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ヤンキースが田中将大を復帰させ、消化試合であっても投げさせる理由

宇根夏樹ベースボール・ライター

もうすぐ、田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)がメジャーリーグのマウンドに帰ってくる。これを書いている時点で、試合開始まで12時間もない。9月21日、ヤンキー・スタジアム。相手は同じア・リーグ東地区のトロント・ブルージェイズだ。この登板で肘に問題が出なければ、ヤンキースにワイルドカードの可能性が残っているかどうかにかかわらず、レギュラーシーズンが終わるまでに、もう1登板する予定だという。

なぜ、消化試合になっても田中は投げるのか。すでにア・リーグ東地区ではボルティモア・オリオールズが地区優勝を決めていて、ヤンキースは残り8試合でワイルドカードの2番手に4.5ゲーム差をつけられている。

2014年の後半戦にヤンキースで10先発以上した4投手のうち、新人のシェーン・グリーンを除く、黒田博樹ブランドン・マッカーシークリス・キャピュアーノの3投手は、シーズン終了後に揃ってFAとなる。

田中、黒田とともに開幕時のローテーションにいたCC・サバシアイバン・ノバマイケル・ピネイダの3投手はFAではないが、いずれも故障によって長期離脱した。4月下旬にトミー・ジョン手術を受けたノバは、2015年の開幕には間に合わない。7月下旬に右膝の手術を受けたサバシアは、復帰できても復調できるかに疑問符がつく。2013年の防御率4.78はリーグ・ワースト3位。今夏の手術直前には34歳を迎えた。また、ピネイダはここ3年間、満足に投げられていない。2012年にも肩を故障しており、全休した2012年に続き、2013年もマイナーリーグで40.2イニングを投げたのみだった。

2014年のヤンキースでは他に、デビッド・フェルプスチェイス・ウィットリーエスミル・ロジャースブライアン・ミッチェルビダル・ヌーニョ(7月上旬にマッカーシーとの交換でアリゾナ・ダイヤモンドバックスへ移籍)が先発登板しているが、いずれもメジャーリーグでシーズンを通してローテーションを守った経験はなく、トップ・プロスペクト――こういった評価は外れる場合もままあるが――と見做されていたこともない。これはグリーンも同様だ。マニー・バニュエロスはまだメジャーデビューもしていない。

サバシア、ピネイダ、グリーン、フェルプス……。この顔ぶれでは、田中が戻ってきたとしても、2015年のローテーションは万全ではなく、再契約を含め、FA市場から先発投手を手に入れる必要がある(ヤンキースにはトレードの駒にできる有望株があまりいない)。田中が2015年に投げられないとなれば、なおさらだ。

マックス・シャーザー(デトロイト・タイガース)、ジョン・レスター(オークランド・アスレティックス)、ジェームズ・シールズ(カンザスシティ・ロイヤルズ)をはじめ、オフにFAとなる先発投手は少なくない。フランシスコ・リリアーノ(ピッツバーグ・パイレーツ)やアービン・サンタナ(アトランタ・ブレーブス)、ジェイク・ピービー(サンフランシスコ・ジャイアンツ)もいる。

仮に、田中がトミー・ジョン手術を受けることになっても、そのことが来春のスプリング・トレーニングではなく、2014年のシーズン終了前(あるいは終了直後)にわかれば、ヤンキースは手を打てる。また、早く手術を受ければ、それだけ復帰も早くなる。

一方、田中が2015年に投げられると判明すれば、それだけではローテーションは埋まらないものの、大黒柱ができる。そうなれば、ヤンキースがFAのなかから手に入れるべき先発投手の人数は少なくなるし、エースでなく2~3番手クラスでもよくなる。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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