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レノファ山口:J1クラブライセンスが初交付。昇格要件、残すは成績のみ

上田真之介ライター/エディター
ライセンス取得を報告するレノファ山口FCの河村孝社長(28日、山口市内)

J2・レノファ山口FCは28日午後、山口市内で記者会見を開き来季のJ1クラブライセンスの取得を発表した。レノファにJ1クラブライセンスが交付されるのは初めて。成績要件を満たせばJ1昇格が可能になる。会見に出席したクラブの河村孝社長は「山口県のチームとしてJ1を目指していきたい。現場にもうひと元気を出してもらって、選手と監督が一体になってどうにか6位に滑り込んでプレーオフに出て行きたい」と話した。

維新百年記念公園陸上競技場(山口市)
維新百年記念公園陸上競技場(山口市)

レノファは今季からJ2で戦っているが、J1クラブライセンスの取得にはスタジアムの一部改修と常時使用できる練習場の確保、それにクラブハウスの建設が必要だった。ハード面の整備はクラブ単体では難しく、河村社長が6月に村岡嗣政・山口県知事と会談し、支援を依頼。山口県が200席分の客席が不足している維新百年記念公園陸上競技場(山口市)を整備し、ホームタウンの山陽小野田市が県立おのだサッカー交流公園にクラブハウスを建設することが決まった。練習場はクラブハウスに隣接する天然芝1面を県が優先的に提供する。環境面の整備が進むことで、J1クラブライセンス取得が現実的になっていた。

記者会見での主な発言は次のとおり。

●河村孝社長

「このたび2017年シーズンのJ1クラブライセンスを取得することができたことを光栄に思います。昨年のJ2クラブライセンスに続き、今回J1クラブライセンスを取得できたことは、チームと選手を後押ししていただいているファン、サポーターのみなさま、J1基準のスタジアム整備を決定していただいた山口県、練習施設の整備を決定していただいた山陽小野田市をはじめ自治体のみなさま、そしてクラブを力強く支えていただいているパートナー、サプライヤー、法人サポーター、株主のみなさまなど山口の力が一つになった結果だと考えています。心より感謝申し上げます。今回のJ1クラブライセンス取得を力に、下関と維新公園でのホームゲームを含め残り9試合のリーグ戦を、プレーオフ進出そしてJ1昇格に向けて戦って参ります。ぜひ試合会場に足をお運びいただき、よりいっそう選手を後押ししていただければ幸いです」

Q:これまでのJリーグクラブの中でおそらく史上最速のペースでJ1ライセンスに辿り着いたと思うが、何が理由だと考えているか?

「いろんな要因があると思いますが、先ほども申し上げましたように、山口県、山陽小野田市さんを含め、新たに周南市さん、防府市さんがホームタウンになっていただきましたが、そのように山口県を挙げてみなさんが前向きに検討していただいて、その結果が、今まで他のクラブにないような速さでここまで来た要因だと思っています」

河村孝社長
河村孝社長

Q:期待の大きさも増していると思うが、どのようにJ1へと進めていくか?

「J1は我々フロントだけではなくて、現場の結果がないと伴わないところがありますが、我々が目指しているのは、地域貢献、地域創生にチームが寄与できるようにと。地域に根付いたクラブチーム作りという意味では、J3ができ株式会社を立ち上げて出発した時点ではまだどうしても『レノファは山口市のチームでしょ』という声が非常に強かったと思います。それを少しずつ各市にホームタウンになっていただく中で、やっと今、6市がホームタウンになっていただいた。これを全県に持って行きたいと思いますが、山口県全体のチームという認識を持っていただいて、山口県のチームだから応援しようというような形に持って行く中で、山口県のチームとしてJ1を目指して、J1に行きたいと思っています」

Q:J1クラブライセンス取得を聞いたときの感想は?

「Jリーグが求めていることはクリアできているとは思っていましたので、よほどのことがなければライセンスが出ないとは思っていませんでした。それは先ほども言いましたが、県の関係者、市の関係者、マスコミのみなさま、サポーター、ファンのみなさま、そしてクラブを支えていただいている企業スポンサーのみなさまのお陰だと思っています。それがきっちりと合致した部分がありましたので、我々の不祥事がない限りはライセンスは出していただけると信じていましたので、『やった!』ということはなくて、出てほっとしたなというのが正直なところです」

Q:現場の選手や監督には伝えたのか?

「まだ伝えていません。午後5時に監督が来ますので伝えます(※会見は午後4時から開始)。現場とフロントが一緒になっての取得ですし、まだシーズンが終わっていないですので、もうひと元気を出してもらって、選手、監督が一体になってどうにか6位に滑り込んでプレーオフに出て行きたいですし、頑張りましょうと伝えたいと思います」

メディアの関心も高く、記者会見には多くの記者が集まった
メディアの関心も高く、記者会見には多くの記者が集まった

Q:J1に昇格したり、定着したりする手ごたえはあるか?

「今季の予算で言いますと4億8千万を目標設定でやっているのが、嬉しい悲鳴ではありますが、上ブレして(全体収入が)7億5千万くらいまで上がるのではないかなと思います。それと、Jリーグの配分金もありますので、J1に行くか行かないかで言えばハテナマークは付きますが、プラス材料は多いですので、今シーズンでJ1に行ってもいいような形の準備はできる状況にあると思います」

Q:7億5千万円はJ1に行けるという根拠になるのか?

「みなさんもご存じのようにJ2の中で、我々の選手、ゲームに対する予算はダントツで最下位になると思います。そこの部分の選手補強、現場に対する人件費の確保、ここをしっかり来季に向けては予算を確保する中で例年以上にしていきたいなと思います。選手補強に関してはJ1であろうが、J2であろうが、一定の予算を確保する中で進めていきたいと思います。J1だから急激に増やすとか、J2だから減らすとかではなくて、掛かっている人件費はJ2で最下位と思っていますので、ある程度のところまで選手確保のためにも(費用を)確保していきたいと思います」

Q:おのだサッカー交流公園は天然芝が1面しかない。養生期間などの代替地は考えているか?

「芝生の状況によりますが、1面でずっとやっていくのは難しいですので時期によってはどこか(別の施設)を抑えさせていただいてトレーニングさせていただくことになるかもしれません。基本的なベースは山陽小野田市さんの作っていただいたクラブハウスの横の天然芝でトレーニングすることになりますが、時期によっては代替地を使う可能性はあります」

Q:河村社長にとってはレノファに関わって5年でJ1クラブライセンス取得に至った。どんな思いか?

「最初は本当に手探り状態で、みなさんに理解を示してもらいながら協力していただいた中で、本当にスタッフ含め、何も分らない中で、ここに集まっていただいているマスコミの方にも温かくしていただいて今があると思います。認知度は出てきていますが、ここで満足したら衰退が始まると思いますので、一歩でも二歩でも少しずつ今以上に前進していく中で、山口県のチームとして認知されて地域貢献できるクラブを作りたいと思います」

Q:サポーターへのメッセージを聞かせてほしい。

「本当に最初からずっとみなさんに応援していただいて、本当にたくさんのサポーター、ファンの方がいらっしゃるからクラブがあると思っています。そういったみなさんの思いも一緒に一歩ずつ進めたらなと思っていますし、協賛スポンサーも600社を超えました。これを800社、一千社に。いろんな方に少しでもいいのでレノファに関わっていただけるクラブ作りができたらなと思います」

Q:逆にサポーターにはどんなことができると考えているか?

「サッカーを応援して仲間になって、その中で一緒に例えば地域に何ができるかということを考えながら、いろんなことが地域貢献としてできていったらいいなと思うのと、サポーターの方々も、クラブもとんとん拍子で来ていますが、これがずっと続くとは思っていないですし、もちろんみなさんも思われていないと思います。そのときに、苦しいときに、今以上に応援していただきたいと思いますし、今以上にチームと一つになって本当に12番という番号を背負っていただいて、チームを支えていただきたいと思います」

Q:残り9試合に関してどういう思いで臨むか?

「町田戦以来、ホームで勝っていないですし、今回も負けました。僕もこの前の試合は疲れているのは分りますが、たくさん(サポーターがスタジアムに)入っていただいている中、僕も控え室に入っていって「もっと頑張れ」と言いたかったですが、そうやっても状況は変わらないですし、そうじゃなくて、監督を中心にもう1回、残り9試合をどう戦うか。頑張って1試合1試合大事に戦いながらポイントを縮めることが大事で、最後の最後まで可能性がある限りはフロントスタッフを含め、チーム一丸となって1試合1試合3ポイントを取りながら縮めていくしかない。1戦1戦大事にしてプレーオフに進出したいと思っています」

オレンジ色に染まるゴール裏サポーター席
オレンジ色に染まるゴール裏サポーター席

成績要件への課題

J1昇格への残す障壁は成績のみ。現在は6試合にわたって無勝利の10位で、プレーオフ圏内(6位以上)へは勝ち点7の差を埋めていく必要がある。前節・岐阜戦の記事でも触れた繰り返しになるが、レノファは徹底した対策に遭って勝ちきれない試合が目立つ。自滅的に簡単に失点することも多く、昇格圏内に入るにはレベルをもう一段上げなければならないだろう。

好材料もある。9月26日にJ1サンフレッチェ広島と練習試合を行い、サブメンバー同士の対戦ながら好ゲームを見せた。オウンゴールが決勝点となって負けたとはいえ、0-1の接戦。後半45分は主導権を握っていた。こうしたサブメンバーの突き上げで、チーム全体の底上げは進む。

昨季は総力戦となる終盤に主力選手にケガが相次いだり、累積警告で肝心な試合に穴が開いたりした。そこの穴埋めがうまくいかず難しい試合が増えてしまったが、今季はベンチ外に回っている選手もゲームで十分に活躍できるレベルにある。残り9試合で勝ち点7の差を縮めるのは簡単ではないが、クリアすべきものが成績要件だけとなった今、昨季とは違う真の総力戦で戦い抜きたいところだ。

環境改善にも期待

練習場確保が難点だった。写真はまれに使うことがある長者ヶ原運動公園(山口市徳地)
練習場確保が難点だった。写真はまれに使うことがある長者ヶ原運動公園(山口市徳地)

レノファ山口FCはJ2に昇格した今年も練習場を転々としてきた。地域リーグ時代は人工芝ピッチでの試合開催があったことを考えると着実に改善してきてはいるものの、いくつかの施設はフルコートのピッチサイズではなかったり、地面が土のままだったりと、環境は厳しい。毎日同じ施設というわけにもいかず、日替わりの練習場は脚への疲労蓄積や移動疲れなどを残していた。山口県や各市の協力を得て来季はおのだサッカー交流公園を優先的に使用できることになり、負担が軽減される。

今年おもに使用している施設

・おのだサッカー交流公園(山陽小野田市)

・維新百年記念公園ラグビー・サッカー場(山口市)

・きらら博記念公園サッカーラグビー場(同)

・山口県セミナーパーク(同)

上記施設が確保できなかった場合に使用した施設

・長者ヶ原運動公園(山口市)

・椹野川河川敷(同)

・山口市南部運動広場(同)

・防府市陸上競技場(防府市) など

しかし、いくつかの問題点も解決しなければならない。例えば山口市内に住んでいる選手たちが来年も山口市から山陽小野田市までの「通勤」をするのか、それとも引っ越すのかという生活面の問題が当然ながら生じる。また、山口市に縁が深くホームスタジアムも事務所も同市内にあるクラブが、どのようにバランスを取りながら山陽小野田市をはじめホームタウン各市で活動していくか、今年以上に難しい舵取りが求められることになる。

併せてピッチの改善も時間を掛けて行っていきたい。おのだサッカー交流公園は天然芝だが根付きはあまり良くない。芝の管理には専門的な知識や技能、それにノウハウの蓄積が必要だ。優先使用を契機にチームが芝の状況をフィードバックし、ピッチ環境を整えることも一つの役目になる。

レノファ山口FCが「J1クラブライセンス」を取得したことで、クラブ、チーム、サポーター、関係諸機関が一体となってJ1を目指せるようになった。レノファは昨今、試合会場のみならず練習場でも熱心なサポーターの応援があり、クラブやチームの規模よりも、応援熱や地域の盛り上がりのほうが先にJ1に行っているような感じさえする。決して背伸びをする必要はないが、今度はクラブやチーム、そして環境をしっかりとJ1のレベルへと引き上げていきたい。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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