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開幕1ヵ月でブルワーズが監督を交代。新監督は元捕手ではないが、もう一つの監督のトレンドに乗っている

宇根夏樹ベースボール・ライター

今シーズン最初の監督交代は、マイアミ・マーリンズではなくミルウォーキー・ブルワーズで起きた。ブルワーズは5月3日にロン・レネキー監督を解任し、翌日にクレイグ・カウンセルの就任を発表した。

ブルワーズは5月2~3日に今シーズン初の連勝を記録したものの、勝率.280(7勝18敗)は両リーグ・ワーストだった。また、昨シーズンは4月5日から8月31日まで地区首位をキープしながら、終盤戦の急降下によってワイルドカードも逃した。

監督の途中交代は珍しいことではない。2014年も、3チームの監督がシーズン中に去っていった。そのなかに、今回のような開幕1ヵ月足らずの交代はなかったが、2002年には4チームが、開幕25試合以内に監督を代えた。ブルワーズもその一つ。3勝12敗の時点でデービー・ロープス監督(現ロサンゼルス・ドジャース一塁コーチ)を解任した(デトロイト・タイガースがフィル・ガーナー監督を解任したのはブルワーズより早く、開幕から6連敗した時点だった)。

レネキーは今シーズンが監督5年目だった。2011年よりブルワーズの指揮を執り、通算342勝331敗。就任1年目には地区優勝を果たしている。今年3月には、ブルワーズから2016年の契約オプションを行使されていた。

だが、たとえ複数年契約を交わしていても、監督の座は安泰ではない。2勝12敗で迎えた4月22日の試合前には、本拠地のミラー・パークに姿を見せたオーナーのマーク・アタナシオが、チームの低迷はレネキー監督やダグ・メルビンGMのせいではないと記者たちに語っていたが、こういった発言が出ること自体、監督あるいはGMが「ホット・シート」に座っている――日本語にすれば「尻に火がついている」といったところか――ことを示している。

一方、新監督のカウンセルは初めての采配となる。近年は、カウンセルのように、メジャーリーグでもマイナーリーグでも監督・コーチの経験を持たないまま、メジャーリーグの監督に就任するケースが目につく。現監督では、ロビン・ベンチュラ(シカゴ・ホワイトソックス)、ウォルト・ワイス(コロラド・ロッキーズ)、ブラッド・オースマス(タイガース)、マイク・マシーニー(セントルイス・カーディナルス)がそうだ(ワイスは高校でヘッド・コーチ、オースマスは2013年のWBCでイスラエル・チームの監督を務めたことがある)。A.J.ヒンチ(ヒューストン・アストロズ)も、2009年にアリゾナ・ダイヤモンドバックスの監督に就任した時点では、未経験者だった。

カウンセルは元内野手なので、もう一つの監督のトレンドである「捕手出身」には当てはまらないが、ブルワーズとの縁は深い。彼の父ジョンは、1979~87年にブルワーズのフロント・オフィスで働いていた(選手としてはミネソタ・ツインズ傘下のマイナーリーグ・チームでプレーした)。その息子はミルウォーキーの高校出身。メジャーリーグでプレーした16年間のうち、2004年と2007~11年はブルワーズで過ごした。現在のブルワーズには、ライアン・ブラウンジョナサン・ルクロイカルロス・ゴメスら、カウンセルとチームメイトだった選手も多い。カウンセルは2011年を最後にバットとグラブを置いた後、メルビンGMの下で特別補佐を務めてきた。

監督・コーチの経験がなかった現監督のうち、マシーニーは就任1年目の2012年からチームを3年続けてポストシーズンに導き、オースマスは就任1年目の2013年から2年続けて地区優勝を飾った。監督の手腕がそのまま結果につながるわけではないが、カウンセルは昨オフ、ダイヤモンドバックスの監督候補にも挙がっていた。まずはお手並み拝見といったところだろう。

選手時代のカウンセルは、童顔に迫力を持たせ、6フィート(約183cm)の身体を大きく見せようとするかのように、両足を大きく広げ、バットを高々と持ち上げて構えるフォームこそ特徴的ながら、スーパースターではなかった。規定打席に達したシーズンは3度。現役最終年には、野手では史上最長タイとなる45打数連続の無安打も記録した。

けれども、カウンセルは1997年と2001年にワールドチャンピオン・リングを手にしている。どちらのワールドシリーズでも打率は2割未満だったが、カウンセルは単にチームに居合わせただけではない。マーリンズが優勝した1997年のワールドシリーズ第7戦では、9回裏に同点となる犠牲フライを放ち、延長11回裏はエラーで出塁すると、エドガー・レンテリアのヒットで決勝のホームを踏んだ。ダイヤモンドバックスが優勝した2001年のワールドシリーズ第7戦でも、9回裏にトニー・ウォーマックが同点二塁打を打った直後に、死球で出塁。カウンセルに続いて打席に入ったルイス・ゴンザレスが、優勝を決めるヒットを放った。

1997年のマーリンズも2001年のダイヤモンドバックスも、ワールドチャンピオンは球団史上初めてのことだった。この両チームのどちらにもいた選手は、カウンセルだけだ。ブルワーズは今シーズンが創設47年目だが、ワールドチャンピオンには一度もなっていない。

5月4日、カウンセル監督は初采配で白星を挙げ、幸先の良いスタートを切った。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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