月80時間の残業では「ブラック企業」にならない?

株式会社ディスコが興味深い調査結果を発表した。学生と企業の採用担当者を対象にした、「ブラック企業についての考え」に関するアンケートだ(注1)。調査結果は下記に公表されている。

・株式会社ディスコ「就活生・採用担当者に聞いた「就活ブラック企業」-2014年4月発行」2014年4月25日(こちら

5月5日の毎日新聞の記事「<ブラック企業>学生と企業の認識の差 給与金額で顕著に」(こちら)には紹介されていないが、この調査結果で特に目を引くのが、長時間残業に対する企業側の「寛容さ」だ。

月80時間の残業では「ブラック企業」にならない!?

株式会社ディスコの発表資料から帯グラフを作成すると、企業側と学生側の意識の差は明らかである。

図1は、「1 カ月の残業時間」が何時間を超えたらブラック企業になると思うかを企業と学生に尋ねた結果だ。企業の回答では「100~120時間未満」が34.4%と最多になっている。

株式会社ディスコの発表資料より上西作成
株式会社ディスコの発表資料より上西作成

この帯グラフから分かることは、月80時間の残業ではブラック企業にはならないと考えている企業が、回答企業の4割を超えているということだ。

月80時間の残業は「過労死ライン」

月80時間の残業と言えば、「過労死ライン」の残業時間である(注2)。その過労死ラインの残業でもブラック企業の目安には満たないと考える企業が4割を超えているのだ。

使用者には労働者に対する安全配慮義務があるのだが(労働契約法第5条)、にもかかわらず企業側がこのような認識を示しているということは、恐ろしい事態だと筆者は思うのだが、読者の皆さんはどう思われるだろうか。

前掲の毎日新聞記事には、ディスコの担当者の分析として、

学生は企業研究が足りず現実より厳しく考える傾向がある。ブラック企業を警戒しすぎているかもしれない

出典:毎日新聞5/5記事

というコメントが紹介されている。過労死ラインの残業を学生が警戒するのはしごく当然のことだ。にもかかわらず、それが「企業研究が足りず」「ブラック企業を警戒しすぎている」と評価される。それは異常ではないだろうか。

有給休暇は5日もあれば十分?

有給休暇の取得日数についての目安でも、企業と学生の意識の違いは顕著である。図2に見る通り、企業側の回答ではブラック企業になると思う目安として、年間「0~5日未満」の有給休暇取得日数をあげる割合が54.6%で最多となっている。

株式会社ディスコの発表資料より上西作成
株式会社ディスコの発表資料より上西作成

言い換えれば、年間5日の有給休暇が取得できるなら、「ブラック企業」にはならないと考えている企業が半数を超えているということだ。労働者は、半年間継続して雇われていて、全労働日の8割以上を出勤していれば、10日間の年次有給休暇を取ることができるのだが(注3)、そのような権利を保障する必要はないというのが大半の企業の採用担当者の見解のようだ。

学生は「まともな働き方」を求めている

「ブラック企業」を不安に思う学生が増えていることに対し、学生が過剰に警戒している、とみる論調がある。しかし株式会社ディスコのこの調査結果を見る限りでは、多くの学生は「まともな働き方」を求めているに過ぎない。学生が「ブラック企業を警戒しすぎている」というのは、長時間労働を是正できずにいる企業側の責任転嫁ではないのか。

企業の中には、残業をできるだけなくそうと努力している企業もあれば、深夜までの残業が常態化している企業もある。それぞれの企業の労働時間の実態は、なかなか見えにくいが、学生には、率直に話が聞けるOBを見つけるなどして、実態を探ってほしい。企業側には、この調査結果を謙虚に受け止めてほしいと願う。

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(注1)株式会社ディスコが公表している調査概要によると、「採用活動に関する企業調査」の回答者数は、全国の主要企業1,006社であり、内訳は「~299人」が420社、「300~999人」が375社、「1000人以上」が211社である。

(注2)厚生労働省は、過労死について、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」としており、ここから月80時間の時間外労働が一般に「過労死ライン」ととらえられている。厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定―「過労死」と労災保険」こちら参照。

(注3)さらに勤続年数が増えると、労働者は最長20日間の有給休暇を取得できる。詳しくは、厚生労働省「有給休暇ハンドブック」こちら参照。