見せつけた。柏レイソルに所属の大島康樹は「このチームがなければ自分の試合経験も大幅に減ったと思う。(試合に出ることで)フィジカルの差があると感じたので、そういうのを意識しながらレイソルでやっていきたいと思う」とコメント。高畠勉監督は「選手たちにはこの経験を今後のサッカー人生に生かして、成長したところを見せてくれという話をした。メンバーが(試合ごとに)入れ替わるという特性の中で、なかなか右肩上がりに持っていけない歯がゆさはあったが、タフなリーグ戦でチームとしては結果は残せなかったが、選手たちは何かは持ち帰ってくれたと思う」と振り返った。

響いたサポーターの声

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後半は山口側の選手が熱くなってしまう場面があった。コンタクトプレーやジャッジへの不満からストレスの溜まる展開だったのだろう。ただ、1点を取ることが必要ならば、時間を浪費し、なおかつ主審にとってよりネガティブな印象を与えるようなプレーは慎みたい。「審判への異議は言語道断」と話す上野監督はテクニカルエリアから落ち着くように指示。キャプテンマークを巻いていた島屋も呼び、選手のコントロールを促した。ただ、こうした時に誰よりも「落ち着け」と檄を飛ばしたのはスタンドからの声だった。個々人が選手の名前を叫んで落ち着くように促したり、個人チャントをすぐに入れて、選手に前を向かせようとした。

この試合、雨にもかかわらず6322人が維新公園を埋めた。送られる声援や拍手が何よりの勇気になった。

余談になるが、昨季(JFL)のホーム最終戦が4568人、また、単純比較はできないが2013年の中国サッカーリーグのホーム最終戦が3759人だったことを考えると、着実にサポーターが増えてきていることが分かる。

もちろんサポーターの増加や選手のプロ化にともなって、サポーターとチームとの距離が少しずつ離れていくことは避けられない。練習場に訪れるお客さんも増えてきているが、幾ばくかのマナーも求められてくるだろう。たくさんの来場者がなるべく『100』を楽しむために、『150』くらい楽しんできた人はそのいくつかを、『50』しか楽しめなかった人のためにお裾分けする――。そういう時期に差し掛かってきていると思う。とはいえ、負傷した相手選手が起き上がったときに拍手を送ったり、ブーイングや野次が飛ぶよりも前にチャントを入れてポジティブな展開に持ち込もうとする山口らしい応援は財産だ。続けるもの、『100』を分かち合うために『50』を差し出すもの、そういうことを考えながら、また来年の維新劇場に向かっていきたい。

余談ついでに付け加えると、ひとつ前のホームゲーム・藤枝MYFC戦(11月3日)では、上野監督が京都サンガの育成を担当していた時期に同チームの監督をしていた柱谷幸一監督(ギラヴァンツ北九州)が維新公園を訪問。柱谷監督は「映像や音響も良く、サポーターも多い。スタジアムに入るときにワクワクするような盛り上がりがある。(北九州が)逆転されている」と絶賛し、「2、3年後は逆転したい」と新たな闘志を燃やしていた。両チームは今季、何度も練習試合を行っており、選手層の底上げにも寄与。今後も切磋琢磨しあえばチーム力のみならず地域の盛り上がりにも繋がっていくだろう。

セレモニーでも険しい表情を崩さなかった平林輝良寛(右から2人目)
セレモニーでも険しい表情を崩さなかった平林輝良寛(右から2人目)

長く続いたJ3リーグも次節が最終戦。山口の順位確定も最終節・敵地でのガイナーレ鳥取戦まで持ち越しとなった。中国リーグからJFLへ、JFLからJ3へ、その局面に立ち会い続けた平林輝良寛は引き締まった表情で話した。「スタートから出る選手、途中交代で出る選手はいるが、できる力を出し切って90分間戦い抜きたい。また山口のみなさんと一緒に喜びたいので、鳥取で全力を出して勝ちきりたいと思う」。その言葉の通り、次こそは『人生で一番動いた90分』を体現し、白星でJ2を掴み取る。

試合後にボランティア団体「Team BONDS」のメンバーが集い今季を振り返った
試合後にボランティア団体「Team BONDS」のメンバーが集い今季を振り返った
ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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